2024年11月19日火曜日

バッティストーニのマーラーに万難を排して馳せ参じるの巻

 ●東京フィルハーモニー交響楽団 第1008回オーチャード定期演奏会


2024年11月17日(日) 15:00開演

会場:Bunkamura オーチャードホール


指揮:アンドレア・バッティストーニ(首席指揮者)

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


マーラー:交響曲第七番


季節外レノ暑サニモ仕事ノ疲労ニモマケズ、この前の日曜はなんとかオーチャード定期に遅刻せず入場し、彼が初めてマーラーの第七番を振る演奏会を聴くことができ、それについて演奏会から数時間後にTwitter(名称をまだあきらめてない)にこのように書いた。


「仕事の関係でギリに当日券買って、終わったらすぐ仕事場行きだったんですけど(無念)、聴きましたよバッティストーニと東京フィルハーモニー交響楽団のマーラー。これ、3日とも聴くのが一番楽しいんじゃあないかなあ。また後で書きます(休憩中につき)。」


まあ、冷静に読み返せば、あまりにも当たり前である。どんな演奏家だろうと同じ演奏が二回と成立することはない以上、誰のどんな演奏にもこんな言い方はあてはまる。また、東京フィルの定期については会場の違う三公演が連続的に行われるので、会場の違い(音響、日程、そして客層)でも違う音楽がその都度生起しているはず、なのだ。オペラなど声があるならBunkamuraが、あえてホールを満たすサウンドを求めてオペラシティが、いやいや王道のサントリーホールでしょうよ、などと考えてどの演奏会に行くべきか、皆それぞれに決めていらっしゃることでもあろう。そんなことはわかっていて、それでもこう書くのには、理由がもちろんある。


アンドレア・バッティストーニは、みなさま御存知の通り、作曲家でもある指揮者だ(さらにチェロも弾く)。その彼がマーラーを演奏することは「作曲家が指揮をすること」について、思いを馳せる最高の機会となりうるだろう、と思っていた。その時代最高の指揮者として活躍したマーラーは、自作を演奏するたび改訂を行った。その意味するところはすなわち、(自ら創り出した)スコアを読み込んだうえでも、リハーサルと公演において実際の音にしていく作業ではまた違う発見があった、ということだろう。バッティストーニがマーラーを指揮するならば、彼自身が意識せずともそのプロセスをたどることになるのでは?と考えていたからこそ(全日程聴くのが正解か)などと、わかっていても実現の難しい、さらには当たり前にしか思われないことを、彼が初めて第七番を演奏するこのシリーズの中日に当たる17日を聴いて、終演後仕事の合間に書いた次第だ。本当は、リハーサルからドキュメンタリーでも作るべきじゃあないのか、とまで強欲な私は思うのだけれど。


この日の演奏を聴いて、前々から感心させられているマエストロの美点に、あらためて何度も何度も感心させられたことをまず書いておきたい。彼の音楽は、その力強さや狂乱にも近づくほどの高揚でより評価を博していると思うけれど、私は最高に自然なコントロールの技と、彼独自の澄み切った音にいつも魅了される。以前に東京フィルと演奏し、録音も残っている「春の祭典」でもそうだったが、彼は変拍子が乱舞する場面でのテンポ変化だろうとオーケストラを迷わせるようなことをしない、確信を持って行くべき道を示す。その技量にこそ、彼が素晴らしいオペラ指揮者たる所以を感じるのだ。この日の演奏では、遅めのテンポで聴き手をじっくりと作品世界に導いた巨大な第一楽章、そして圧倒的な輝きを放つフィナーレに彼の能力の冴えが見えた。特にも終楽章、これはシンプルな主題による華やかな音楽に聞こえるけれど、実際のところは複数のテンポが交互に現れ、時には複数のエピソードが同時に進行しているかのような先行きが見えない構成だ。そんな音楽は、ともすればマーラーによって参照されただろうと主題から察せられる「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第三幕の後半のような祝祭描写にしてしまえば失敗はしないだろう。しかしバッティストーニは、表現豊かな手の指示に加えて、彼独自の"ジャンプとまでは言えないくらいに小さく膝を使うテンポ指示"も駆使して音楽の適切な描きわけを行って、この作品の持つ可能性を開示してみせた。音楽の展開が袋小路に向かうかのような危険な瞬間も"本物の危機"として描いたうえで、さらにそれを乗り越えていく圧倒的な熱狂にまで導いた。お見事。そして二つの夜曲、この音楽からワーグナーより前のロマン派の作品を思わせる世界観を感じさせてくれたのは、彼の導く清澄なサウンドあってのものだろう。それでいて、たとえば第二楽章終盤、交響曲第九番の一楽章の終わりに先駆するようなセクションではその響きの独自性を際立たせるし、二つ目の夜曲で導入されているギター、マンドリンを魅力的に響かせる耳の良さは流石、と言うしかない。


そしてようやく「3日とも聴くべき」なのか、という話になる。この日オーチャードホールに響いた音楽は、オペラシティのよく響く残響の中で聴くものとは全く別のものだったろう、初台は初日でもあったし。初日ゆえの緊張感からしか聴き取れないものは必ずあるし、飽和しかねない響きと静謐のコントラストがきっとあの日の演奏にはあっただろう。企図されたもの、実際に出てきたもの、演奏する側がそれをどうしようとしているのか、その成否は。初日にあっただろうそれらの経験を踏まえて、彼ら彼女らはBunkamuraで二回目の演奏を披露してくれて、私は上記のように楽しんだわけである。東京フィルはホームとしているこのホールを一番うまく使えるオーケストラだから、この会場で時々感じてしまうこともある広さに対する不満のようなものは感じさせなかった。先ほども触れたがギターもマンドリンもちゃんと楽しめたし、その一方でフィナーレで鐘が乱打され管弦が絶叫していても混濁はさせない、さすがのフランチャイズ・オーケストラであった(実は私は東京フィルに関する限り、オーチャードホールでの演奏をお勧めしたい)。そして19日に行われるサントリーホールでの1009回定期、ここまでの二回の演奏を踏まえてより洗練もされるだろうし、さらに掘り下げた表現も追求されるものと思う。こうして音楽が変わっていくその変遷の中にこそ、きっとグスタフ・マーラーが作品を最終的な姿に仕上げていくプロセスが見える、はず。三公演中日の演奏を聴いて、仕事場に移動して休憩中の私の舌足らずを補足するとこうなりました。話が長くて申し訳ない。


東京フィルの輪郭の明確な力強いサウンドは、かつて取材なども含めて聴かせていただいた頃と変わらぬ安定感のあるもので、このタフな作品を最後まで輝かしく聴かせてくれた。特筆しておきたいのは、やはりホルンであろうか。ここまで出ずっぱりに近く、それでいて力強いサウンドをこのホールに響かせきることができるセクションとしての仕事ぶりに大いに感服した(趣味でこの楽器を吹くようになってから聴くと、もはや超人的とすら感じるパワーである。どうすればあの領域にたどり着くものか…)。あと一人感銘を受けたプレイヤーを挙げるなら、クラリネット首席のアレッサンドロ・ベヴェラリの、音楽的に多彩な表現を高く評価したい。ときに木管セクションのまとまりを、またときにはトランペットのエコーとして、そして牧歌的であったり鳥の鳴き声であったりとマーラーらしい多彩な楽器法の要求に存分に応え、常にそれ以上を提案し続けた彼に大きな拍手を送って、仕事のため喝采収まらぬ会場をあとにしたのだった。

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最後に余談。実は私、かつてインタヴューをさせていただいた際に、恥知らずにも「マエストロのマーラー聴きたいなー、五~七番あたりが良いですあなたの音にすっごく合うと思うので」とおねだりをしたことがある。こんな口調ではないけれど。そんなやり取りのことはマエストロが覚えていないことを願う(笑)けれど、東京フィルとの最初期の第一番のあと、新宿文化センターでの第八番に続いたのは録音もリリースされている第五番、そして今回の第七番なので、ここまでのところでも願望は2/3までかなってしまったのだった。本人の話では、まだ第六番については取り上げないようなので、それは先々の夢と思って待つことにしたい。きっとね、アンダンテ楽章の美しさと、終楽章の苛烈な展開に圧倒されることになると思うんだよね(うっとり)。バッティストーニの角笛交響曲も聴きたいけれど、早く交響曲第六番が聴ける日が訪れますように。ではこのあたりにて、ごきげんよう。

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あとおまけにもう一つ情報を。当初はこの三回のあと、すぐに新潟県は長岡市で本作を取り上げる予定があったバッティストーニと東京フィルですが、コンサートの日程が来年の1月18日に変更された、とのこと。プログラムは変更なし、ということですから、これはむしろ好機なのでは?今回の三度の演奏会を踏まえて、スコアに改めて取り組んで再演するんだからまた違ういいものになるに決まってますもの。長岡ってどうやって行くのかなあ…(大人なんだから自分で調べましょう)

2024年1月3日水曜日

「Maestro」見ました

 近所の劇場での公開を待ちきれず、電車でちょっと行ったところの、音のいいことに定評のある映画館さんで見てまいりました、「Maestro」、邦題「マエストロ :その音楽と愛と」。もちろん、このタイトルは直接にはご存知レナード・バーンスタインその人を指すわけだけれど、この映画の内容はフェリシアさんの「女の愛と生涯」ですね。それもいわくつきの、だけど最高の才能、レナード・バーンスタインを愛して結婚し(てしまっ)た女の生涯。そして、レナード・バーンスタインへの「魚に説教する聖アントニウス」。ご覧になられたクラシック音楽好きの方向けの表現ではありますが、あまり説明する気にはなれません。ご容赦ください。


まず、私はバーンスタインに甚大な影響を受けているし、心底尊敬している、ということをまず最初に書いておかないといけないのです。彼の指揮姿をたくさん見て(当時はLD!!)、それでアマチュアながら吹奏楽の指揮をするようになってしまったくらいには、彼に影響されました。生まれが遅かったから彼と個人的に関わる機会もなければ、実演を聴くことさえできませんでしたが、彼は私の先生です。こう断言できます。

そのうえで、言わないといけない。とにかく面倒くさい人なんですよ、レナード・バーンスタイン氏は。才能と魅力がダダ漏れで、しかし抜けてるしなにかゆるい。若き日に指揮者として大活躍の鳥羽口に立つ機会を得ても、ミュージカルで当たりがあっても、妻がいて家族もいるのにボーイフレンドがいて、それでも満ち足りることのない、巨大すぎる器の人。そんな大成功に至る才能に満ちた人が、自らの方向に、内面には自信を持ってないんだからほんとうに扱いに困る。ここの文に(笑)ってつけようかと思ったけれど、きっと近しい人たちは彼との関わりの中でこの上なく楽しい思いをした反面で、凄く苦労されたんだろうな、と、彼についての本を読むだけでも感じていたのです。その在り様が、この映画では嫌になるくらい映像化されていまして。いちおう、何十年来のファンなので、こうしてフェリシアさん視点で彼女が先立つ1978年頃までのバーンスタインと、その後を見せられるのはなんとも、重い。少なくとも、ファンとしては知っていても考えたいことではないもので。そういうところがある人、とよーくわかってるんですけどね。レニーの娘さん、ジェイミーの幼少期じゃあいられない大人の私たちは見なかったことにはできない。本当にね、面倒くさい人、そして最高の音楽家。んもう。

彼が亡くなる数ヶ月前のPMF、このリハーサルの放送を見て感銘を受けていなかったら、多分違う人生を送っただろう、そう思うくらいには影響を受けている自覚があります。


映画の大前提として、彼が最高の音楽家であったことは共通認識となっている、だがこの映画「Maestro」はそれが評伝として、成功した音楽家のキャリアが描かれる作品、ではないのです。グレン・ミラーやベニー・グッドマン、レッド・ニコルズの映画を見るような期待感で劇場に足を運んだり、再生ボタンを押すのは、お勧めしません。人によっては、昔出版されたジョーン・パイザーによる評伝を読んだ時に近い反応を示されることもあるんだろう、と思っています。そんな反応を呼ぶのもまた仕方のない、厄介さんなんです、レニーさんは。それでも、と繰り返すけれど、本当に才能があるし音楽家として本当に努力された人であり、一般的な言い方をするなら間違いなく20世紀最大の音楽家の一人、成功者です。日本では今、かつて大手芸能事務所を率いた人が生前行ったあれこれ(曖昧)で問題視されているけれど、人によっては彼をその同類と見てしまうんだろうな、とも覚悟している、別に私は関係者でもなんでもないのだけれど…それでも、とまた言わないといけない。そういう人を愛して、生涯その「バス」を降りなかった、フェリシアさんの生き方を、そして彼女の目に映るレニーさんを、描いた映画でした。(この記事、実は続きます)

2020年10月12日月曜日

NHK「ベートーベン250」プロジェクト 放送予定(2020年10月・作業中)

こんにちは。千葉です。

10月も数々の番組でベートーヴェンな公共放送、以下にリスト(と気が向いたらコメント)を。進行形で追加していきますので、出遅れた点はご容赦を…

●クラシックカフェ ベートーベン特集(9) 10/1 NHK FM


●第89回日本音楽コンクール 最終予選 10/12~16 NHK FM(うち、ベートーヴェン演奏は10/12、15のみ)

●クラシックカフェ 「ブルックナーの交響曲第9番他」 10/14 NHK FM

●クラシック倶楽部 デニス・マツーエフ ピアノ・リサイタル(10/14)、福間洸太朗 ベートーベンを弾く(10/15)

●ららら♪クラシック 「Road to ベートーベン4 オペラ 不変のメッセージ」 10/16 Eテレ

ここまでの三回は再放送でお送りしてきた「Road to ベートーベン」、新作にして稲垣吾郎さん出演回なのでどうぞご覧ください。…例によって配信ないかもなので、念のため録画など各位ご準備くださいませ。

●クラシックの迷宮 「歌えば、天国!」 10/17 NHK FM

●クラシック音楽館 「ベートーベン特集(2) 革命の作曲家 ベートーベン」 10/18 Eテレ

●プレミアムシアター 「ルツェルン音楽祭2020 ほか」 BSプレミアム 10/18


2020年9月19日土曜日

NHK「ベートーベン250」プロジェクト 放送予定(2020年9月)

 こんにちは。千葉です。

昨日の開幕特番の放送を見て、かなりの番組を使った一大企画だと理解できたNHKの「ベートーベン250」プロジェクト。そういえば昨日の昼にこんなのも放送してましたよ、ええ(残念ながらNHKプラスでの配信はなかった)。
なのですが、今のところその情報をまとめたものがこの「アンバサダーに稲垣吾郎さん!」の記事しかない。今放送している「土曜スタジオパーク」でも番組を紹介しているけれど、私がほしいのは端的に番組情報なんだよ!

と、ないものをただねだっても不毛なので、サクッとまとめてみることにしました。
なお、番組名は放送局表記に従って「ベートーベン」、自分の言葉で書いている部分は「ベートーヴェン」と表記が混在しますがそこはご容赦ください。
さらに、「名曲アルバム」「名曲アルバムプラス」「名曲スケッチ」については割愛します。放送予定はリンク先をご覧ください。
イヴェントなどの告知もここに入れておきます。

●「オーケストラでつなぐ 希望のシンフォニー」
すでに最初の演奏会は終わってしまっていますけれど、国内各地のアンサンブルがベートーヴェンの交響曲+αの演奏を披露する機会を公開収録、後日放送する一連のプロジェクトです。

●「あなたが選ぶベートーベン・ベスト10」
(もしかするとここが本体サイトなのか?)とも思いますが、体裁としては「ベートーベン250」プロジェクトのいち企画であるベスト10の投票ページ、です。11/16までの期間内に、3曲までを選んで投票してください(と公共放送様が申しております)。

なお。お前の更新なんて待っていられるか!俺は自分の部屋に戻る!(それ違う)という方はNHKオンラインの検索窓に「ベートーベン」と入れて、放送予定を確認していただくほうが早いでしょう、当然のことですが。4K8Kは別途確認が必要ですので注意してくださいね(豆知識)。
ではおことわりはここまで。

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●ベートーベン250開幕特番「今こそベートーベン!」 9/18(金) 21:30~/9/19(土) 15:35~ どちらもEテレ

視聴済みなのでかんたんにコメントを。ベートーヴェン役を演じたことでも知られる稲垣吾郎さんが、作曲家として尊敬しかつ指揮者としてフューチャー・オーケストラ・クラシックスと交響曲全集を録音した久石譲さんとそれぞれの視点から語るベートーヴェン像は、学究的ではないけれど広く伝わるものだったのかな、と。NHKプラスでの配信がないのは残念でしたが、舞台映像を豊富に使った結果なのかなあ…とかこの辺はちょっと歯がゆいです。

●名演奏ライブラリー ▽ウィーンの名ピアニスト パウル・バドゥラ・スコダ 9/20(日) 9:00~ NHK FM

番組ではスコダがフォルテピアノで演奏したベートーヴェンのピアノ・ソナタ第九番 Op.14-1が放送されます。

●×(かける)クラシック ▽第19駅 グルメ×クラシック(3) 9/20(日) 14:00~/9/21(月) 7:25~ NHK FM

放送予定曲にはベートーヴェンはなく、平野レミさんのお話でベートーヴェンの話題が出る模様。そうそう、最近聴くようになった「ディスカバー・ビートルズ」、月末担当はレミさんのお子さんだし(←言い方!トライセラトップスのヴォーカル、和田昌と紹介しましょう)、その奥方は最近再放送されているらしい某ドラマの野田恵さんですよね。うん、ご縁ありそう。

●クラシック音楽館 ベートーベン特集(1) 人間・ベートーベン 9/20(日) 21:00~ Eテレ

稲垣吾郎さん出演の「クラシック音楽館」。ちょっと自分で書いてみて不思議な違和感がありますね(笑)。
「交響曲第3番を題材に」というその内容を番組表からチェックすると、マリス・ヤンソンスが東京で披露したバイエルン放送交響楽団とのチクルスからの映像を軸にピアノ曲もはさみつつ「人間・ベートーベン」を紐解く内容になる模様です。
なお、稲垣吾郎さん出演の「クラシック音楽館」は三回の予定です。


●クラシック倶楽部 西村尚也&アンドレア・バッケッティ デュオリサイタル 9/22(火・祝) 5:00~ BSP

東海中学校・高等学校講堂で収録」とあったので一瞬(学校コンサートかな)なんて思ったのですがさにあらず。登録文化財の昭和初期建築なのだとか。勉強になりました。
番組ではヴァイオリン・ソナタ第五番、いわゆる「春」が放送されます。


●まろのSP日記 第23集 ベートーベン特集 9/22(火・祝) 9:05~ NHK ラジオ第一

気象情報、ニュースをはさみながら午前中をまるまる使って放送されるあたりに、我らが放送交響楽団の偉容を見ました(嘘です)。実はこの日、昼からは「今日は一日ショパン三昧」で、その後にはいつものように「ベストオブクラシック」(選でタリス・スコラーズの演奏会)と、クラシック三昧のNHK FMなのでした。
ちなみに「三昧」、司会に林田理沙アナウンサーのお名前がありますね…テレビのクラシック音楽番組への登板が待たれる彼女の大仕事、お時間ある方はぜひ。

「三昧」には川口成彦さん、反田恭平さんも出演されます(そっちを告知しようよ私…ってか本筋…まろさんごめんなさい)。

●クラシックカフェ  ▽ベートーベンのピアノ・ソナタ「月光」他 9/23(水) 14:00~ /10/1(木) 7:25~ NHK FM
おなじみの二時間番組、前半がハイドンからベートーヴェンへ、そして後半がドビュッシーとブリテンという二部的な構成のようです。ベートーヴェン作品はコヴァセヴィチによるソナタ Op.27-2です。


BS8Kなんてどこで見られるんだ!というお気持ちの方もいらっしゃるかとは思いますが、NHKの施設などで受信公開をしていますので、お近くなら、時間の都合がつくなら、どうでしょうか(強くは押せない)。
この演奏は全集収録の時期のもの、BS8K放送開始以来のおなじみコンテンツですね。

ベストセレクションじゃないんですベトセレクションなんです。ベトさんメイン回を以下三回のセレクションとして放送、なのです。わかる方にだけ伝わってください(笑)。

9月9日(水)「闇、その向こう」/9月16日(水)「ちがいのわかるおとこ」/9月23日(水) 「宇宙からのアンコール」


三か月かけてワンテーマを掘り下げる「カルチャーラジオ」、このテーマでは平野昭先生が出演されています。納得。
…ただし、7月からシリーズが始まっていますのでこの番組はもうゴールが近いのです。一週間のみではありますが聴き逃し配信も利用できますので、よろしければぜひ。


数少ない今年の収録映像、英国ロイヤル・オペラの「フィデリオ」もBS8Kで放送されます。
なお、このオペラハウスのことなので、上演作についてはYouTubeでもたくさん発信してくれていますよ、例によって。


●ららら♪クラシック 「Road to ベートーベン(1) 楽聖を育てた街 ウィーン」 9/25(金) 21:00~ /(木) 10:25~ Eテレ(再放送情報は未確認)

こちらの番組では四回シリーズでRoad to ベートーヴェン再放送。ここでも平野先生、また納得。です。


再放送ではありますが、シカゴ交響楽団からベルリン・フィルへと華麗すぎる飛躍を決めたフルーティストのリサイタル。ベートーヴェンの作品はアンコールで一曲だけ、ですけど(笑)。


先日「クラシック音楽館」でも一部放送されたこの「第九」も放送開始以来の推しコンテンツ、に感じますね。ユニテルがヴィデオではなくフィルム収録してくれたおかげで、その映像が本来の持つポテンシャルを知る機会が今訪れている、わけですね。そう考える私はこの高精細化には賛成しています。でも、当たり外れはあるかな…(カラヤン美学は恩恵が少なかった、と感じました)

一気に9月分を拾ってみましたが、これを通しでやったら駄目ですね、記事長すぎ。まずは9月分としてこれを公開しておきます。ではまた。

2020年7月15日水曜日

かってに予告編 ~東京フィルハーモニー交響楽団 7月定期演奏会

●東京フィルハーモニー交響楽団 7月定期演奏会

2020年7月
  15日(水) 19:00開演 会場:サントリーホール 大ホール
  17日(金) 19:00開演 会場:東京オペラシティ コンサートホール
  19日(日) 15:00開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール

指揮:佐渡裕
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ベートーヴェン:
  「コリオラン」序曲
  交響曲第七番 イ長調 Op.92

6月になって、東京フィルハーモニー交響楽団はようやく演奏会を開催できた。都のガイドラインによる制約から来場者を減らし、また来日不可能のため指揮者を変更し、それらに伴ってプログラムを変更し、という困難を乗り越えての演奏会の模様は、MBS系列で放送された「情熱大陸」でご覧になった方も多かったことと思う。
…使われなかったようなのでここで書いておくけれど、オペラシティでの公演の後来場者としてコメントを求められた私は「このような素晴らしいことができる楽団に舞台がないのは不幸なことだし、それを私たちが楽しめないのも本当に不幸なことだ」「以前とは違う状況だけれど、なんとかやっていけるようにできることをして共に音楽を続けたい」といった話を求められるままにしました。(ニュースのヒマネタなら数秒しか使えないだろうに、ずいぶんと聞き出すなあ)と思いながら答えた映像が世界に流れなくてよかった(いや大事なのはそこじゃない)。

さて。昨今は「禍福はあざなえる縄の如し」と思わされることばかりで、いいニュースには必ずと言っていいほどに残念なお知らせもついてくる。6月の定期に来場した方はもれなく見ただろう東京フィルの今後の定期演奏会の内容変更は、演奏会の再開を手放しで喜んでばかりもいられない、そんな気持ちも同時に喚起した。これを書いている今日、さらに残念なことに8月定期として開催予定だった定期演奏会(本来は今年3月予定)の中止も発表されている。つまり、プレトニョフと東京フィルによる演奏会は2020年には行われない。「わが祖国」全曲演奏会自体は2021年3月に再延期されるわけだが、これでまた一つの舞台が失われたことが惜しまれる。
(ここの部分、本当にわかりにくい書き方で申し訳ないのだけれど、このわかりにくさが今の状況なのだと思ってもらいたくてつい)

定期演奏会の改組は残念なお知らせだけれど、それを経なければ前に進めない、そんな困難な前提と向き合うのが2020年の現実なのだ、とうそぶいて深呼吸して、あらためて明るいニュースである開催される7月定期に目を向けよう。

本来なら4月に意欲的なバーンスタイン・プログラムで登場するはずだった佐渡裕が、この困難の中で東京フィルの指揮台に帰ってくることになった。演奏時間こそ長くはなかったけれど、さすがに舞台転換に声楽に、と今はまだクリアできない条件を伴ったそのプログラムは披露されない(いつの日か実現されますように)。その代わりに、生誕250年を迎えたベートーヴェンの二曲による約一時間のプログラムで定期演奏会は開催される。悲劇的な序曲、そして舞踏の高揚を窮め尽くす交響曲、佐渡裕と東京フィルはどう聴かせてくれるだろうか。今や希少な機会となった演奏会、好演を期待したい。

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今回も都のガイドラインに従っているため、短めの演奏時間に加え来場者を絞っての開催となるため、聴きたくても聴きに行けない、という方が多いだろうことは本当に残念なことだし、また、最近になっての感染拡大に見える状況も心配だ(心配と自衛くらいしか、一個人にはできないのが歯がゆい)。
そんなご時世なのだから、行き帰りも含めて十分な配慮をして、事後にもトラブルなく演奏会が成功裏に終わるよう努める。皆様御存知の通り、”新しい時代”の演奏会の聴衆にはこの配慮が求められています。状況は厳しいですけれどやれることをしましょう、そして音楽がライヴで聴ける可能性をつなぎましょう。以上、最後の段はただの聴き手の私からのお願いでした。

2020年6月23日火曜日

公演再開のためのキープディスタンス・エクスペリエンス 資料編

こんにちは。千葉です。

先般ミューザ川崎シンフォニーホールで開催された「公演再開のための キープディスタンスコンサート」について、オペラ・エクスプレス様に寄稿しています。よろしければご覧ください、あわせてミューザ川崎シンフォニーホールのサイトもご覧になるのがよりよい見方ではないかな、と思います。
中川英二郎氏は、本来なら今月はこのランチタイムコンサートに加えて「スライド・モンスターズ」のツアーでもミューザ川崎シンフォニーホールに登場する予定でした。来年に延期となってしまいましたけれど、様々なアンサンブルでそれぞれに個性的なサウンドを聴かせる中川英二郎氏の帰還を、楽しみに待ちたいと思います。



さてこの日の試演会、ミューザ川崎シンフォニーホールはどのような準備をして臨んだのかと気になる方も少なくないのでは、と想像します。そこで、私が会場で思いつくままに撮った写真を以下に貼ります。ご参考になりましたら幸いです。
(今後、テキストは更新予定です)

まずは入場前。

奴らは相変わらずチャラい。それがむしろ安心感を誘うのはなんでしょうね(笑)。ちなみにヴィジュアル下部のMASK、これは「Music Aventure Summer Kawasaki」です。ぜひお見知りおきを。

そしてホワイエ。

ベンチも間を空けて使うよう案内があります。
客席に入るとこんな感じです。

一席空けて座るよう案内してあり、この紙は下の写真のように貼られていました。この日は2ブロックしか使っていませんが、全体ともなるとけっこうな作業です。

さらに場内を巡回している案内の方は、これを示して歩いていました。

いろいろ変わってはいるけれど、ステージはいつものミューザ川崎シンフォニーホール。帰ってきました。

この写真でもピアニストとバンジョーの席が離れているのがわかりますし、トロンボーンのスタンド近くには水抜き用の受け皿(状のもの)が見て取れます。
なおここで一応書いておきますが、一般に「つば抜き」と言われがちな管楽器の水抜きですが、あれはほとんどは結露による水滴ですね。この日も中川氏は演奏開始前、つまり音を出していない時間帯に結露した水分を排出していることがよくわかりました。

さて終演後の意見交換会の模様から。一枚目に指写っててごめんなさい(笑)。


終演後のトリオからもコメント。聴衆の前で演奏できてうれしい、とのお言葉がありましたがこちらこそ「目の前で演奏してもらえて、それに拍手が贈れて本当にうれしい」と強く感じましたよ。

ロビーにはこんな掲示が。ミューザ川崎シンフォニーホールのホームページにあるもの同様とは思いますがご参考まで。

チラシ掲示のところでは、公演の度重なる変更にこのような形で対応していました。

以上がこの日私が気づいた諸々のこと、でした。ヤツも皆さんの来場を待っていると思います。状況が整った方から、十分な準備をした上で会いに行ってやってくださいませ。
最後に。
ビルも少々さま変わり。スポーツ用品店が撤退したスペースは、今こうなってます。

でかいコンビニです。次回来場の際にご活用ください。

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では失礼して、ミューザ川崎シンフォニーホールの新たな船出に乾杯(お酒飲みたいだけ)。また会場でお会いしましょう。

2020年6月21日日曜日

かってに予告編 ~東京フィルハーモニー交響楽団 6月定期演奏会

●東京フィルハーモニー交響楽団 6月定期演奏会

2020年6月
  21日(日)15:00開演 会場:Bunkamura オーチャードホール
  22日(月)19:00開演 会場:東京オペラシティコンサートホール
  24日(水)19:00開演 会場:サントリーホール 大ホール

指揮:渡邊一正(東京フィル・レジデントコンダクター)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ロッシーニ:歌劇「セビリアの理髪師」序曲
ドヴォルザーク:交響曲第九番 ホ短調 Op.95 『新世界より』

※当初予定のミハイル・プレトニョフ指揮による公演から内容が変更されました

私が東京フィルの公演について、恒例の「かってに予告編」を書くのもほぼ四ヶ月ぶりだ。基本的に聴きに行く予定のコンサートについて、自主的に(きれいな言い方)ご紹介させていただくものだから、要はあのチョン・ミョンフンとの「カルメン」から東京フィルの公演に行けていない、というわけだ。
そのコンサートからの遠ざかりが自分由来であれば仕方のないことだ、実際に地方に住んでいた時期にはコンサートなんてまったく行けなかった。それでも、数多くの演奏会が開かれているのであればいつか放送なり録音なりで触れる機会も出てくるだろう、そう思って耐えることもできた。しかし2020年前半のこの空白はそうではない。日本一多忙な、とも言われる東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会が、まったくなかったのだ。3月に予定されていたプレトニョフとの「わが祖国」は8月に延期開催される予定だが、4月に予定されていた佐渡裕によるバーンスタイン・プログラムは公演中止となった。演奏機会が本当に希少な作品を取り上げるはずだったのに。

そしてこの6月定期も、プレトニョフとの演奏会のはずのところ、マエストロ来日不可能のため、またCovid-19対応のガイドラインに沿った形への変更を行った上でなんとか開催される運びとなったわけである。その経緯や対応については、オーケストラからのお知らせを見てほしい。

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ここで私は「自分が伺う予定の定期演奏会」の話しかしていないから、「公演の空白と言っても3月と4月の二つだけ」のように見えてしまったなら、それは大変に申し訳ないが誤解だ。「日本一多忙な」と言われる東京フィルは伊達にそう呼ばれているわけではなく、自身の主催公演に加えてバレエやオペラでの演奏、そして数多くの委託公演に参加しているのだから。皆様も最近よく目にする、アーティストやコンテンツの名を冠した「オーケストラ・コンサート」「シネマコンサート」の存在はご存知だろう、それらの数多くに登場する東京フィルハーモニー交響楽団がこの4ヶ月の間に失った公演の数は相当のものだろうと、聞くまでもなく容易に想像がつく。その影響を直視するのが憚られて、調べることさえも気後れする。
その間に私にできたのはせいぜいが首席指揮者アンドレア・バッティストーニとの新譜「幻想交響曲/舞楽」をダウンロードすることくらいだったので、その無力感たるや。いやそんなことより、音楽の可能性を開花させる機会を奪われた音楽家の皆様の胸中如何ばかりか、そして演奏団体の存続は大丈夫なのか。心配しかできないのがもう、なんとも…


新譜レヴュー、近日お出しします。筆が遅くて申し訳ない。
現時点では「良い録音でこれらの作品が聴けることは幸いである、そしてこれが日本のオーケストラによるものなのだからますます喜ばしい」とのみ。

湿っぽい話が長くて申し訳ありません。この機会を逃すとこの話をしておくタイミングがないのです。演奏活動が部分的にではあっても再開されるから、やっとこの話ができる。私はそう考えています。
幸いなことに、これまでに世界各地の演奏団体の試みが報告されており、合奏については比較的安全に実施できそうな見通しがあるように私見している※。国からの緊急事態宣言が解除された今、演奏会を開くのは自然なことだ。なにせ音楽家には演奏したい思いがありそのための高度に専門的な能力がある。そして私たち聴き手もいつまでも再生環境に左右される配信で満足してはいられない。目の前で生まれる音に出会うために演奏会に足を運ぶことの楽しさを知ってしまえば、演奏会が開かれていない日々がこれ以上続くことを受け入れられましょうか。

※声楽、とくに合唱については東京二期会が7月に演奏会を行うという朗報もあったけれど、ポジティヴな見通しを否定する情報もあり、私については判断を留保させていただきたい。

上述のとおり、演奏会は予定を変更して開催される。プレトニョフが来られない以上、シチェドリンによる「カルメン」とチャイコフスキーの組曲という、彼独自のプログラムは変えるしかないことを残念に思う気持ちがないわけではないけれど、活動再開にあたってこの変更はありなのではないか、とも感じる。かつてないほどの空白を埋めるのに、気心の知れたマエストロを招くのは自然なことだ。そして曲目を見れば、冒頭はオペラを得意とする東京フィルからの久しぶりのご挨拶であり、劇場への愛を示す「セビリアの理髪師」序曲。そして変わってしまった新しい世界への第一歩としてのドヴォルザークの交響曲。うん、いいと思います。

それは私だって「新世界」がアメリカ合衆国を指すことやら民謡や音階を部分的に採用していること等など、もちろん存じておりますが(あやしい)、創作を終えて作者からも時代からも独立した作品にはこういうめぐり合わせの妙、よくあるものです。今このときに体験することでこういう感じ方をする(してしまう)のが受容する側に与えられた自由のひとつなのだから、そこは積極的に楽しめる方を選ぼう、私のスタンスはそういう傾向がありますね…(今気づいたのか)。私のことはさておいて。
いよいよ、6/21から東京フィルハーモニー交響楽団は演奏会を再開します。この日付を埋められる日が来たことを喜び、今度は再びの空白とならぬことをお祈りして本稿を終えましょう。

そうそう、Covid-19の流行のあと、演奏会は音楽家と主催者と、そして聴衆が協力しないと実施すら難しい時代になりました。来場予定の皆様は、必ず団からの対策案内を熟読して、体調に気をつけて会場に向かいましょうね。私からもお願いします。


こうした活動もぜひご覧ください。