2019年7月31日水曜日

かってに予告篇 〜フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 Day6

●洗足学園音楽大学

2019年8月1日(木) 18:30開演

指揮:秋山和慶(洗足学園音楽大学 芸術監督)
バレエ:牧阿佐美バレヱ団 谷桃子バレエ団 東京シティ・バレエ団 洗足学園音楽大学バレエコース学生
管弦楽:洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団

プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」 組曲から (牧阿佐美バレヱ団クラス+牧阿佐美バレヱ団)
プロコフィエフ:バレエ音楽「シンデレラ」組曲から (谷桃子バレエ団クラス+谷桃子バレエ団)
ハチャトゥリアン:「仮面舞踏会」組曲から (グローバルクラス+東京シティ・バレエ団)
ハチャトゥリアン:バレエ音楽「ガイーヌ」 組曲から (グローバルクラス+東京シティ・バレエ団)

川崎市には、毎年多くの才能を輩出する音楽大学が二つもある。ひとつが新百合ヶ丘(麻生区)にキャンパスを持つ昭和音楽大学、そしてもうひとつがこの日登場する、溝の口(高津区)にキャンパスを持つ洗足学園音楽大学である。フェスタサマーミューザKAWASAKIは川崎市の夏祭り、そしてこどもフェスタなどアウトリーチ企画も用意されたイヴェントなので、彼ら彼女らが登場するのは当然なのである。

洗足学園音楽大学の特徴は、その幅広いコースだろう。単に音楽家のみを養成するところではなく、「創造性と人間性豊かな人材を育成します。」と幅広い視点からの人材育成ができるところが強みなのだろう。舞台全般のコースがあることももちろんその幅広さを示すものだが、ただ「音楽」と言っても「声優アニメソング」コースまであるのだから、洗足学園音楽大学、ただものではない。

それはさておいて、サマーミューザの話だ。洗足学園音楽大学には舞台芸術のひとつとしてバレエコースがあり、その学生たちとオーケストラ、そしてプロとして活躍している”先輩”たちの共演は、今やフェスタサマーミューザの”定番”となっている。その舞台を毎年楽しみにしているファンも多く、今年もプロコフィエフとハチャトゥリアンの名作を披露してくれる。
…とはいえ、いつものミューザの明るい舞台がどのようにバレエのステージに変貌するものか、言葉だけではなんとも伝えにくい。だが幸いなことに、洗足学園音楽大学はYouTubeのチャンネルでその演奏活動を配信してくれており、その中には2017年にフェスタサマーミューザKAWASAKIに登場した際の「だったん人の踊り」もあった。ありがたいことである。
まずはこの、普段はミューザの明るいステージがバレエの神秘的な舞台に変貌した様をご覧いただいて、今からでも日程が合えばぜひ、会場で体験してみてほしい。



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せっかくなので、フェスタサマーミューザとは関係ありませんが洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団の演奏もお聴きいただきましょう。数年前のものではありますが、あまり演奏されないレイフ・ヴォーン・ウィリアムズのテューバ協奏曲を、次田心平のソロで。


この他にも高名な指揮者、独奏者など共演者にも恵まれた学生さんたちの演奏活動の数々は公式チャンネルで確認できます。

2019年7月30日火曜日

かってに予告篇 〜フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 Day5

●読売日本交響楽団

2019年7月31日(水) 19:00開演

指揮:井上道義
管弦楽:読売日本交響楽団

ブルックナー:交響曲第八番 ハ短調 (ノヴァーク版第二稿 1890年版)

サマーミューザも好天の中(と空元気で言っておこう)、五日めを迎える。東響、新日本フィル、都響、神奈川フィルに続いてこの日は読売日本交響楽団が登場する。指揮は最近共演を重ねる井上道義だ。

井上道義が読響とお祭りに登場するにあたって用意するプログラムは何なのか?大いに気になるその答えは、「ブルックナーの第八番、一曲のみ」というものだった。ショスタコーヴィチに注力し、マーラーを得意とし、邦人作品を積極的に取り上げ…そんなイメージがあるものだから、この選曲はちょっとした驚きをもたらした。交響曲第八番はブルックナーの交響曲の中でも最大規模の重厚な作品で、サマーミューザがいくら進化を遂げていても取り上げられるイメージがなかったこともある。

だがしかし冷静に振り返れば、井上はあのチェリビダッケに師事した人物だ。そして近年は鎌倉で、京都で大阪でブルックナー演奏を披露してきている(第八番は京都市響との録音もある)。この曲を鎌倉でN響と演奏する前のコメント(2016年)、そして今回の演奏を前に語ってくれた内容がそれぞれリンク先で読めるので、興味がある方はぜひご一読の上ミューザ川崎シンフォニーホールに来場していただければ、より今回の演奏を受け取れることだろう。

井上道義といえばその独特の語り口も大きな魅力だ。この作品への思いの大きさもあってテキストだけでも十分にその思いは伝わってくるのだが、どうせなら彼の声と、魅力的な表情ごとお届けしたいとミューザ川崎シンフォニーホールも思われたのだろう。今回、こうしてコメント動画を公開してくれた。すでにチケットを用意された方もまだ来場を迷っている人もぜひご覧あれ。これを見れば、来場を決めた方は更に期待が高まり、迷っている方は力強く背中を押されるだろうこと確実ですので。だって、この語りは開演前のプレトークでも披露されるのだから、会場できちんと聞きたいじゃあありませんか。




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ある公演の紹介に、国内の他団体の演奏を紹介するのは掟破りかもしれない、とは思うのだけれど、フェスタサマーミューザで連日違う団体がミューザ川崎シンフォニーホールに登場している今だけ、不躾をご容赦いただきたい。
7/29にアラン・ギルバートとサマーミューザに登場した東京都交響楽団が3月の演奏会で披露した同曲を公式チャンネルで全曲配信してくれているので、ぜひこの機会に視聴されてはいかがだろう。


かってに予告篇 〜フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 Day4

●神奈川フィルハーモニー管弦楽団

2019年7月30日(火) 15:00開演

指揮:川瀬賢太郎
ギター:渡辺香津美
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

ボッケリーニ/ベリオ:マドリードの夜警隊の行進
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」 第一組曲、第二組曲

川瀬賢太郎と神奈川フィルは、数多くの公演を通じて音楽ファンの信頼を勝ち得てきた。川瀬の若さを考えれば、レパートリーの拡大と指揮者としての成熟を同時に進めなければならない苦労は相当なものだろうと想像できるけれど、川瀬は若さ故の活力(おじさんの感慨ですみません)、そしてその音楽の魅力で各地で活躍を続けている。頭が下がる思いだ(おじさんの感慨その二)。


そんな川瀬賢太郎と神奈川フィルが、フェスタサマーミューザのために用意してくれた熱いプログラムは、スペインをテーマとしたものだ。といっても、スペイン人二人とイタリア人、フランス人による作品を集めたものだから、そこにはちょっとした「温度差」も感じられるかもしれない。前後半ともに非スペイン人作品→スペイン人作品と並べられていることにも意味がある、のかもしれない。もっとも、川瀬によればこれは過去に取り上げたプログラムに似ているのだとか。8年の時を経て再び取り上げる作品たちからは、川瀬の成長が伝わってくることだろう。



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さて、川瀬くんのかつての髪型で和んだところで(おい)、今回の注目ポイントに話を移します。
アコースティック・ギターで大きな会場のコンサートを行う場合、相応に音を増幅しなければならない。ソロのリサイタルはもちろんそうだし、オーケストラと共演するならば使わなければ音がかき消されてしまう。録音では「増幅されない生の楽器の音で、オーケストラに渡り合うギター」が実現できるが実演ではどうしたってそんなことはできない、もしやりあえる音量をPAで鳴らしちゃったら今度は楽器の持つ個性が消えかねない。そんなせめぎあいを抱えながら、「アランフェス協奏曲」を取り上げる演奏家たちは常にその時どきの回答を示さなければならない。では今回、渡辺香津美と川瀬&神奈川フィルはどうするのか?ここで彼らが今回出した答えは「エレキギターでオーケストラと共演する」というもの。



このツイートを見て「フルアコ」の指すものがよくわからなかった同輩の皆さま、リンク先の記事をご覧になってみてくださいませ(YAMAHA 楽器解体新書の「エレキギター」の項)。「屋外や大ホールでも充分な音量が出せるように、生ギターにピックアップを付けた」のが、最初のエレキギターである「フルアコースティックギター(フルアコ)」で、これはアコースティックギター同様に楽器のボディ部分は空洞です。対して一般的に私たちがイメージするエレキギターは「ソリッド」でボディに共鳴用の空洞がないもの。そしてその中間には「セミアコースティック」(ボディの中央に芯材が詰まっていて両サイドに共鳴スペースがあるもの)、とエレキギターにも大きく三つの種類があり、今回はその中で「フルアコ」を使用する、ということです。

…これ以上の解説はさすがに蛇足というものでしょう。あとはミューザ川崎シンフォニーホールで「エレキギターによるアランフェス」を堪能するといたしましょう。

なお、この日から「音と科学の実験室 夏ラボ!」も始まり、コンサート以外のお楽しみも増えてますますフェスタサマーミューザは夏祭り気分が高まります。どうですか皆さま、酷暑を避けてサマーミューザを一日満喫するのは。

2019年7月28日日曜日

かってに予告篇 〜フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 Day3

●東京都交響楽団

2019年7月29日(月) 19:00開演

指揮:アラン・ギルバート
管弦楽:東京都交響楽団

ヴォルフ:イタリア風セレナーデ(管弦楽版)
レスピーギ:
  リュートのための古風な舞曲とアリア 第三組曲
  交響詩「ローマの噴水」
  交響詩「ローマの松」

フェスタも三日目は平日とあって、夜公演のオーケストラ・コンサートが開催される。東京都交響楽団が首席客演指揮者のアラン・ギルバートとミューザに登場するのは…、と書きかけて調べてみました。アラン・ギルバート自身のミューザへの登場が初めて、ということです(こちらのメッセージも参照ください)。来日が定期的に行われるニューヨーク・フィルハーモニック、NDRエルプフィルハーモニーでの活躍がありながらタイミングが合わなかったのでしょう。これでまた素晴らしいマエストロがこのホールを知ってくれるわけで、ホールそのもののファンとしては喜ばしい限り。また、エルプフィルハーモニーはミューザ川崎シンフォニーホールとも似た雰囲気のホールですから(設計者が一緒)、演奏後の感想が聴いてみたいもの。どなたかお願いします(ひと頼み)。



その初登場に用意されたプログラムは、都響のイメージとはちょっと異なるイタリアン・プログラムだ。前半にヴォルフの数少ない大編成作品(といっても弦楽合奏)、そしてレスピーギの擬古典作品を、後半には同じレスピーギの大編成交響詩と、前・後半でコントラストの効いた良いプログラムだ。
今年、とあえて前置きして注目したいのはやはり後半の交響詩だろう。大編成の管弦楽にオルガンが加わるこれらの作品で、改修の目玉「パイプオルガンの整音作業」の成果が確認できるのだから、これは聴き逃がすわけにはいかない。「ミューザの日」ウェルカムコンサート(7/1)、MUZAランチタイム&ナイトコンサート60(7/3)で聴いた印象を申し上げるなら、より明るい音色でかつ音のレスポンスが良くなったように感じられたので、この作品ではオーケストラと相まって輝かしいサウンドを楽しめるはずだ。都響の実力は誰もが知るところなのだから、いくら期待しておいてもいいだろう。

そしてもう一つのポイントとして、前半の選曲についてもコメントしておきたい。ヴァイオリニストの両親のもとに生まれ、自身ヴァイオリニストとしてキャリアを始めたアランが、このホールに弦楽合奏を持ってくることで、彼が都響とともに作り上げたい弦のサウンドが明示されることになるのでは、と私は予想しているのだ。アラン・(タケシ・)ギルバートと都響の目指す音がミューザ川崎シンフォニーホールに現前する、そんな機会になる。私はそう期待している。

なお、この日から若手演奏家支援事業2019「ミニコンサート」がスタートする。昼の12:10から、市民交流室で開催される無料コンサートにはオーディションで選ばれた若手たちが連日登場してくれるので、お昼に時間が作れる方はこちらも検討されてはいかがだろうか。
そうそう、ミニコンサート最終日となる8/7にはピアノの小倉美春がリゲティ作品を披露するとのこと。この二週間でリゲティに俄然興味が湧いているミューザ川崎シンフォニーホールの聴衆のひとりとして(週末はリゲティ、でしたからね)、おおいに気になっている。

2019年7月27日土曜日

かってに予告篇 〜フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 Day2

●こどもフェスタ2019 イッツ・ア・ピアノ・ワールド

2019年7月28日(日) 11:00開演

ピアノ:小川典子

ラフマニノフ:練習曲集「音の絵」 Op.39 から 第一番
ドビュッシー:月の光
菅野由弘:「水の粒子」ピアノと明珍火箸のための から
ドビュッシー:「ピアノのために」から トッカータ
ショパン:スケルツォ第二番から
エルガー:行進曲「威風堂々」第一番

●新日本フィルハーモニー交響楽団

2018年7月28日(日) 18:00開演

指揮:上岡敏之
ピアノ:小川典子
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第二番 ハ短調 Op.18
プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」組曲から
  モンタギュー家とキャピュレット家 (第2組曲)/少女ジュリエット (第2組曲)/ジュリエット (第3組曲)/ロメオとジュリエット (第1組曲)/僧ローレンス (第2組曲)/タイボルトの死 (第1組曲)/別れの前のロメオとジュリエット (第2組曲)/ジュリエットの墓の前のロメオ (第2組曲)/ジュリエットの死 (第3組曲)

サマーミューザ二日目には、シンフォニーホールで2つのコンサートが開催される。午前中の公演はこどもフェスタ2019として、恒例となったイッツ・ア・ピアノ・ワールドだ。
ステージ上に用意された座席で、ピアノの演奏を間近で聴く機会を用意する、というのはたとえば音楽を学ぶ学生に対して行うケースはよく見かける。なるほど、目の前で一流の演奏を見て聴くことで学び取ることは多くあるのだろう。音楽家を目指す若者を、すでに音楽家として活躍できている先達が導くのはいかにもありがたいことだ。だがこのコンサートの特徴的なところは、ステージ上に招かれるのがこどもたちであることだ。
まだ将来の可能性に満ちたこどもたちは、裏を返せば何になるものかまだまだわからない。このステージに招かれたこどもたちから将来のピアニストが生まれるかもしれない、生まれないかもしれない。ではこう書く私がこの試みに否定的かといえばむしろ逆で、これほど有り難い機会はないだろうと感じているのだ。
野球を見たこともない幼子はプロ野球に憧れないし、サッカーに親しまなかった子は、美しく美味しい菓子に魅了されなかった子は、ステージで輝くアイドルに…何かの魅力的な出会いがなければ、その道を知ることもない。私は前々からそう考えている。であれば(幼いうちにはもっともその魅力が伝わる生演奏に触れにくいクラシック音楽は圧倒的に不利なのでは?)なんてことだって考えるけれど、ただの音楽ファンにはできることもなく…(私の言葉は子どもには届かないだろう自覚もある)この企画のように、音楽家を導くのではなく、音楽家になりうる種を蒔くような試みは、一見すると迂遠に見えなくもない。しかし「出会いがなければその先もない」、そう考えるならばこのようなコンサートこそアウトリーチの企画で本当に求められることなのではないだろうか。小川典子からのメッセージがミューザ川崎シンフォニーホールのホームページで読めるけれど、このように考える私はいちいち得心しながら拝読した。今年もまた、一人でも多くのこどもたちが可能性に出会えますように、と半ば祈るような思いでいる次第だ。

夜には上岡敏之と新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会が開催される。ミューザ川崎シンフォニーホールには、2016年のフェスタサマーミューザ以来の登場となる。あのときは「これから音楽監督になります」というタイミングだったから、今回はそこから三年の上岡時代の成果を携えての再登場となるわけだ。
それだけでも注目公演となるところだが、今回は7/27に開催される「すみだサマーコンサート2019」で日本大学第一中学・高等学校演劇部とのコラボレーションで取り上げるプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」を演奏するのだから期待はより高まる。歌劇場のマイスターとして活躍してきた上岡のドラマ描出は定評あるところだが、「すみだサマーコンサート」では演劇との協業で、「フェスタサマーミューザ」では音楽のみで、と違ったその手腕のほどがスタイルで楽しめるわけである。新日本フィルとの関係の深まりもよくわかろうというこの二つのコンサート、どちらも聴きたいところだが、開幕公演とぶつかってしまっているのが実に残念である…


(家の相克と若者たちの恋のドラマ、ある意味で中高生の演技は最適なのかも…と思わせられる。とにかく日程が残念だ…)

そして新日本フィルハーモニー交響楽団の公演には、午前にも登場した小川典子が出演するのだから、7月28日は「小川典子の日」と言ってしまってもいいだろう。まさにミューザ川崎シンフォニーホールホールアドヴァイザーの面目躍如の日、である。(おそらくは公開リハーサルにも登場されるだろうことを考えると、音楽家のパワーに予め圧倒される思いだ)
両方の公演を楽しむもよし、どちらかお好みの公演で夏休みを満喫するもよし、のサマーミューザ二日目である。

2019年7月26日金曜日

フェスタサマーミューザKAWASAKI2019の聴きどころ その三 ~独奏者を聴く

(承前)これも公演順で紹介を…とも思ったけれど、ここは楽器別で行きましょう。今回、なぜか独唱や合唱を交えた公演がないので、コンサートを華やかに彩る器楽独奏の皆さまについて、多く登場する楽器の演奏者から言及していきます。
なお、お名前からそれぞれのホームページやSNSにリンクしておきます(更新されていればホームページ、そうでなければアクティヴで包括的に情報が見られそうなアカウントと判断できるものを選択しました)。興味を持たれた方はぜひご参照あれ。

まずは5人が登場するピアノから。

1.タマラ・ステファノヴィッチ(7/27 東響)

ノット&東響がリゲティを演奏するのに招かれるピアニスト。わかる人にはこれだけで多くの情報が伝わってしまうのでは?ご自身のアルバムから紹介される作品がこれって時点でもう、ねえ(笑)。



聴いたことあったかな、とか思っていましたが、このアルバムにも参加されていました。なるほど、リゲティの協奏曲を演奏するのに招かれるべき方、なのです。



2.小川典子 (7/28 イッツ・ア・ピアノ・ワールド/新日本フィル)

ミューザ川崎シンフォニーホールのアドバイザーとして会見にも出席して、いくつもの貴重な情報をくれた小川さんは、上岡&新日本フィルとラフマニノフの第二番に登場。同じ日の午前には、子どもたちとの「イッツ・ア・ピアノ・ワールド」にも登場するのだから、7月28日は”小川典子の日”なのである。

小川典子とミューザ川崎シンフォニーホールの歩みの15年の集大成となるリサイタルが9月に開催されることも発表されていて、ますますこのホールとの縁も深まるだろう彼女である。



3.反田恭平 (8/3 原田&N響)

昨今のニュースも話題の彼が、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」とくればそれはチケットの入手が大変に決まっていましたね(手遅れなので多くを語れません)。先日公開された記事は、彼のスタンスを明確に示す興味深いものとお見受けしました。

今後はオーケストラにレーベル運営にと、演奏家としてだけではなく活躍の幅を広げていく模様の音楽家・反田恭平が、ほぼ100年前の”クール”な作品をこのホールでどう聴かせるものか。注目です。
ちなみにもう少し前の時代の作品には、こうアプローチした模様。



4.藤田真央 (8/7 小林&日本フィル)

4月には、秋山和慶の指揮で東響とジョリヴェの協奏曲を演奏した彼、今度は小林研一郎と日フィルとの共演で、いわゆるチャイコンを演奏してくれます。どちらも日本を代表するヴェテランとの共演ですが、秘曲から超がつく名曲へと若きピアニストの才能や感受性が存分に示されるだろう。…という内容をけっこう前に用意していたのだけれど、今では世界が注目するピアニストの一人となった藤田くん、このお祭りでももっとも注目される出演者のひとりとなりました。おめでとう。



5.ジャン・チャクムル (8/12 尾高&東響)

昨年開催された、第10回浜松国際ピアノコンクールの優勝者として、内外での活躍が目覚ましい彼が、お祭りのクロージングに登場です。「完全版 蜂蜜と遠雷 ~若きピアニストたちの18日~」で少しだけ放送されたリストの協奏曲では、共演した東響のメンバーがとてもいい笑顔をしていたのが印象的でした。サマーミューザの記者会見で、このコンクールの審査委員を務めた小川典子は「彼のようなコンテスタント的でない音楽的才能に賞を与えられたことを誇る」といった話もされており、今回のミューザへの登場にも大いに期待したくなるところ。



続いて、二人が登場するチェロ。

1.ジョヴァンニ・ソッリマ (8/6 藤岡&シティ・フィル)

彼の場合、むしろ自作でその名が知られてるんじゃないか?と私は思ってしまうのです。



今回の来日ではこの動画の舞台である、彼のプロジェクト「100チェロ」公演も開催されます。日本のオーケストラにソリストとして客演するのは初めてという彼。曲はドヴォルザーク、正面突破という印象がありますね。鬼才の登場に期待しましょう。

2.古川展生 (8/9 齊藤&昭和音楽大学)

東京都交響楽団の首席奏者として、またクロスオーヴァーユニット「古武道」のプレイヤーとしてジャンルを超えた活躍をする彼が、昭和音楽大学の若者たちとエルガーを演奏します。
今回は学生オーケストラとの共演ということでチケットもお手頃価格ですので、ミューザ入門にもいいかも。



そしてなぜかひとりしか登場しないヴァイオリン、郷古廉が仙台フィルと共演します(8/4)。先だっては東京交響楽団のゲストコンサートマスターとして「名曲全集」にも登場した彼(切れ味がちょっとありすぎたくらいに感じました)が今度はソリストとして川崎の舞台に登場です。この前はカルッツかわさきでしたから、ようやくミューザで聴くことができますね…チャイコフスキーの協奏曲であれば彼の実力も存分に発揮されましょう。



もうひとりの”弦楽器奏者”として、ギターの渡辺香津美を忘れてはいけない(7/30 川瀬&神奈川フィル)。若き日から天才ギタリストとして活躍した彼が、今回はこんなチャレンジをしてくれます。

…このコンサートのため、現在は休酒中でバンドマンのメインイヴェントたるウチアゲですら飲んでいらっしゃらないとか(笑)。期待せずにはいられません。

最後に管楽器。今回は二人のフルート奏者が登場します。
まず30回目のPMFオーケストラと、第16回チャイコフスキー国際音楽コンクール 木管部門優勝のマトヴェィ・デョーミンが共演(いわゆるチャイコンの、管楽器部門最初の木管部門ウィナーということになります)。



そして東京フィルハーモニー交響楽団と共演するフルートの高木綾子(8/11 エッティンガー&東京フィル)。その若き日のクロスオーヴァー的なアルバムでのデビューから、オーケストラにソリストに教鞭にと活躍する今に至る時間を考えるとちょっと気が遠くなりますが、充実した演奏を聴かせてくれるものと期待しています。



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なお、新百合ヶ丘駅からほど近いテアトロ・ジーリオ・ショウワで開催される「出張サマーミューザ@しんゆり」ではピアノ、ヴァイオリンの協奏曲が聴けるんです。出演は戸田弥生(8/3 秋山&東響)、成田達輝菊池洋子(8/10 垣内&神奈川フィル)がメンデルスゾーン、ベートーヴェンの協奏曲を聴かせてくれます。…「出張サマーミューザ@しんゆり」を入れるとヴァイオリニストのほうが多くなっちゃって、この稿の大前提が壊れちゃうことはお気に為さりませぬよう(笑)。

以上簡単に、サマーミューザに登場する独奏者各位をご紹介させていただきました。詳しいコンサートの日程はリンク先でご確認ください

かってに予告篇 ~フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2019 Day1

●フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2019 東京交響楽団オープニングコンサート

2019年7月27日(土) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ジョナサン・ノット
ピアノ:タマラ・ステファノヴィッチ
管弦楽:東京交響楽団

バリー・グレイ:「ザ・ベスト・オブ・サンダーバード」〜ジョナサン・ノット スペシャル・セレクション(オリジナル・サウンドトラックより)
リゲティ:ピアノ協奏曲
ベートーヴェン:交響曲第一番 ハ長調 Op.21

ノット&東響による先日の定期演奏会はその凄絶なプログラム故に、また時節柄もあってどこか”喪”の儀式の趣があり、そのあともつらつら考えていることがあるのだがそのたびに思い浮かぶフレーズがmemento mori、なのである。死を想え、忘れるな。

そんな重い問いかけから一週間になろうという7/27には、一転してミューザ川崎シンフォニーホール開館以来続く”夏祭り”、フェスタサマーミューザKAWASAKI2019が開幕する。そのオープニングもまた、ノット&東響が務める。では、先日の定期がメメント・モリだったとして、開幕公演は何がテーマになるのだろう?
これは完全に私見だが「Homo ludens」、遊戯する人間がテーマなのではないか、とかって読みをしている。誰にも話を聞いていないし、あくまでプログラムと、その音楽からの想定なので当たり外れとか期待しないでください(おい)。

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ノット監督が幼少期に衝撃を受け、音楽家を目指すきっかけともなったという「サンダーバード」からの音楽を、遊戯のくくりで捉えるのはまあアリでしょう。そしてメインに置かれたベートーヴェンの最初の交響曲はまだ師匠、先人たちの影響下にあった時期の、実に挑戦的な作品であること、その数々の趣向を考えればそうお門違いでもあるまい。では、残ったリゲティのピアノ協奏曲はどうなのか?

先日演奏された、壮絶な「レクイエム」のあとに”リゲティ作品の遊戯性をどうのこうの”と言っても信じてもらえないかもしれない。だがこのピアノ協奏曲は、ポリリズムを駆使したリズムの遊び、ピアノの音色と他の楽器との対比の遊び、そして何より可能性の探求という知的な遊びに満ちている。そこにこそ、新しい音楽の楽しさがある、私はそう信じている(これは後で書くけれど、あんな事件がなければ、私たちはもう少し「レクイエム」の音響にももっと直接に向き合えて、より多くの新たな発見ができただろうと思っている)。
「レクイエム」同様、音楽としては複雑であり難解と言われても仕方ない、演奏もまた至難であろうことが想像できる。ただ、それでもこの作品でリズムの探求をどこまでも掘り下げることは、きっとリゲティにとっても楽しかったものだろうと思う。きっとノット&東響、そしてタマラ・ステファノヴィチは、そんな作品の真価を示してくれるものと大いに期待している。

ノット&東響のファンの皆様にも、これまで縁がなくてコンサートでは聴けなかったという方にも。そしてもちろん、「えっサンダーバードやるんすか」くらいにこの公演を知ったという方にも、ぜひオススメしておきたい。演奏の質は私が保証する(までもないと思うのだけれど)、27日の午後を空けられる方はぜひ、ミューザ川崎シンフォニーホールへ。夏祭りの開幕を飾るこのコンサートをまずはお聴きになっていただきたい、強くそう思う次第である。開演前には、お祭りの開幕を告げる「オープニング・ファンファーレ」もありますので、是非。


※簡単に言いやがってこんちくしょう、リゲティ聴いてみたけど楽しくないぞ!どうなってんだ!と思われた方には、こんな動画はいかがでしょう。…二つとも見ると、予習の時間がコンサートの倍以上になっちゃうんですけどね(笑)。



2019年7月18日木曜日

かってに予告篇 ~東京フィルハーモニー交響楽団 第924回サントリー定期シリーズ/第127回東京オペラシティ定期シリーズ

●東京フィルハーモニー交響楽団 第924回サントリー定期シリーズ第127回東京オペラシティ定期シリーズ

指揮:チョン・ミョンフン
ヴァイオリン:クリステル・リー(2015年第11回シベリウス国際ヴァイオリンコンクール優勝)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.47
ドヴォルザーク:交響曲第九番 ホ短調 Op.95 『新世界より』

予告をいつも書く前の手順の一つに「この人まだ聴いたことないな、どんな音なんだろう」と合法の配信(いかがわしい言い方)を検索する、というものがある。これから実演で知る音楽家の音色が好みならそれだけでも気分は良くなるし、見つかったものがちゃんとした映像であればある程度まではその人のアプローチも推察できましょう、という冷静な判断もできる(ちなみに、数年前に日本に代役デビューしたとあるマエストロについては、エージェントが「この動画見てよ」と言ってきた、と聞いた。もうそういう時代なんです、たぶん)。
そんなわけで、今回のクリステル・リーについてもその手順を踏んでみたのだが、なんと今回の公演告知で明記されている、シベリウス国際音楽コンクールに優勝した際の映像がある。おおこれは便利な時代である…と思ったが、どうもテレビの映像をどなたかが流しているもののようで共有するのはちょっと引っかかる。うーん、と思ってもう少し見てみたらありましたよ、彼女がシベリウスの協奏曲を演奏している動画が。


「Finale Violine - Christel Lee (USA) 2. Preis 2013」というそっけないタイトルでは一瞬なんのことかわからないのだけれど、これは2013年に開催されたARDミュンヘン国際音楽コンクールのファイナルの模様で、共演はアントニオ・メンデス指揮バイエルン放送交響楽団。この動画をおいて彼女のキャリアを見直せば、まずは難関で知られたこのコンクールの一位なしでの二位に輝き、その後2015年にシベリウス国際音楽コンクールで優勝、そして現在に至る活躍をしているヴァイオリニストである、ということですね。
彼女の公式サイトを見ると、過去にチョン・キョンファにも師事していたとのことで(併せて田中直子の名も挙げられている)、今回の共演でチョン・ミョンフンの「家族」、音楽家仲間に迎えられるということなのだろう。このキレが良いのにどこかウェットな美音で奏でられるシベリウス、期待したい。

なお、彼女の演奏を他の曲でも聴いてみたい!と思われる方にはこれなんか如何ですか。


ソリストの話が長くなってしまったが、後半のドヴォルザークももちろん注目である。チョン・ミョンフンが今シーズン東京フィルの定期に登場する一度だけの機会に取り上げる、得意中の得意の作曲家なのだから。100周年を飾った演奏会で取り上げたこと、かつてのこども音楽館でも2005年に「新世界との出会い」~ドヴォルザークとガーシュイン~ と題して取り上げている(これはDVD化もされている)。それにかつてウィーン・フィルとも録音しているのだから(3、6~8番、そしてセレナード集)マエストロのドヴォルザーク理解には一家言どころではない説得的なものが期待できよう。東京フィルとの演奏は回を重ねるごとに成熟も極まりつつあり、正直に申し上げるならこのように条件の揃った演奏会について私から言うべきことはない、かもしれない。会場で、その音楽を存分に体験しましょうぞ。

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今回、非常に軽めの内容になっているのは訳がありまして。これをご覧ください、こうなってしまっては事前に案内するのが嫌がらせになってしまうではございませんか!(笑)


そんなわけで、これもまた公式配信のチョン・ミョンフン指揮ドヴォルザークの交響曲第九番の動画で来場できない皆さまにもお楽しみいただこうか、と思います次第。…なんかね、フェニーチェ歌劇場の公式チャンネルはなぜかわからないけれど再生回数が寂しくって(配慮した表現)、演奏の熱さを踏まえるとあまりにも惜しいので。
…なお、これを見て「聴きたかったよコンチクショー」と思われても私にはどうすることもできないのでご容赦のほど。では心ゆくまで演奏をお楽しみください!(責任感のない投げ方)

2019年7月10日水曜日

かってに予告篇 ~ロレンツォ・ヴィオッティ 東京交響楽団(7/13~15)

●東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ第110回第114回新潟定期演奏会ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第148回

2019年7月
  13日(土) 14:00開演 会場:東京オペラシティコンサートホール
  14日(日) 17:00開演 会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
  15日(月・祝) 14:00開演 会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
管弦楽:東京交響楽団

ブラームス/シェーンベルク:ピアノ四重奏曲第一番 ト短調 Op.25
ドヴォルザーク:交響曲第七番 ニ短調 Op.70

二曲からなるコンサートなのに、名の知れた作曲家の名前が三つあるのがどうにもややこしい。いやそこまで複雑ではないのですが。とは言いつつ、演奏される二作品になじみがなくてちょっと気後れされている方もいるかもしれないので、おせっかいにもご案内をば。だって、そんなぼんやりとした気持ちの問題で聴き逃すには、ロレンツォ・ヴィオッティという才能はあまりにも惜しいですし。名曲全集は東響にとっては本格的な”ホーム・リターン”コンサートでもありますし。

後半の作品をまず見てみれば、こちらは何も変わったことはない。簡単な紹介でよければ「アントニン・ドヴォルザークが1885年に発表した交響曲」で十分だろう。察しの良い方ならこの年代だけでも多くのことが伝わる、そしてこの曲には古今の名盤があるし、現在ならこういう動画でどんな曲かを知ることもできる。


(いわゆる参考演奏とは程遠い、個性的な演奏なので、ここで貼るべきものではなかったかと今になって思っていたりする)

「実はロンドンと縁があるのは第八番じゃなくてこっちの交響曲」「ブラームスの第三番からの影響がある、と言われる」「充実した晩年の始まりを告げる作品」くらい付け足せば十分ではないだろうか(そうとう雑な言い方になりますが)。日本では最後の二作ほどは演奏されないが(まあ、九番と比べるのはどうかしている)、初演から大成功して現在に至っている作品だ。今回の充実した演奏は、きっと日本での第七番再評価を進める大きな一歩となるだろう。
…え?聴く前からそんなことを言っていいのか、ですか?若きロレンツォ・ヴィオッティの音楽の充実ぶりは私もこれまで何度か書いてきたとおりですし、いよいよ本格的にミューザに帰還する東響がそれに応えられないわけもない。しかも今回はオペラシティ定期(13日)、新潟定期(14日)、名曲全集(15日)と三回もの公演があるのだから、回を重ねるごとにまた違う表情を、ドラマを示してくれることだろう。私はそれを微塵も疑っていないので、このように申し上げる次第です。

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では何が一瞬の混乱を呼ぶか、といえば前半に演奏される作品だ。ブラームスとシェーンベルク、二人の名が並ぶこの曲を一文で説明するならば「ブラームスが1861年に作曲したピアノ四重奏曲第一番 ト短調 Op.25を、シェーンベルクが1937年に編曲した」オーケストラ作品、である。どうだわかりやすかろう(そうでもないか)。

さてわかりやすくまとめてはみましたが、年号を入れるといろいろ情報が発生するので、そのあたりを補足するならば…

この時期にブラームスはウィーンに移住しているが(作曲は移住前)、まだ第一番の交響曲も完成させていない。であれば作曲家としては自身でも演奏するピアノ曲に室内楽曲、そして声楽曲の人である。最初の協奏曲と近い時期に作曲されたピアノ四重奏曲は彼らしい親密なアンサンブルと、民族的な旋律が魅力的な作品だ。「…それをあのシェーンベルクが編曲?オーケストラに?大丈夫なんですか?」なんて思う方も試しにこれを聴いてみてくださいな。



シェーンベルクによる編曲作品は意外なほど多く、それらは原曲の魅力を活かした仕上がりなのでその点では安心してほしい。1920年代にはここに貼ったシュトラウスのほかマーラー※など、幅広く手がけている彼の手腕は確かなものだ。もっとも、それらは20世紀初頭までの大編成のオーケストラを駆使したものではなく、上の動画に見られるような、独特の室内楽編成が中心になるのだが、それは当時彼が組織した「私的演奏協会」のために書かれたものが中心だから、ということになるだろう(この団体については、Colors & Chords様のサイト:リンク先が詳しい)。オーケストラのための編曲作品としては、バッハのコラール前奏曲が比較的有名だろうか。
1920年代という、彼が十二音技法を確立する時期に編曲作品を多く残した、というのは私的演奏協会のような外的事情を無視してついちょっと妄想を呼ぶものではある、未だ聴かれたことのない新しい音の探求の中で他人の作品を音化していく作業に彼は何を見ていたのか…などなど。

※余談だが。編曲を始めたが未完のまま放棄されていた「大地の歌」は、後にライナー・リーンが完成させて、今ではいくつかの録音もされているのでマーラー好きの方にはぜひ聴いてみてほしい。大編成管弦楽を駆使したオーケストラ版と、歌曲としての性格をより強く感じさせるピアノ版の間に、うまく収まるものになっていると私見する。

だが今回演奏されるピアノ四重奏曲第一番は、彼がナチスから逃れて渡米した後の編曲だから、そんな妄想はあまり合致しないものだ。むしろアメリカでの教育活動の影響や、亡命者としての望郷の念もここにはあるのかもしれない。ちょっとブラームスの管弦楽にしては派手かな、と感じられる部分はあるけれど(初めて聴いたときには打楽器の活躍にかなり驚かされた)、その「過剰さ」にシェーンベルクの個性が刻まれている、と受け取ればいいだろう。
そんな二人の「共同作業」を、ヴィオッティと東響はどう聴かせてくれるものか。会場によって、日によって違うサウンドが楽しめるのだろうなあ、と想像してほくそ笑んでしまう私である。

ここまで紹介しても心配なあなた。この演奏でも試しに聴いてみてはいかがでしょう。ピアニストとしてもこの作品に取り組んでいただろうエッシェンバッハなら紹介者として最適では、と思いますが。



最後に余談。この編曲を用いて、ジョージ・バランシンがバレエを作っている。三つの個性が一つの作品に集まった舞台も見てみたいものである。NYCB、いつか来日公演で取り上げませんかしら。