2019年5月1日水曜日

フェスタサマーミューザKAWASAKI2019の聴きどころ その二 ~レア曲を聴く!

さてシリーズ第二回。もうセット券は買った、どうしても外せない単券も抑えた!そんなあなたにもこの紹介が楽しめるものになりますように(お祈り)。では本題。

より広く、市民に首都圏の音楽ファンにこの会場でコンサートを聴いてもらおうという「フェスタサマーミューザKAWASAKI」は、言ってみればおなじみの「名曲全集」を首都圏のオーケストラで一気に開催するような性格もある種のミッションとして持っている。公共ホールとして多くの人に聴いてもらうことを考えるなら妥当な判断だし、夏休みの昼間っから知らない曲を演奏してくれることに喜びを感じる私のような者()が少数派なのは至極ふつうのことでしかない。
それでも「せっかくのミューザで演奏する機会に」と意気込んでくれているのか、ここ最近ではなかなか実演では聴けない作品を用意してくれる団体も増えてきた。その積極的な選曲に応えたい、私は強くそう思うので、せめてもの助力としてここに動画も交えて作品の紹介をさせてもらおうと思う。

1.バリー・グレイの「サンダーバード」、リゲティのピアノ協奏曲 ノット&東響(7/27)

開幕公演からこれである。フェスタサマーで「実演でなかなか聴かれない作品を取り上げる」流れを作っている張本人のノット&東響(書いちゃった)、ブレないのである。「サンダーバード」はあのカウントダウンと出動シーンと「はい、パパ」と黒柳徹子さんと(以下略←おい)でおなじみのあの作品なので、ここで私が多くを語る必要はないかと思う。以前、広上淳一さんがレコーディングしたことを記憶している方も多いかな、と思うのでこの動画を貼っておきましょう。



この日の演奏ではもちろん、日本語のお歌はつかないと思うのでそこは期待されませんように。ご自身でお歌いになるのもアウトですよ。

むしろこのコンサートでなかなか聴けない作品として紹介すべきはリゲティのピアノ協奏曲だろう。いろいろ探していたら、4年前に福間洸太朗が作品の構成を示してくれている動画を見つけてしまった。せっかくなので皆さんガンガン再生してあげてください。


また、リゲティのピアノ曲に馴染みのない方はこれを聴いてみるといいかも。


もはや「ゲンダイオンガク」とかつて目の敵にされた”敵”の姿がぼやけてきた今、リゲティは取っ掛かりにいいと思いますよ。ノット&東響の演奏なら悪かろうはずもありませんし。

2.アランフェス協奏曲・エレキギターバージョン 渡辺香津美&川瀬・神奈川フィル(7/30)

アコースティック・ギターで大きな会場のコンサートを行うならば、どうしたってPAを使うことになる。ソロのリサイタルだってそうなのに、オーケストラと共演ともなれば使わないはずがない。録音でなら「増幅されない生の楽器の音でオーケストラに渡り合うギター」が実現できるから気にもならないのだけれど、実演ではどうしたってそんなことはできない、もしやりあえる音量をPAで鳴らしちゃったら今度は楽器の持つ個性が消えてしまう。そんなせめぎあいを抱えながら、「アランフェス協奏曲」を取り上げる演奏家たちは常にその時どきの回答を示してくれているのだ。
では今回、渡辺香津美と川瀬&神奈川フィルはどうするのか、ミューザは広いぞ?ここで彼らが今回出した答えは「エレキギターでオーケストラと共演する」であった。記者会見でサラッと発表されたこの一言で、私にとっては神奈川フィルのスペイン・プログラムは注目公演の上の方に駆け上りましたよ。イントロでギターが鳴り始めたその瞬間に、今回のアイディアが狙ったものが聴き手に届くはず。その瞬間こそがこういうチャレンジに立ち会うことの妙味、ですね。

3.ストラヴィンスキーの「サーカス・ポルカ」 高関・仙台フィル(8/4)

「グレイテスト・ショウマン」でも描かれた「地上最大のショウ」ことバーナムとベイリーのサーカス団の仕事の一つとこの作品が関係している、と言ってもあまり驚かれないかもしれないが(アメリカ時代のストラヴィンスキーに明確な傾向を求めることの無意味さ、たるや)、この作品は「象のバレエ」のために書かれました、と言ったらどうでしょう。しかも振付がバランシン。自分で事実を書き連ねていて、なんの話なのかわからなくなってくる、この感覚がストラヴィンスキーですね。
参考にご覧いただきたいのがこのドキュメンタリー。言葉はわからなくてもこの作品の特異さは伝わるでしょう。



小品ではありますが、なかなか実演では聴けない作品なのです。…だって最後の引用が、ねえ(笑)。仙台フィルのフェスタサマーへの登場がこの短いけれどインパクトのある曲で成し遂げられるのだと思うと、なにかの含意をかってに読みたくなりますがここでは自重で。

4.「レンミンカイネンの帰郷」、芥川也寸志:交響曲第一番 藤岡・東京シティ・フィル(8/6)

シベリウスの「レンミンカイネン」組曲はまるで演奏されないとも言い切れないくらいには取り上げられるけれど、この記事を書くためにYouTubeで探しても著作権的に問題ないものは多くない。「トゥオネラの白鳥」だけならまだしも。これなんかどうでしょう。




そして芥川也寸志の音楽といえば、「砂の器」のための音楽をはじめ、「八甲田山」などの映画音楽、「赤穂浪士」などのテレビのための仕事が近年のリバイバルであらためて注目されている。また、たとえば「交響管弦楽のための音楽」は近年吹奏楽編曲でも親しまれていたそうです、吹奏楽から遠のいて久しい私は知らなかった。


フェスタサマーにも出演する洗足学園音楽大学の、吹奏楽版のコンサートから、でした。前田ホールもご無沙汰して久しいなあ…(川崎市民の感慨)

「弦楽のためのトリプティーク」あたりもプロアマ問わず比較的演奏されている気がするけれど、交響曲となるとどうだろう。彼の番号付き交響曲は第一番だけ、あとはエローラ交響曲のみと、このあたり尊敬していたソヴィエトのシンフォニストたちとは違う。芥川の交響曲は多作されることはなかった。日本とソヴィエトの環境の違い、日本のクラシック界における彼の立ち位置、彼に求められたもの、彼がしたかったこと…たくさんの要素がそのようにしたのだろう、としか今のところ申しようもないのですが。
私には、彼の音楽には密入国するほどに敬愛し尊敬したショスタコーヴィチより、プロコフィエフへの近さを感じてしまうんですよね、言葉になりにくいところでの印象なんですけど。ショスタコーヴィチの「意図が読み切れない発言」よりもプロコフィエフの「意図が見えていて、まあ問題ない範囲かなって発言」に近いと言うか。よくわかりませんね、すみません。先ほどの動画の音楽のテイストが気に入っていただけたなら、きっと交響曲もお楽しみいただけると思います。

5.ショスタコーヴィチ4、5をフェスタサマーで、ミューザで!! ゲルギエフ・PMFオーケストラ(8/2)尾高・東響(8/12)

特別参加となるゲルギエフ&PMFオーケストラはいつも首都圏の公演に通常のコンサートの枠を超える大規模な演奏会を持ってきてくれる。お腹いっぱいになってもシェフが次の皿を山盛りで出してくる以上、聴き手もお腹のこともカロリーのことも忘れて最後まで食べなければならないのである。それならば、と「そうだ!どうせ大人数を乗せるんだから、大編成の曲を選べばいいんだ!」とマエストロが思ったのかどうかは知らないが(おい)、今回はショスタコーヴィチの最大規模の作品を持ってきてくれる。
もっともその交響曲第四番は、つい先日ウルバンスキ&東京交響楽団が見事な演奏を聴かせたばかりではある。世界から集まった若き才能が、ゲルギエフの指揮のもとミューザでどんな音楽としてこの作品を示してくれるか、期待しよう。…今さらなんですけど、こんな動画もありました。ウルバンスキ、やっぱりこの曲が好きなのねえ…(レヴューはもう少々お待ちください)

PMFオーケストラの公演から日を置かず、クロージングコンサートでは第五番が演奏される。本来は1936年、1937年と二年連続で発表されるはずだったこの交響曲を、この間隔で同じ会場で聴けることは貴重な体験となりうるだろう。
また、東京交響楽団目線で言えば、ご存知3月定期でウルバンスキと4番を演奏して、5月定期ではノット監督と5番を演奏してからのコンサートなのである。上田仁以来の伝統についても折々に触れてきたが、東響は偉大なショスタコーヴィチ・オーケストラでもあるのだ。3月、5月の公演がミューザではなかったことの残念さ、きっちり解消していただこうではありませんか。

以上、あえて「名曲」を回避して、自分にとっての「名曲」を探せるコンサートを選んでみました。フェスタサマーミューザKAWASAKI2019のチケット購入など詳しくはリンク先でどうぞ。

ではあと一回くらい、フェスタサマーの紹介をしようと思います。当然別の切り口で。ではまた。

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