2018年9月6日木曜日

東京交響楽団の新シーズンを見てみよう(その二:おなじみの面々、そして~編)

大変な災害が続いております。各地の皆さまのご無事をお祈り申し上げます。

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(承前)

2018年9月4日、東京交響楽団の2019-2020シーズンのプログラムについて話を続けよう。前回は音楽監督を務めるジョナサン・ノットが指揮する演奏会について紹介したが、今回はオーケストラのポストを担うある意味おなじみの面々、そしてポストには就いていないけれど客演を繰り返して聴衆にもおなじみの日本人指揮者たちの演奏会を取り上げる。

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このくくりで紹介すると唯一の非日本人となってしまう桂冠指揮者ユベール・スダーンの6月の演奏会をまずは紹介しよう(定期演奏会6/15、名曲全集6/16)。
現在の好調の礎を築いたスダーンは、近年の来演では一線を画した選曲で存在感を示している。来るシーズンにはノット監督以外にも時代を超えた選曲による興味深いプログラムが多数見受けられるのだが、今回スダーンが選んだのはシューマンとチャイコフスキー、ロマン派の作曲家たちなのだ。シューマンはかつて交響曲チクルスもあった、そして二人の作曲家が取り上げたバイロンのドラマにより形どられるプログラムの構成は巧みなものだし、マンフレッドの人物造形におけるゲーテの「ファウスト」との相互影響を思えば、彼のプログラムを追うことでその確たる一貫性は確認できる。
だがそれ以上に、その独自路線には、まるで”彼の時代が今も続いていたら…”というifを感じさせるものがある。モーツァルトの演奏で調性感を明示できるオーケストラになり、近代の作品までを十分にこなせるようになった彼の時代を思い出そう、それを進めた先にはロマン派に強い東響が、21世紀のモダン楽器オーケストラのあるべき姿として見えていたのかもしれない。そんな夢想をしてしまうのは、私の中にまだ彼の時代の音が残っているから、なのだろう。70代のスダーンが示す、20世紀から地続きの”現在のオーケストラ”像に期待してしまうのだ。

70代、と年齢でくくるつもりはないのだけれど、次はスダーンの前任者であり同じく桂冠指揮者である秋山和慶(現在77歳)のコンサートを紹介する。齢を重ねてなお健在の秋山は新シーズン開幕公演となる2019年4月定期(4/21)、そして「名曲全集」の第九公演(12/14)、そして恒例のニューイヤーコンサート(2020/1/5)と、節目節目の公演に登場する。中でも注目されるのは、新シーズンの開幕を飾るコンサートだろう。なによりそのプログラムの若々しさときたら!メシアン(1908-1992)、ジョリヴェ(1905-1974)、ルシュール(1899-1979)、イベール(1890-1962)と、20世紀のフランス音楽を集めたこのプログラムが今年喜寿を迎えた指揮者のものだと誰が思うだろう?またメシアンは初期の作品、残る三曲にオリエンタリズムの最後の輝きとも言えそうな作品を選ぶあたり、さすがとしか言いようがない。イベールの出世作にしてステレオ録音時代に特に人気を博した「寄港地」で終わるプログラムは、指揮者の企みとエンタテインメント性が両立するコンサートとなることだろう。脱帽である。

ガブリイル・ポポーフの交響曲第一番、ウド・ツィンマーマンの「白いバラ」と秘曲を日本初演してきた正指揮者の飯森範親は、新シーズンも我々に知られざる名曲を紹介してくれる。2020年1月の定期ではラッヘンマン、リーム、アイネムの作品とR.シュトラウスの「家庭交響曲」という、超重量級としか言いようのないプログラムで我々に再び挑む。
もっともそうした”挑戦”とは別に、「名曲全集」では東響コーラスとロシア名曲プログラム(5/12)、チェロの新倉瞳を迎えてのファジル・サイによる新曲&ラヴェル管弦楽名曲集(東京オペラシティシリーズ 2020/3/21)といった親しみやすいプログラムでも登場するので、身構えることなく充実した演奏を楽しませてくれることだろう。

新シーズンには、これまでも東響との共演を重ねてきた日本人指揮者たちも登場する。その演奏会を登場順に見ていこう。

まずは「名曲全集」に登場する沼尻竜典だ(11/10)。曲目はピアノ・デュオで世界的に活躍するユッセン兄弟を迎えてのモーツァルト、そしてショスタコーヴィチの交響曲第一一番だ。ショスタコーヴィチのこの作品が「名曲全集」に乗る時代が来たのかという個人的な感慨もあるのだが、そんなプログラムでも合わせ物にも大編成管弦楽の扱いにも長けた沼尻なら、という安心感が強い。ユッセン兄弟の息の合った演奏も注目しよう。


首席客演指揮者の大友直人は、「名曲全集」の大トリとして登場する(2020/3/8)。フランス音楽の名曲を集めたプログラムを、若きピアニストの紹介とホール専属のオルガニストと東響との共演の場とする、目配りはさすがヴェテランの仕事である。

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日本人マエストロたちと東響の共演は、サントリーホールでの「こども定期演奏会」でも楽しめる。角田鋼亮(4/14)、沼尻竜典(7/7)、下野竜也(9/8)、飯森範親(12/15)と東響、素敵なソリストたち、そして司会の坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)がチームとなって新シーズンも子どもたちにクラシック音楽の魅力を伝えてくれることだろう。
また、子どもたちへのアウトリーチプログラムとしてはこれも恒例の「0歳からのオーケストラ」がGW目前の4月27日に開催される。ズーラシアンブラスと東響による恒例のコンサートは、今年に続いて水戸博之が指揮する。ご家族揃って楽しめるコンサートとしておなじみだが、2019年は会場がカルッツかわさきに移るのでそこは注意しておこう。※

※「名曲全集」のはじめ二回の公演もカルッツかわさきで開催される。

さて、何人かの日本人客演指揮者の話題は次回最終回に持越しとして、ひとまずはここで終わらせていただこう。残る公演も共演者や曲目に趣向が凝らされたものばかり、ということのみ予告しておく。

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