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2020年3月25日水曜日

夏の主役は君だ! ~フェスタサマーミューザKAWASAKI 2020 ラインナップ発表

※変更後のプログラム発表を受けて、この記事の改稿ではなく追加で文章を書くことにします。しばらくは古い情報をそのまま載せていることになりますので、チケット入手のための情報などはミューザ川崎シンフォニーホールのホームページをご覧ください。

2020年3月25日(水)、ついに「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2020」(以下サマーミューザ)のラインナップが発表された。今年は現今の状況に鑑み恒例の記者発表は行われなかったけれど、そのラインナップはこれから夏まで音楽ファンの注目を集め続けていくことだろう。サマーミューザがあるから、失われた”2020”にはならない、ラインナップを読み込んで私はそう確信した。

>フェスタサマーミューザKAWASAKI2020 公式サイト

今年は7月23日(木・祝)に開幕し、8月10日(月・祝)まで19日間にわたって数多くのコンサートが連日開催される(7/27、8/3は演奏会なし)。例年通り、首都圏のオーケストラによる特色を活かした公演の数々の饗宴、ホールアドバイザーによる趣向を凝らした企画、そしてゲストの登場と、サマーミューザは今年も”毎日でも通いたい”魅力的なプログラムを用意してきた。昨年初の首都圏外から参加した仙台フィルハーモニー管弦楽団に続いて、今年は群馬交響楽団がサマーミューザに登場する(8/4)ことも注目を集めるだろう。

ではそのプログラムの魅力を読み解こう。
今年のサマーミューザは、一つの軸として生誕250年を迎えたベートーヴェンを据えた。N響、群響、東京フィル、新日本フィルがミューザでの公演で取り上げるのに加え、「出張サマーミューザ@しんゆり」は両日ともが「オール・ベートーヴェン・プログラム」だ。オーケストラ公演に通いつめれば交響曲第五番から第九番、ヴァイオリン協奏曲にピアノ協奏曲(一、四、五の三曲を一公演で!)、そしてめったに演奏されない三重協奏曲までが披露される。さらに小川典子が「ピアノフェスタ」で取り上げる「悲愴」ソナタもあるのだから、存分にベートーヴェンの音楽を楽しめようというものだ。

多彩な独奏者が登場するのも今年のサマーミューザの魅力の一つだ。定番のヴァイオリン、ピアノも名手たちが揃うのだが、ギターにサクソフォン、ハープに「第九」の独唱陣と、公演に彩りを添えるだけには収まらない音楽家たちが連日のように登場してくれる。

個別に気になる公演をあげるなら、”夏祭りだから”とばかりに凝りまくった企画を披露してくれる下野竜也と読響+反田・務川(7/29)、ミューザ初登場となるアンドレア・バッティストーニと東京フィル(8/2)、近年クラシックへの本格的なアプローチが際立つ久石譲と新日本フィル(8/4)、飯守泰次郎と本格的なプログラムを披露する東京シティ・フィル(8/7)、あたりは聴き逃がせないと感じる。

仙台フィルハーモニー管弦楽団に続いて招かれた群馬交響楽団は、映画「ここに泉あり」でも印象的に用いられた「第九」でミューザデビューを飾ってくれることとなった。新本拠地・高崎芸術劇場がお披露目されたばかりの群響が、群馬交響楽団合唱団、独唱陣とともに聴かせてくれる”真夏の第九”、酷暑に負けぬ熱演に期待したいところだ。

また、今年のサマーミューザでも、ジャズ企画は継続される。国府弘子が小川典子とのコラボ(7/24)、ベースの井上陽介らとのコラボ(7/26)で活躍してくれるのは心強い。

アウトリーチ公演は今年も充実しており、「こどもフェスタ」として開催されるホールアドバイザーの小川典子による「イッツ・ア・ピアノワールド」(7/24)、かわさきジュニアオーケストラ発表会(8/6)の二公演、そして市内の音楽大学による演奏会(洗足学園の恒例”バレエとのコラボ”公演は7/31、女性が輝く昭和音大のコンサートは8/5)は廉価で楽しめるコンサートとして今年も好評で迎えられるだろう。無料企画の「音と科学の実験室 夏ラボ!」や、「若手演奏家支援事業2020 ミニコンサート」も開催されるので、夏休みの親子には気軽にミューザに足を運んでみてほしい。

そうそう、今年のサマーミューザのタイトルは「みんな大好き夏音(サマーミューザ)」である。少しゆるいこのテーマに、新ヴィジュアルのヌケ感はもしかすると(川の向こうで世界的イヴェント開催中だし)なんて衒いがあったのかな、とも思える。だがプログラムを、出演者を見れば堂々たる本格的音楽祭として、この夏の主役になってしまうのは確実である(市民の贔屓目はあるにしても)。チャラくてもいい、ガチでもいい、存分に音楽を楽しむ夏の到来を待とうではないか。

(バッハさん以外は半笑い…性格悪そう、なんて言いませんよ、ええ)

最後に残しておいたこれも決して忘れてはならない、夏祭りの焦点のひとつである。ご存知ミューザ川崎シンフォニーホールを本拠地に活躍する我らが東京交響楽団だ。東響は今年も開幕公演、出張サマーミューザ、そしてフィナーレと活躍してくれる。
開幕公演は定期公演の同プログラムがすでにチケットが入手困難となっていたノット&東響によるマーラーの第五番(!!!!)である。各位、ご用意はよろしいか。
そしてフィナーレでは、先日の配信でも東響と見事にスウィングしてみせた原田慶太楼が登場する。東響が誇る名手景山梨乃によるグリエールの協奏曲、長身を活かしてダイナミックな指揮姿が魅力の原田による「シェエラザード」ももちろん注目なのだが、今回はその間に置かれるかわさき=ドレイク・ミュージックによる”新作”も見逃してはならない。メインの「シェエラザード」をモティーフとして披露される即興は、その創造のプロセスから興味深いものとなるだろう。※
前述したとおり@しんゆりは秋山指揮、オール・ベートーヴェンによる堂々たるプログラムと、どのコンサートも今の東響の充実を存分に示してくれることだろう。

※残念なことだが、昨今の状況によってフィナーレコンサートにイギリスの「ドレイク・ミュージック」の参加はなくなった。きっと次の機会がある、と思いたいが…

そうそう、これはミューザと東響の仕込んだ小ネタだと思うのだが、パンフレットをくまなく見てほしい。下段のアイコン説明に「祝!ベートーヴェン生誕250年」に並んで「祝!マーラー生誕160年」が用意されているのだが、実は今回のサマーミューザでマーラーを披露するのはノット&東響だけ、なのである(笑)。ラッヘンマンとマーラー、ノット&東響のケミストリーへの期待を込めた、ミューザからのちょっとした遊びを私はとてもうれしく拝見した次第である。

そしてこれはサマーミューザの直後となるのだが、3/28に予定されていた定期演奏会は8/13にミューザ川崎シンフォニーホールで開催される、と昨日発表された。今まさに心待ちにされている”復活”の時として、フェスタサマーミューザが無事開催されることを、私は心から祈っている。

2019年12月9日月曜日

2020-2021年度 ミューザ主催公演 ラインアップ発表

ミューザ川崎シンフォニーホールの次年度主催公演ラインナップが12月6日、発表された。すでに東京交響楽団の新シーズン公演として発表済みの「名曲全集」「モーツァルトマチネ」については別記事で詳報するため本稿では割愛(必要に応じて参照)する。最終日の「ほぼ日刊サマーミューザ」で告知済みの「フェスタサマーミューザKAWASAKI2020」(7月23日〜8月10日)も同様。

各公演について詳しくはリンク先でご覧いただくとして、やはりひとつ取り出して語られるべき焦点は秋の「スペシャルオーケストラシリーズ」になるだろうと思う。今年は10月にノット&東響の「グレの歌」を、そして11月にパーヴォ・ヤルヴィとロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、アンドレス・オロスコ・エストラーダとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ズービン・メータとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が立て続けに登場する、これ以上はなかなか想像できない程の濃密さであったが2020年はどうか。結論を言ってしまえば喜ぶべし、来年もいずれ劣らぬ三つのオーケストラがミューザの舞台に登場してくれる。10月3日にサー・サイモン・ラトルとロンドン交響楽団、11月に入ってワレリー・ゲルギエフとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とバイエルン放送交響楽団(指揮者未定)のコンサートが予定されている。

ここでまず触れなければいけないのはバイエルン放送交響楽団について、だろう。印刷されたパンフレットや、リンク先でご覧になった方もお気づきのとおり、この公演はマリス・ヤンソンスの指揮で予定されていたものだ。聴衆からも音楽家の同僚たちからもますます尊敬を集めていたマエストロの訃報は多くの方がご存知のことと思う。ミューザ川崎シンフォニーホールのサウンドをこよなく愛してくれた、かつて「アルヴィド・ヤンソンスの息子」として、オスロ・フィルハーモニー管弦楽団を率いる注目の若手として現れ、昨今では押しも押されもせぬ巨匠となった彼が、このホールに次に登場することはない。

12/7に訪れたミューザ川崎シンフォニーホールでは、彼の生前の写真を掲出してその死を悼んでいた。

「ミューザのような素晴らしいホールをこのオーケストラのために」と尽力していたさなかの死は無念であろうと想像する。また、PDFデータ版からマエストロの写真と予定されていた曲目を削除しなかったことからも察せられる、ミューザ川崎シンフォニーホールの無念も如何ばかりか。バイエルン放送交響楽団とコンセルトヘボウ管、ふたつのオーケストラと見事な演奏を、最高のホールで披露してくれた相思相愛とも言えたヤンソンスとミューザ川崎シンフォニーホールの関係は、予定されていた来年には続かなかった。もう彼のブラームスは聴くことが出来ない。奇しくも彼の亡くなった日の、一年後が公演予定日だった。


ヤンソンスと同様にこのホールを愛してくれている(そして地元にミューザのようなホールを作ろうと奔走している)サー・サイモン・ラトルが現在率いるロンドン交響楽団との初のミューザ公演に、マーラーの交響曲第二番を用意していたことに、なんとも言えない感慨を覚えるのは私だけではないだろう。ラトルにとって指揮者を目指すきっかけの一曲であり、愛するホールの聴衆に自らのパートナーを紹介するために選んだのがこの作品であることは想像に難くない。ラトルにとってもマーラーの第二番は特別な作品であるし、それを東京公演ではなくミューザに持ってきてくれることの意味はそれだけでも十分に重いものだ。ラトルとロンドン響の新時代が活気あることは前回の来日公演を会場で聴いて、また放送や録音などで見知っている方も多いことと思うので、この公演への期待はそれだけでも高いものとなる。長年のファンとしても、来年の最大の注目公演としてフォントを大きくして書いておきたい。
だが、このタイミングでこのプログラムが発表されることに、ついヤンソンスのことも考えてしまう。ベルリンを退任後にバイエルン放送響との録音もしているラトルが、彼の死を悼むために用意したプログラムではない、そんなことはわかっていてもつい考えてしまう。これはラトルとヤンソンス、現代を代表するマエストロたちがミューザに寄せてくれる愛がなせるめぐり逢わせ、なのだろうか。


今年はサマーミューザにPMFオーケストラと登場したゲルギエフがウィーン・フィルと何を聴かせてくれるかは調整中とのことだが、現在マリインスキー劇場管と素晴らしいチャイコフスキーを披露しているというマエストロがどんなプログラムで私たちを驚かせてくれるか、期待しよう。

なお、前述したとおりロンドン響(10月)からウィーン・フィルとバイエルン放送響(11月)の間には短くない空白があるように見えるが、この間にはノット&東響の「ペレアス」・「トリスタン」定期やモーツァルトマチネ(リゲティまで演奏!)、名曲全集(矢代秋雄!!ブルックナーの第六番!!!)もあるので、否応もなく充実した演奏会が二ヶ月も続いてしまうのである。サマーミューザと並ぶもう一つの”高峰”は、来年も相当な高みに私たちを導くことだろう。

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恒例のシリーズ公演の中で、大きめの変更が行われるのはランチタイム/ナイトコンサートだ。同じアーティストが趣向を凝らしたプログラムで昼・夜の二回公演で(しかも廉価で!)楽しませてくれていたこのシリーズは、新年度には基本的にランチタイムコンサートのみのシリーズとなり、一部の公演で別シリーズとして行われてきた「ワインBAR」シリーズとして併催される。また、ミューザ自慢のオルガンを披露する機会となるランチタイムコンサート(4、7、11、翌年3月)ではオルガンツアーも新設されて、日頃は見られないミューザの舞台裏を回れるということなので、ミューザファンの皆様には続報をお待ちいただきたい(来年1月に詳報予定とのこと)。

また、年明けて2020年1月から始まる「MUZAスペシャル・ナイトコンサート」の新シーズン(2020年6月~)も発表されている。スライド・モンスターズにナベサダのビッグバンド、ザ・キングズ・シンガーズと、日頃のミューザに登場する顔ぶれとは一味違う面々のサウンドがこのホールにどう響くか、注目しよう。

他にもいくつもスペシャル・コンサートが発表されたが、中でも注目したいのは聖金曜日の翌日にバッハ・コレギウム・ジャパンが披露してくれる「マタイ受難曲」だろう。残念ながらミューザ公演はないのだが、鈴木優人が東響とメンデルスゾーン版を披露した直後のタイミングで鈴木雅明がBCJとオリジナルのマタイを、ミューザで披露してくれる。あの劇的にすぎるとまで当時は評された作品がミューザでどのように響くものか、大いに期待したい。

そんなわけで、新シーズンもミューザ川崎シンフォニーホールはその響きに見合う、素晴らしい音楽家たちが続々と登場してくれる。一人でも多くの人に、その最高のサウンドを体験してほしいものだ、といつものように感じた私である。今シーズンの公演もまだまだ続くので、ぜひ川崎駅前のミューザ川崎シンフォニーホールに足をお運びいただきたい、と一人の市民として申し上げよう。

追記。公開後にバイエルン放送協会のこの動画を見つけた。冒頭メータ、ラトルと続くのがまた、何かのめぐり合わせに思えてしまうのだった。



2019年4月10日水曜日

フェスタサマーミューザKAWASAKI2019の聴きどころ その一 ~セット券で読む

先日のは公式モード、今日は私モードだよ!(そこまで砕けてないよ普段のあんたは)。ということで、切り口を変えてフェスタサマーミューザKAWASAKI 2019の楽しみ方をご案内。今回は、セット券でこのお祭りを読み解きましょう。
最初にお詫びしておきますが、この記事は文字ばっかりです。すみません。

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まずはじめに。
ミューザで開催される全11公演を一度にまとめて、同じ席で買えちゃうセット券は、
1.ミューザ川崎シンフォニーホールの特性をよくご存知で、
2.お気に入りの席もとっくの昔に決まっていて、
3.今から全日程の参加を決意している
あなたのための、お得で便利なセット券です。そんなあなたに私から申し上げることは何もありません、友の会先行は4月15日の午前10時からですよ。
(知人友人ご家族サークルなどでシェアして利用する可能性をまったく考慮できない、友だちの少ない私である)

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一度にそこまで決めちゃうのはちょっと無理、でも今のうちに何か行くことまでは決めておきたい…そんなあなたのために、「土日祝セット(6公演)」「平日夜セット(3公演)」「平日昼セット(2公演)」があるのです。まずはセット券で外せない、外したくない公演を抑えて、あとは気になる公演を買い足していけばあなただけのフェスタのプログラムができあがっちまうって寸法だ!(まずは私が落ち着け)

では順番に見ていこう。公演数も多く、公演はすべて週末なので決断しやすい「土日祝セット」から。
まず開幕とフィナーレを飾る東京交響楽団の演奏会。ノット監督による開幕公演(7/27)はもちろん外せないし(解説なし)、お祭りの〆は尾高忠明※によるシューマンの協奏曲とショスタコーヴィチの第五番(8/12)でこれも外せない。
なお、ラインナップ会見にも出席されていた秋山和慶さんは海外へ演奏旅行中という理由で今年は残念ながら出演されないとのこと。

※4/9に、所属事務所より尾高忠明の5/20〜7/20の期間指揮活動休止が発表されている。予定通りに回復されてこの公演が復帰公演となるならばよいのですが。ご快癒をお祈り申し上げます。

続いて上岡敏之&新日本フィルハーモニー交響楽団のロシア音楽によるプログラム(7/28)。このコンビネーションも3年目、ますます相互理解が深まり独自の音楽を聴かせていると聞く。長年オペラで活躍してきた上岡がドラマを描くときの表現力に、それに応える新日本フィルに期待できる好プログラムが用意された。直前の定期演奏会で披露されるフランス音楽プログラムと併せて聴き比べる、そんな愉しみかたもアリだろう。

原田慶太楼&N響のコンサート(8/3)は、曲目だけを見ると小品を中心に編まれているし、このオーケストラなので(失礼)「名曲アルバム」ライヴヴァージョンの趣がある。ですが、なんとこのコンサートではどの曲も5分では終わらずフルサイズで聴けてしまうんです!(本当にすみません)
一回のコンサートで世界各地で生まれた名曲を楽しめるこのプログラムを、近年目覚ましい活躍を見せている原田はどう聴かせてくれるだろうか。N響との共演なのだから、お手並み拝見には最適の機会となろう。

首都圏外からの初招聘となった高関健&仙台フィルハーモニー管弦楽団(8/4)は、ミューザからのオファーに直球で応えてくれた。この機会に選ばれたのはチャイコフスキーの協奏曲と交響曲、いずれ劣らぬ名曲によるプログラム。…東北の雄の実力の程、見せてもらおうか!(ガンダム脳でごめんなさい)

そして最後に紹介するのは、先だって東響に客演して大好評で迎えられたダン・エッティンガーの東京フィルハーモニー交響楽団への”里帰り”公演(8/11)。メインで演奏されるのはチャイコフスキーの交響曲第六番だ。つい最近にバッティストーニと凄絶な録音もあるこの作品、エッティンガーは東京フィルとどんなサウンドで、どんなドラマを描き出すのか?

ということで、このセットはロシア音楽多めでお届けします(私じゃなくて、ミューザ川崎シンフォニーホールが)。これでフェスタの外枠がきっちり抑えられるのだから、週末に時間が融通できる方ならまずはこれを検討すべき。です。

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もっとも、平日の公演が無視できるものではないのもプログラムを見ればわかるだろう。「むしろ週末の予定は直前に決まるので!」、そんなあなたは平日の二つのセットをまず検討しましょう。公演数は少ないけれど、どちらも見どころ聴きどころのある公演が並んでいますよ。
まず「平日夜セット(3公演)」はアラン・ギルバート&東京都交響楽団(7/29)、井上道義&読売日本交響楽団(7/31)、藤岡幸夫&東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団(8/6)の三公演だ。

アランと都響、この顔合わせへの信頼感は共演を重ねるたびに増しているが、この公演では意外な選曲が目を引く。都響でレスピーギをメインに据えたイタリアンプログラム、実に新鮮である。直前の定期ではモーツァルトとブルックナーで【日本オーストリア友好150周年記念】プログラムを披露してから望むフェスタサマー、きっとこのコンビネーションの持つ別の可能性が感じられることだろう。そうそう、帰ってきたミューザのオルガンのサウンドをまずここで楽しむのもアリ、ですよ。

井上道義がお祭りで、読響と何をしてくれるのか?その答えが「ブルックナーの第八番、一曲のみ」というまさかの豪速球である。しかし冷静に振り返れば、井上は近年鎌倉で、京都で大阪でブルックナー演奏を披露してきている(第八番は京都市響との録音もある)。この曲を鎌倉で、N響と披露する前の会見でのコメントがリンク先で読めるので、興味がある方はぜひ参照してほしい。ショスタコーヴィチのイメージが最近とみに強い彼だが、ブルックナーも師匠譲りの大事な作曲家なのだ、とよくわかる言葉の数々に触れられる。

そして今年没後30年を迎える芥川也寸志の交響曲第一番を取り上げる藤岡と東京シティ・フィル。彼の作品の中でも、近年再評価高まる映画音楽や「トリプティク」などに比べて演奏されない作品だが、それをあえて取り上げるところに首席客演指揮者に就任する藤岡からの「やりますよ!」というメッセージを強く感じる。生前、まともなコンサートホールを渇望した芥川の音がミューザに響くことを、きっと作曲家も喜んでくれることだろう。

残るミューザでのセット券は「平日昼セット(2公演)」だ。ここでは川瀬賢太郎&神奈川フィルハーモニー管弦楽団(7/30)、小林研一郎&日本フィルハーモニー交響楽団(8/7)という、気心の知れたコンビネーションによるふたつの演奏会が楽しめる。曲目も川瀬がスペインをテーマに編んだ色彩感豊かなもの、そしてコバケンはいわゆる「チャイコンにベト7」と得意中の得意の作品を持ってくるのだから、この二公演は安心感が高い。しかし、川瀬賢太郎と渡辺香津美は…いや、この話はまた別に。

最後に、同じく週末土曜日にテアトロジーリオ・ショウワで開催される「出張サマーミューザ@しんゆり!」にも「しんゆりセット」があることを書いておく。ドイツの名曲で攻める東響(8/3)、例年通り協奏曲メインで送る神奈川フィル(8/10)の二公演が、昭和音楽大学自慢のホールで開催されます。フェスタサマーには行きたい、しかし幸区は遠い…そんな川崎市西部、東京都多摩地域や町田市など在住のあなたはぜひこちらに参戦されたし。ここの個性である「近代的なホールなのに馬蹄形の客席」というミスマッチもまた楽しいものですよ。

では次回に続く。また切り口を変えてフェスタサマーを切り刻みます(穏やかじゃない)。

2019年4月7日日曜日

大恩人でした ~サム・ピラフィアン(テューバ) 没

昨日あたりから、いろいろと情報が出ていましたが最後の活躍の場だったアンサンブルからの発表がこれをお報せするために参照されるべきでしょう。



エムパイア・ブラスの創設メンバーにして長年テューバ奏者として活躍したサム・ピラフィアンが亡くなった、とのことです。数多くの演奏に感謝を。合掌。

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エムパイア・ブラスの創設メンバー、ジャズを主に演奏するアンサンブル"Traverin' Light"としての活躍でよく知られ、教育にも注力したテューバ奏者、サム・ピラフィアンが亡くなった、という報せは最初こちらのツイートで拝見しました。



これはテュービストの藤田英大さんからの発信でした。ピラフィアンとの交流もあったような方がいい加減な情報を流すわけもないのだけれど、信じたくない気持ちもあって英語ソースが出るまでは、所属しているアンサンブルからのコメントが、親族からの表明があるまでは…寝て起きたら誤報でした、だったらどんなにいいかと思って寝て起きて、確認してみたら上記の情報が出ており、嗚呼もう逃げられないとまずは第一報をアップしたわけです。今はこういう記事も出ていて、彼のキャリアがちゃんと記されています。あらためて合掌。

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今でこそあれやこれやとクラシック音楽の話をしている私ですが、いっとき完全に離れようと思った時期があります。それは大学に入ったばかりの頃、趣味の楽器の演奏もやめちゃって、ちゃらい大学生になろうかと迷った頃。

いま思うと、高校を出て私は不全感に悩んでいたんだと思う。大学生になったらあんなとこやこんなことをしなくちゃだ、みたいなぼやっとした夢しかなくて、進学はしてみたけれどそこで勉強はそれほどできない自分に気付かされて(勉強の仕方を理解していなかったのだと思う)、「新しいことを」と入ってみたオーケストラでは出番が来る日が見えないし(先輩が複数いたので)なにより練習場所が家から遠いもので行くのが嫌になってしまって。たまに音やら吹き方をほめられたりはするのだけれど、練習をがんばろうというモティベーションはもうなくなっていた。仮に出番があってもオーケストラでは吹く時間はほんの少し、前プロでも定期に乗れるのかな自分、その程度のためにやってどうすんのかな、みたいな。
勉強ができれば、楽器が吹ければ、そのくらいしか当時の自分を支えるものがなかったとかいま考えても怖い。勉強もそれなり程度、楽器だってプロを目指せるほどじゃあなかったのに。当時読書癖がなかったら何年も無駄にしただけだったろう、もしくは普通の大人になれていたのかもしれない(そのほうが良かったとか言わないでお願いだから)。

ともあれダメになりつつあった当時の私は、帰省して高校の友人たちと地元のホールでエムパイアブラスのコンサートを聴く機会を得た。経緯はもうまったく思い出せない。

私が高校生くらいの頃までは、アメリカン・ブラス・クインテットやカナディアン・ブラスのようなエンタテインメント色の強いアンサンブルが人気で、その時点で私はエムパイアブラスのことなんて金管五重奏であること以外何も知らない。もちろん、メンバーのことも、そのサウンドも。そんな腐った状態で聴くエムパイアブラスがどんな衝撃だったか、想像できますでしょうか。プログラムは「エムパイアブラス・イン・ジャパン」「バーンスタイン、ガーシュウィン」あたりの路線だったはず。
いま振り返って私が言えるのは、「ここであの音に出会わなかったら、音楽からは離れていただろう」ということだけです。自分が普段演奏していた楽器が持っている可能性を、音楽の美しさと楽しさ、コミュニケーションの喜びを、言葉ではなく一度の演奏会で教えていただけたから、音楽から離れられなくなった。もちろん、それは私にとってはいいことだった。おかげさまで、その後私はバーンスタインの作品に出会い(エムパイアブラスは「ミサ曲」の初演でロルフ・スメドヴィクとサム・ピラフィアンが集められたことから結成されたアンサンブルです)、彼らの演奏を聴くうち自分の嗜好が形作られて、そこからやっと自分の欲しいものがわかるようになっていったのだから。
その後は家から近いところで練習している吹奏楽部に入って、自分の音が好きになれるように基礎練習をずいぶんとしましたわ。そこから先に進むヴィジョンがなかったあたりに自分の限界を感じてしまうのだけれど、それでも私は楽しくテューバを演奏する時間を持てるようになりました。嗜好や技術のなさ故に彼のようなアンサンブルやソロでのジャズなんて望むべくもなかったけれど、少しはマシな音で演奏できるようになれたと思います、その当時。

その後私は嗜好も変わって時間も取れなくて(音楽は圧縮して経験することができませんからね)、だんだんに吹奏楽界隈、テューバ界隈からは離れてしまって、買い揃えていたエムパイアブラスの録音もだんだん歯欠けになって…と彼の”現在の”音楽からは離れてしまいました。今はもうテューバだって演奏していない。それでも、今のこんな私の、最良の部分があるのはサム・ピラフィアン(と、スメドヴィクがリードしていた時代のエムパイアブラス)のおかげなんです。訃報のタイミングでしかこれを言えない自分になんというか不甲斐なさは感じますが、心からの感謝を送らせていただきたいと思います。


2019年3月27日水曜日

今年もまた熱い夏が来る 〜フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 ラインナップ記者発表会

2019年3月27日(水)、ミューザ川崎シンフォニーホールの市民交流室で「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2019」(以下フェスタサマー)のラインナップ記者発表会が開催された。福田紀彦 川崎市長、そしておなじみホールアドバイザーの秋山和慶と松居直美、小川典子、そしてこのホールを本拠地として活躍する東京交響楽団 楽団長の大野順二にくわえ、日本オーケストラ連盟から名倉真紀が登壇した会見では、休館からの復帰公演のシリーズとなり、より注目を集める(厳密には7月初旬から公演が始まる)フェスタサマーと、ホール15周年を飾る公演について熱い言葉が語られた。


今年は7月27日(土)に開幕し、8月12日(月・振休)まで16日間にわたって数多くのコンサートが連日開催される(8/5のみ演奏会なし)。首都圏のオーケストラによる特色を活かした公演の数々、ホールアドバイザーによる企画、そしてゲストの登場にと多彩なプログラムは今年も健在。今年の注目ポイントはやはり、初の首都圏外からの参加となる仙台フィルハーモニー管弦楽団の登場だろう(8/4)。これで首都圏のオーケストラによるお祭りから、”日本の”オーケストラの祭りへと、スケールがまた大きくなることになる。
ではプログラムを見ていこう。かつては定期公演の”ハーフ・ポーション”公演も特徴としていたフェスタサマーだが、もはやその枠に収まらない公演が目立つようになった。「定期公演で仕上げた演奏を、最高の会場でさらに高める演奏会」や、「ぜひ機会を作って演奏したかった作品に挑む絶好の機会」など、それぞれがひとつのチャレンジの場としてこのフェスタサマーを活用しているようにさえ見える。今年のプログラムでは、クロスオーヴァー的な軽めの演奏会はなくなって、どれを取っても聴き応え十分のプログラムが並んでいる。会見の中で山本事業課長が語ったところによれば、「セット券として組んだ公演ごとにテーマをもたせた格好」とのことなので、ぜひ皆様もその意図のほどを読み解いてみてほしい。
広く市民、いや首都圏民に楽しまれるフェスタサマーだが、意外にレアな作品も多く演奏されることはご存知の方も多いだろうけれど、今年は開幕公演から「ノット&東響の『サンダーバード』」(!!!)、「アラン&都響のヴォルフ、レスピーギ」「川瀬&神奈川フィルのスペイン物 with 渡辺香津美(エレキギター使用!!!!)」「藤岡&シティ・フィルの芥川交響曲第一番」(!!!!)などは聴き逃せない。また、いわゆる「王道」プログラムの数々も充実している。「上岡&新日本フィルのロシア物」「ミッキー&読響のブルックナー 第八番」「コバケン&日本フィルのチャイコン・ベートーヴェン 第七番」などなど、それぞれに聴きどころあるコンサートが今年も揃っている。これまで夏のコンサートとして軽めのプログラムを披露してきたN響も、名曲プロとはいえクラシック作品のみ(しかもソリストに反田恭平!)と、ライト層からコア層まで存分に楽しめることだろう。
もはや日本を代表すると言っていいホールに初登場の仙台フィルハーモニー管弦楽団は、郷古廉をソリストに迎えてストラヴィンスキーとチャイコフスキーのロシア物を演奏する。一曲目こそあまり演奏されない「サーカス・ポルカ」だが(個人的には大いにオススメしたい)、チャイコフスキーは名曲中の名曲を揃えたプログラムで、堂々たるミューザデビューとなることだろう(なお、フェスタサマー期間中、このホールでヴァイオリン独奏が聴けるのはこの公演だけなので、その点からも注目してほしい)。

佐山雅弘の急逝は、このホールのエンタメ部門への多大な貢献を思えば小さからぬ影響をフェスタにも与えるかに思われた。しかし故人の遺志を組んだかたちでフェスタサマーに今度は単独で再登場する大西順子トリオ(8/8)、共演も好評だったオルガニストのルドルフ・ルッツによるリサイタル(8/10)は私たちを楽しませ、また故人を忍ばせてくれるものとなるだろう。

アウトリーチ公演の充実もフェスタサマーの変わらぬ特徴の一つだ。休館明けてすぐの「ミューザの日2019 ウェルカムコンサート」(7/1、まさに15年前に開館したその日の開催)から続けて楽しめるプログラムが今年も用意されている。
「こどもフェスタ」として開催されるホールアドバイザーの小川典子による「イッツ・ア・ピアノワールド」(7/28)、かわさきジュニアオーケストラ発表会(8/10)の二公演、そして市内の音楽大学による演奏会(洗足学園の恒例”バレエとのコラボ”公演は8/1、昭和音大のコンサートは8/9)は廉価で楽しめるコンサートとして今年も好評で迎えられるだろう。無料企画の「音と科学の実験室 夏ラボ!」や、「若手演奏家支援事業2019 ミニコンサート」も来場者を楽しませてくれるのだから、幅広く多くの方が来場されることを期待したい。
大震災により強いられた休館の副産物として、川崎市西部での開催が続いている「出張サマーミューザ@しんゆり!」も今年も開催される。堂々たるドイツ音楽プログラムを東京交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団が披露するので、川崎市西部、東京都多摩地区や町田エリアにお住まいの皆様はお見逃しなく。

特別参加として一昨年以来にワレリー・ゲルギエフ指揮PMFオーケストラが参加することもこの日発表された。メインにはショスタコーヴィチの交響曲第四番が置かれ、またしても堂々たる大コンサートの予感である。なお、未発表の独奏者は「第16回チャイコフスキー国際コンクール・木管楽器部門 優勝者」を予定しているとのことで、見出されたばかりの若き才能に見える機会ともなることが明かされている。
そうそう、今年のフェスタサマーのタイトルは「15年目の熱響へ!」である。少し気が早いが言っておこう、今年もまた熱い夏がやってくるのだ、と。

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会見では、ミューザ川崎シンフォニーホールの開館15周年記念公演として秋に行われるシェーンベルクの大作「グレの歌」の演奏会についても触れられた。開館からこれまで、節目を飾ってきたマーラーの交響曲第八番から演奏頻度の低い、しかしこのホールこそ作品に最適と思える作品として、かつノット&東京交響楽団が演奏すべき作品として、この大編成の作品を選んだ、と竹内淳事業部長は語った。もっとも、今年在京オーケストラで「グレの歌」公演が連続したのは予想外だったとのことだが、「解像度の高いサウンドを特徴とするミューザ川崎シンフォニーホールで、声楽を交えた大編成のこの作品を聴いていただくのが最適だと考える」と自信を見せた。
また、現在進行中の改修工事は順調に進んでいることも明かされ、「好評で迎えられてきた従来のサウンドと、PAを使用した場合の聴きにくさの改善」が図られているのだという。内装などの変化もないということで、一見したところではわからないかもしれない改修だということだった。

ただし、以前からホールのホームページなどで紹介されていたオルガンの調整については、松居直美から「これまでも高く評価されてきたミューザのオルガンの美点である、全体の音像が調和する特性がより良くなった」とのコメントがあった。従来のホールの強みを更に伸ばし、弱みとされた部分や旧態化した設備を入れ替えて、と正常進化してミューザ川崎シンフォニーホールは再登場する、ということなのだろう。
そのサウンドの健在ぶりを、進化の程を確認するためだけにでも来場する価値のあるフェスタサマーは、今年もノット&東響のオープニングファンファーレで開幕し、尾高忠明と東響、そして昨年の浜松国際ピアノコンクールの覇者チャクムルの共演で幕を下ろす。4月のチケット発売まで、まずはじっくりとスケジュールとプログラムを読み解いてお待ちください、と私からも申し上げておこう。
>フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 公式サイト

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私なりの聴きどころを簡単にまとめました。三つもあるから長いんですけど、よろしければどうぞ。

>その一 セット券で読む
>その二 レア曲を聴く!
>その三 独奏者を聴く

2018年11月14日水曜日

訃報 佐山雅弘(ジャズピアニスト)

ジャズピアニストの佐山雅弘氏が本日14日に亡くなられた、との報を、ミューザ川崎シンフォニーホールのサイトで知った。
佐山氏のサイトを拝見すると9月には公演を行えていて、だが今月上旬には2つキャンセルがあった、けれど今週16日にはアドバイザーを務めるミューザ川崎シンフォニーホールでの公演を予定されていた。今月26日には65歳の誕生日を迎えるところだった。

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ミューザ川崎シンフォニーホールとは開館前から少々のご縁がある。とは言いつつもこの”縁”の始まりはお仕事上のことなので詳しくは書きにくい(正直、もう昔話だからいいんじゃないかなと思う気持ちもある)。開館前に内覧会で一度ミューザの音を経験し、仕事は開館後もしばらく続いた、そして仕事を変えてからは一人の聴き手として演奏会を楽しんだり、ライターとしてあれこれの公演を紹介して今に至っている。ここ最近はホールになかなか伺えていなくてなんとも不甲斐なく、いろいろと口惜しい思いをしているのだが。
そんな私が少しばかり知っているあのホールの昔話を、アドバイザーを開館前から務めてくれた佐山氏への合掌の代わりに書いておこうと思う。

今でこそホールのフランチャイズ・オーケストラとして声望を高め続ける東京交響楽団とともに評価を高め、また世界から来演する音楽家たちの称賛を受けて世界有数の名ホールと評価されているミューザ川崎シンフォニーホールだが、その音が体験される前にはそこまでの期待値はなかったように思う。実際、当時の同僚たちは昔の川崎のイメージを引き合いに出してからかったりもしていたし、”東京”を名に冠するオーケストラが川崎をフランチャイズにすることにも少々の混ぜっ返しがあった。いまでは東響とミューザ川崎シンフォニーホールのコンビネーションはもはや切り離すことができない、と言ってしまえるからこんなポジティヴでもない話にも触れられるのだが。
開館公演にありがちな(失礼)「第九」ではなくマーラーを、それも第二番ではなく第八番を選んだのは当時としてはかなり挑戦的な試みだったし、それは私も含めた音楽ファンに東響とミューザ川崎シンフォニーホールへの関心を掻き立てたものだ。大人数の合唱を要求する第八番の選曲には、「より多くの市民の参加を可能にするため」という公共ホールならではの事情もあっただろうけれど、2002年の時点で自らの「最初の音」としてあの交響曲を選んだホールはそれだけでも尊敬に値した。そしてホールと東京交響楽団は定期に加えて共同企画による「名曲全集」、そしてオペラも含むいくつかの特別演奏会で取り上げる作品を拡大して今に至っている。あの大地震の影響による休館もあったけれど、総じて素晴らしい歩みだ、と私は思う。

だが、である。私が手放しで喜んでいるということは、市民の多くは(なんかよくわかんないけど駅前にホールあるんでしょ)くらいに思っている、という可能性もある、というか高い。いやもっと酷くて(なんですかそれ)かもしれない(悲しい想像はここまで)。
どんな演奏会やイヴェントについてでも、なにかしら書かせてもらうような機会には、私みたいなのではなく「音楽が好きな人」にも届くようにと考えて書くわけだけれど、たとえば「フィガロの結婚」を短い文章で何も知らない人にどう紹介すればいい?けっこう詳しいクラシック音楽ファンでもその含意を察しにくいだろう、ヴァレーズとシュトラウスが並ぶプログラムなんてどうやってその面白さをお伝えしよう?(否定しているわけではない、どころか聴きたくて仕方がない、というのが私のスタンスです)

「実際に、会場に足を運んで体験してもらえれば」とは私のような末端も含めて誰もが思い、ときには口にする(こんなふうにね)。正直なことを言ってしまえば最後はそれしかない、と私は思う。だって会場で体験できることを事前に伝えることはできないし、体験した人もその経験を言葉で完全に再現できるわけがないのだから。それでも何かを書いて誰かに伝えるのは、そこで起きたことがどういう物事だったか、それを会場に消えていった響きの代わりに残しておきたいから。そのような出来事があったという事実だけでも残しておきたいから、そんなささやかな希望からだ。
それはきっと同好の士には届くかもしれない、でもコンサートやオペラを見たことも聴いたこともない、そういう人たちがコンサートホールに近づく契機はそのような行動の中にあるのか、ありうるのか。残念だが、接点を私が作り出すことは、ほぼできないだろう。

だが幸いなことに、大都市である川崎市はこのホールの運営にそれぞれに専門分野の異なる有力なアドヴァイザーを複数招くことができたから、開館以来いくつかの方向の異なる可能性を同時に示し、魅力的な発信を続けられた。招致時点で秋山和慶が率いていた東京交響楽団との歩みは前述の通りだが、たとえばピアニストの小川典子は自身の演奏だけではなく子どもたちとの交流をも用意した。ホール専任のオルガニストを選んだことで自慢の施設を有効に利用した。それらは疑いようもなくホールへの興味を引くことに成功し続けているだろう、しかしそれは予備軍も含めた「クラシック音楽を好きな人」が対象だ。もちろん市民の多数派はそうではない人たちだ(残念ではあるが潔く認めよう)、では市の施設としてより広い層に存在をアピールし、その魅力を知ってもらうにはどうすればいい?
そう考えたからかどうかはわからないが、ホールはジャズピアニストの佐山雅弘をアドヴァイザーに迎えた。彼自身の演奏、また彼が認めるミュージシャンたちの演奏をミューザ川崎シンフォニーホールで聴くことの素晴らしさを、彼はいくつもの企画で伝えてくれた。その功績には、感謝しか申し上げられない。
開館前の、彼の企画を実際に聴く前の私はその人選をうまく理解できなかったことを正直に告白する。素晴らしいコンサートホールとして、東響がいて外来公演もあって、ピアノにオルガン、室内楽もやるのだろうし、おそらくはアマチュアの公演などでもスケジュールは埋まっていくのだろう、声楽は、どうなのかな?…果たしてそこにジャズは、ポップス寄りの公演は入る場所あるの?と当時は怪訝に思ったわけだ。だが今なら上述のように、いくつかの方向性の一つとしてジャズを含むポピュラー寄りのプログラムは必要だったとわかる。実際、「プログラムに知らない曲が並んでいるとスイッチが入る」「名前だけ聞いたことがある作品が取り上げられるコンサートに興奮してしまう」私のような少数派ではない多くの聴衆に、佐山氏の企画は愛されてきた。
…だが、である。こと自分について言うならば「最高の音響で聴くジャズという贅沢」に少しくらいは思い当たるべきだったんじゃあないのか、と反省もしてしまう。自分の出身高校の近くに渾身のオーディオシステムが自慢の名の知れたジャズ喫茶があったのだから、自分はその魅力を知っていたじゃあないか。彼の企画による演奏会の客席で、どんなオーディオでも再生できないだろう、最高にリアルなサウンド(あたりまえだが、こう言うしかないのだ)に興奮した日に、ようやく気がついた自分の不明を恥じる次第である。

3日にわたって個性的なミュージシャンたちがミューザ川崎シンフォニーホールに登場した数年前のかわさきジャズに軽い疲労を感じつつも興奮したことを、私はつい最近のことのように思い出せる。そのかわさきジャズ開催中というこのタイミングでの佐山氏の訃報に、なんと申し上げたものかと迷った挙げ句に以上の駄文を認めさせていただきました。佐山さん、いくつもの素敵な公演をありがとうございました。最後にやはり、合掌を。

2018年9月8日土曜日

セイジ・オザワ松本フェスティバル、2019年のプログラムを発表

9月7日に全日程を終了したセイジ・オザワ松本フェスティバルが、来年夏の開催予定を発表した。以下Facebook参照。



詳しくはリンク先を確認してほしいが、以下がポイントとなるだろう。

・2015年以来にSKOによるオペラを上演、作品はチャイコフスキーの「エフゲニー・オネーギン」。指揮にはファビオ・ルイージを迎える。
・今年は出演できなかった小澤征爾は、オーケストラコンサートに登場の予定。共演に内田光子を迎える。

他の公演についてなど、詳細はまた後日の発表となる。なおフェスティバルの公式サイト上では、記事作成時点でまだリリースを掲示していない。


2018年9月6日木曜日

東京交響楽団の新シーズンを見てみよう(その二:おなじみの面々、そして~編)

大変な災害が続いております。各地の皆さまのご無事をお祈り申し上げます。

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(承前)

2018年9月4日、東京交響楽団の2019-2020シーズンのプログラムについて話を続けよう。前回は音楽監督を務めるジョナサン・ノットが指揮する演奏会について紹介したが、今回はオーケストラのポストを担うある意味おなじみの面々、そしてポストには就いていないけれど客演を繰り返して聴衆にもおなじみの日本人指揮者たちの演奏会を取り上げる。

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このくくりで紹介すると唯一の非日本人となってしまう桂冠指揮者ユベール・スダーンの6月の演奏会をまずは紹介しよう(定期演奏会6/15、名曲全集6/16)。
現在の好調の礎を築いたスダーンは、近年の来演では一線を画した選曲で存在感を示している。来るシーズンにはノット監督以外にも時代を超えた選曲による興味深いプログラムが多数見受けられるのだが、今回スダーンが選んだのはシューマンとチャイコフスキー、ロマン派の作曲家たちなのだ。シューマンはかつて交響曲チクルスもあった、そして二人の作曲家が取り上げたバイロンのドラマにより形どられるプログラムの構成は巧みなものだし、マンフレッドの人物造形におけるゲーテの「ファウスト」との相互影響を思えば、彼のプログラムを追うことでその確たる一貫性は確認できる。
だがそれ以上に、その独自路線には、まるで”彼の時代が今も続いていたら…”というifを感じさせるものがある。モーツァルトの演奏で調性感を明示できるオーケストラになり、近代の作品までを十分にこなせるようになった彼の時代を思い出そう、それを進めた先にはロマン派に強い東響が、21世紀のモダン楽器オーケストラのあるべき姿として見えていたのかもしれない。そんな夢想をしてしまうのは、私の中にまだ彼の時代の音が残っているから、なのだろう。70代のスダーンが示す、20世紀から地続きの”現在のオーケストラ”像に期待してしまうのだ。

70代、と年齢でくくるつもりはないのだけれど、次はスダーンの前任者であり同じく桂冠指揮者である秋山和慶(現在77歳)のコンサートを紹介する。齢を重ねてなお健在の秋山は新シーズン開幕公演となる2019年4月定期(4/21)、そして「名曲全集」の第九公演(12/14)、そして恒例のニューイヤーコンサート(2020/1/5)と、節目節目の公演に登場する。中でも注目されるのは、新シーズンの開幕を飾るコンサートだろう。なによりそのプログラムの若々しさときたら!メシアン(1908-1992)、ジョリヴェ(1905-1974)、ルシュール(1899-1979)、イベール(1890-1962)と、20世紀のフランス音楽を集めたこのプログラムが今年喜寿を迎えた指揮者のものだと誰が思うだろう?またメシアンは初期の作品、残る三曲にオリエンタリズムの最後の輝きとも言えそうな作品を選ぶあたり、さすがとしか言いようがない。イベールの出世作にしてステレオ録音時代に特に人気を博した「寄港地」で終わるプログラムは、指揮者の企みとエンタテインメント性が両立するコンサートとなることだろう。脱帽である。

ガブリイル・ポポーフの交響曲第一番、ウド・ツィンマーマンの「白いバラ」と秘曲を日本初演してきた正指揮者の飯森範親は、新シーズンも我々に知られざる名曲を紹介してくれる。2020年1月の定期ではラッヘンマン、リーム、アイネムの作品とR.シュトラウスの「家庭交響曲」という、超重量級としか言いようのないプログラムで我々に再び挑む。
もっともそうした”挑戦”とは別に、「名曲全集」では東響コーラスとロシア名曲プログラム(5/12)、チェロの新倉瞳を迎えてのファジル・サイによる新曲&ラヴェル管弦楽名曲集(東京オペラシティシリーズ 2020/3/21)といった親しみやすいプログラムでも登場するので、身構えることなく充実した演奏を楽しませてくれることだろう。

新シーズンには、これまでも東響との共演を重ねてきた日本人指揮者たちも登場する。その演奏会を登場順に見ていこう。

まずは「名曲全集」に登場する沼尻竜典だ(11/10)。曲目はピアノ・デュオで世界的に活躍するユッセン兄弟を迎えてのモーツァルト、そしてショスタコーヴィチの交響曲第一一番だ。ショスタコーヴィチのこの作品が「名曲全集」に乗る時代が来たのかという個人的な感慨もあるのだが、そんなプログラムでも合わせ物にも大編成管弦楽の扱いにも長けた沼尻なら、という安心感が強い。ユッセン兄弟の息の合った演奏も注目しよう。


首席客演指揮者の大友直人は、「名曲全集」の大トリとして登場する(2020/3/8)。フランス音楽の名曲を集めたプログラムを、若きピアニストの紹介とホール専属のオルガニストと東響との共演の場とする、目配りはさすがヴェテランの仕事である。

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日本人マエストロたちと東響の共演は、サントリーホールでの「こども定期演奏会」でも楽しめる。角田鋼亮(4/14)、沼尻竜典(7/7)、下野竜也(9/8)、飯森範親(12/15)と東響、素敵なソリストたち、そして司会の坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)がチームとなって新シーズンも子どもたちにクラシック音楽の魅力を伝えてくれることだろう。
また、子どもたちへのアウトリーチプログラムとしてはこれも恒例の「0歳からのオーケストラ」がGW目前の4月27日に開催される。ズーラシアンブラスと東響による恒例のコンサートは、今年に続いて水戸博之が指揮する。ご家族揃って楽しめるコンサートとしておなじみだが、2019年は会場がカルッツかわさきに移るのでそこは注意しておこう。※

※「名曲全集」のはじめ二回の公演もカルッツかわさきで開催される。

さて、何人かの日本人客演指揮者の話題は次回最終回に持越しとして、ひとまずはここで終わらせていただこう。残る公演も共演者や曲目に趣向が凝らされたものばかり、ということのみ予告しておく。

2018年9月5日水曜日

東京交響楽団の新シーズンを見てみよう(その一:ジョナサン・ノット編)

2018年9月4日、東京交響楽団の2019-2020シーズンのプログラムが発表された。ミューザ川崎シンフォニーホールを本拠とし、ユベール・スダーンとの数々の演奏で声望を高め、現音楽監督ジョナサン・ノットとの欧州ツアーやレコーディングなどで音楽ファンの信頼を揺るぎないものにしつつあるオーケストラは、新シーズンに何を聴かせてくれるだろう、何を体験させてくれるだろう?その全貌を紐解くには否応なく文量が多くなるため、複数回に分けてそのプログラム、共演者を紹介してみたい。

なお、東京交響楽団の年間プログラムとしてリリースされたのは、サントリーホールでの定期演奏会(年10公演)、ミューザ川崎シンフォニーホールでの川崎定期演奏会(年5公演)、東京オペラシティコンサートホールでの東京オペラシティシリーズ(年5回)の主催公演シリーズ、そしてミューザ川崎シンフォニーホールでの「名曲全集」(年10公演、うち最初の二回のみカルッツかわさきで開催)、サントリーホールでの「こども定期演奏会」(年4回)の共催によるシリーズ、そして恒例となったズーラシアンブラスとの共演による「0歳からのオーケストラ」、年末の第九公演、そしてニューイヤーコンサートと盛り沢山なのだが、ここでは適宜指揮者や共演者に触れる中でコンサートを紹介する形を取る。何も加工されていない情報で十分である向きには、下記のリンク先で全プログラムをご覧になることをお勧めする。

>年間パンフレット(pdfファイルが開きます)



※これまで多くの困難を乗り越えてきた東京交響楽団の現在に至る歴史は、こちらのPVがコンパクトに紹介してくれている。東京交響楽団の歴史は、そのまま戦後日本の一つの側面を描き出す、興味深いものだ。

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新シーズンを見ていくのならば、まずはそのノット監督との演奏会から話を始めるべきだろう。東響の数多くのプロジェクトの中でも彼らのコンビネーションが6シーズン目を迎えてどこまで深化するのか、どこに向かおうとしているのか、それこそがまずは注目を集めるものとなるだろうから。そして今ではなんの曲を演奏しても話題を呼ぶノット&東響なのだから、ここでは奇を衒うことなく演奏会の時系列で順を追って紹介するのがいいだろう。

シーズン最初にノット監督が登場するのは5月の2つの公演だ。まずはサントリーホールでの定期演奏会、そして東京オペラシティシリーズの二公演、それぞれ異なる二つのプログラムが用意されている。

最初のコンサートは東京オペラシティシリーズ(5/18)、ヤン・ロビンの「クォーク」、そしてベートーヴェンの交響曲第七番他によるプログラムだ。残る一曲がどうなるとしても、多くの打楽器を含む大編成管弦楽と凝縮されたベートーヴェンとのコントラストは鮮烈なものになるだろう。
ソリストのエリック・マリア・クテュリエはアンサンブル・アンテルコンタンポランでも活躍するチェロ奏者だ。そんな彼ならば、1974年生まれの作曲家の作品も魅力的に演奏してくれることだろう。


その翌週にはサントリーホールでの定期演奏会でブリテンとショスタコーヴィチ、生前交流のあった二人の作品による20世紀音楽プログラムが披露される(5/25)。シーズン5でエルガーを取り上げたことが一つの契機になったのだろうか、マエストロは出身国の音楽により積極的になったようにも感じられる。また、ショスタコーヴィチは東京交響楽団が日本初演した作品も多く、キタエンコらロシアのマエストロたちと名演を繰り広げてきた作曲家だ。その最も知られた作品を、ノット&東響はどう聴かせてくれるだろうか。

続いての登場は7月、サントリーホールとミューザ川崎シンフォニーホールで披露されるプログラムこそはノット&東響の真骨頂と言えるだろう(7/20&21)。J.シュトラウスIIのワルツから「2001年宇宙の旅」でも知られるリゲティの「レクイエム」、タリスのアカペラ合唱曲を経てR.シュトラウスの「死と変容」に至るこのプログラムばかりはいくら言葉を尽くしてもその魅力を説明することはできないだろう。生と死を巡るドラマのようなものを想定することは可能だし、秩序と混沌のコントラストを予想することはできる。だがしかし、「考えるな、感じろ」ではないが、こればかりは「体験してみてほしい」としか言いようがない。
なお、このコンサートでリゲティとタリス、全く異なる性格の作品に取り組む東響コーラスにも注目だ。アマチュアだろうと聴き手だろうと「音楽家」に限界など存在しないのだ、と言っているかのような、チャレンジングなプログラムとなる。

さて、夏を挟んで10月からは三ヶ月連続でノット監督が登場する。
まず10月はアイヴスとシューベルト、そしてメインにブラームスのピアノ協奏曲第一番を置いたプログラム(定期演奏会10/12、「名曲全集」10/13)。方向、時代の異なる「答えのない問いかけ」を受けて後半のブラームスで開放される、そんな体験となるのだろうか?
ここでソリストに招かれるヴァーヴァラはノット監督自身がゲザ・アンダ国際ピアノコンクール(スイスで開催)で見出した才能という。若きブラームスの思い余った感もある協奏曲で彼女はどんなピアノを聴かせてくれるだろう?注目である。



続く11月には”ロマン派の極限”とも”転換期の爛熟”とも言えそうな、ベルクとマーラーによる濃密なプログラムが用意された(定期演奏会11/16、川崎定期演奏会11/17)。新ウィーン楽派の演奏がオーケストラの色彩感を引き出す上で重要と考えるノット監督のベルクは以前に演奏した「ルル」組曲でもお墨付き。そして定期的に取り上げてきたマーラー、シーズン6には第七番を演奏する。「大地の歌」まで網羅した交響曲全集を録音済みのノット監督のマーラー愛がうかがえようというものだ。今回はハンマーを用いる第六番ではなく、楽章ごとに曲想がまったく異なる第七番をベルクと並べるが、その意味は、効果は果たして。そんな選曲意図にも興味は尽きないところだが、このプログラムはオーケストラの演奏効果の高さも見逃せない。
そして同月の東京オペラシティシリーズでは、これとは対照的にリゲティ、R.シュトラウス、モーツァルトによる、室内楽的とも評せる作品が配されている(11/23)。大編成管弦楽の豪奢と室内楽的対話の妙、この対照的なオーケストラの可能性を示す二つのプログラムで、シュトラウスのソリストを務める荒絵里子(オーボエ)のみならず、東京交響楽団の奏者全員が技量の限界までを発揮して我々を魅了してくれることだろう。

そして12月は、このシーズンからノット監督が年末の第九公演に登場だ(12/28、29)。ベートーヴェン演奏となれば全身全霊をかけて作品に打ち込み、オーケストラにも多くを求める彼が第九を演奏する。序曲も協奏曲もなしのベートーヴェンの交響曲第九番、そこにはかえって年末結びの一番といった風格さえ感じられてしまう。入魂の演奏を期待しよう。

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さてノット&東響の多くの演奏会を紹介してきたが、個人的に最も注目したいのは、彼らにしては”普通”のコンサートプログラムに見える2019年5月の定期演奏会だ。ブリテンのヴァイオリン協奏曲とショスタコーヴィチの交響曲第五番によるプログラムは一見すれば7月定期(サントリー&ミューザ)のような”ノット&東響にしかできないプログラム”ではない、かもしれない。しかしこれまでのノット&東響が取り上げてきたショスタコーヴィチ演奏がもたらした衝撃を考えると、この一度限りの演奏会がどうしても気になるのだ。
ショスタコーヴィチとブリテンの交友についてはご存知のかたも多いだろう、このプログラムにもそうした配慮がめぐらされているのは疑いようもない。大戦の、冷戦の時代に違う体制の世界を生きた作曲家たちを並べたプログラムは、かつての衝撃的な第一五番(リゲティのポエム・サンフォニックで開幕したあの!)のそれよりは穏当に、普通に見える。だがこれまでのショスタコーヴィチ演奏で、旧来語られ続けてきた”ソヴィエトの音楽家の物語”とは別のドラマを作品から導いてくれたノット&東響は、誰もがよく知る第五番でもきっと彼らにしかできないなにかを聴かせてくれるはずだ。そう、私の直観が強く叫んでいる。

もちろんすべての公演が注目されるべきノット&東響なのだけれど、私の言だけではそこまで心動かないならばぜひその演奏を聴いてみていただきたい、と思う。すでにリリースされている何枚かのCDもあるし、幸いなことに9月23日のEテレ「クラシック音楽館」ではノット&東響の4月の演奏会が全国に放送される。渾身の”マーラー&ブルックナーの未完成交響曲”によるプログラムは、私の言葉がいらないほどにその魅力を皆さまに届けてくれるものと確信している。

さて次回は東京交響楽団を支える指揮者たちの演奏会を取り上げる。スダーンや秋山、大友に飯盛といった面々、そして”常連”の日本のマエストロたちのプログラムをみていく予定だ。

>その二へ

2017年6月12日月曜日

ノット指揮 東響によるコンサートオペラ「ドン・ジョヴァンニ」キャスト発表!

こんにちは。千葉です。注目の公演情報ですよ。


昨年末に「コジ・ファン・トゥッテ」が大好評裏に開催されたノット&東響@ミューザ川崎シンフォニーホールのコンサートオペラ第二弾は「ドン・ジョヴァンニ」です。やったね!(この作品も大好きなので)

注目のキャストが15日に発表されました。以下のメンバーがこの12月、ミューザ川崎シンフォニーホールに登場します。

ドン・ジョヴァンニ:ミヒャエル・ナジ
Don Giovanni: Michael Nagy

レポレッロ:シェンヤン(沈羊)
Leporello: Shenyang

ドンナ・アンナ:ローラ・エイキン
Donna Anna: Laura Aikin

ドン・オッターヴィオ:アンドリュー・ステープルズ
Don Ottavio: Andrew Staples

騎士長:リアン・リ
Commendatore: Liang Li

ドンナ・エルヴィーラ:エンジェル・ブルー
Donna Elvira: Angel Blue

マゼット:クレシミル・ストラジャナッツ
Masetto: Kresimir Strazanac

ツェルリーナ:カロリーナ・ウルリヒ
Zerlina: Carolina Ullrich

現時点ではドン・ジョヴァンニの彼はラトルの「魔笛」にも出ていたなあ、とかマゼット役のストラジャナッツが「ワルシャワの生き残り」&ドイツ・レクイエムのときに来た彼ですね、くらいしか書けませんし。
※ドン・オッターヴィオ決定につき更新しています。

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なおチケットの発売は6月ですが、この公演を含む三公演を「スペシャル・オーケストラ・シリーズ」として3月に先行販売します。大好きなコンセルトヘボウ管がついに新首席指揮者ダニエレ・ガッティとの来日を果たす公演、そしてサー・サイモン・ラトル最後のベルリン・フィルとのツアー、そしてこの「ドン・ジョヴァンニ」を確実に入手する好機ですよ!(垂涎のあまり涙目で書いています)
※追記。ベルリン・フィル完売しました(あたりまえですが、いちおうね)

ということで12月10日(日)は今から予定を開けておいてくださいね!というご案内でした。ではまた、ごきげんよう。

※今年はなんと一回しかステージがない!という悲しい現実がございます。昨年は二回だったから、初日ミューザの感想を受けて池袋に行かれた方もいらしたことでしょうに…
であれば仕方がないのです、ぜひ12月10日に!チケットはこちらで!

2017年6月8日木曜日

NHK「あなたの記憶に残る名演」リクエスト募集中

こんにちは。千葉です。

いつもご紹介しておりますNHK Eテレの看板番組(盛りすぎ)「クラシック音楽館」のサイトを拝見しましたら、こんな募集がございましたので私からもご紹介を。

●「あなたの記憶に残る名演」リクエスト募集

「NHKのアーカイブスに残る貴重な名演奏を映像と共にお送りする「あなたの記憶に残る名演」を、今年秋に放送する予定」、伴って「1950年代から、今年の演奏会に至るまで、テレビでもう一度見たい思い出の名演奏を募集」。サイトから引いたこの二文で十分ですね(笑)。受付期間は特に記載されていませんので、リクエストするなら早めのほうがいいんじゃないかなと思いますよ。

昔、よく冗談本気で「俺、NHKに就職してアーカイヴ漁ってやるんだ」と言っていた先輩がいましたけれど、彼は元気でいらっしゃいますかしら。1950年代だとウィーン・フィルの初来日(指揮はパウル・ヒンデミット!)やアンチェルとチェコ・フィル、イタリア歌劇団あたりからですね。そうそう、ストラヴィンスキーの来日公演も忘れちゃいけない。
60年代となれば大阪国際フェスティバルもありますし、バーンスタインの来日もありうるのかな。そして80年代からはオペラの引っ越し公演や各地の名門オーケストラの来日公演が続き、90年代にはあれか、ブーレーズフェスティヴァルか。いやあ懐かしいなあ往年の名演(半分以上嘘、さすがにそんなに早く生まれてません)。新しいところは現在まで、ということですからそちらについては最近の放送を思い出せ、ということですね。

少なくない動画(もちろんグレイな、ってかアウトなやつ)がYouTubeにあるのに、私たちが正しいルートでアクセスできない公共放送の貴重すぎるアーカイヴ、こういう機会に何かしらの整理と公開が進んでくれたらいいなと思います。

そして皆さん!1995年のブーレーズフェスティヴァルをリクエストしてくださいよろしくお願いします!!きっと今ならあの時よりずーっと上手く受け取れて楽しめるはずなんでうよろしくお願いします(完全に自分のためのお願い)。

以上ご案内と切実なお願い(笑)でした。ではまた、ごきげんよう。

2017年6月3日土曜日

サー・ジェフリー・テイト(指揮者)死去

こんにちは。千葉です。
またしても訃報が届いてしまいました。

●Sir Jeffrey Tate: Conductor with spina bifida dies at 74

サー・ジェフリー・テイトが6月2日に亡くなられました。訪れていたアカデミア・カッラーラで心臓麻痺のため、とのこと。ベルガモの新聞が第一報だったようですが、騎士への敬意を表して英国放送協会のニュースへリンクさせていただきました。1943年生まれの彼ですが、騎士への叙勲は今年のことだったのですね、少々意外でした。

生まれついての二分脊椎症故に椅子に座って指揮するスタイルでおなじみの彼は、日本ではやはり「デイム・ミツコの共演者」としてよく知られた、と紹介すべきでしょうか。自らの難病故か、はじめ医師を目指した(実際その資格を持っています)彼の音楽家としてのキャリアは、サー・ゲオルグ・ショルティ時代のロイヤル・オペラ・ハウスで、コレペティトールとして始まっているんですね。そして1985年にはイギリス室内管弦楽団最初の首席指揮者に就任、内田光子とのモーツァルトはこの時期の記録です。その後もロッテルダム・フィル、サン・カルロ劇場、そしてハンブルク交響楽団と活躍を続けていました。合掌。

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ハンブルク交響楽団のYouTube公式チャンネルより。

こうして指揮者の仕事の半分以上を占めているだろうリハーサルが見られるようになったことは、取材して記事にしたりもする私には商売的に問題ではございますが喜ばしいことです。当日ステージに立つまでのコミュニケーションにこそ、指揮者の成し遂げたことがある、とまでは言いませんけれど、彼を悼む意味でもう一つ、英国音楽のリハーサルを貼っておきます。



先日お伝えしたばかりのイルジー・ビエロフラーヴェクもそうでしたが1940年代生まれのマエストロの死には、大往生と申し上げられない気持ちが残ります。ですが彼らはこのように音楽を遺してくれていますから、それらをいま一度見つけていくのが何よりの供養というものでしょう。改めて合掌。

ではまた、ごきげんよう。


2017年6月2日金曜日

ピエール・ブーレーズ・ザール開館

こんにちは。千葉です。
いささか旧聞ですが、ドイツの新ホールのご紹介を。その名も…

●Pierre Boulez Saal



ピエール・ブーレーズの音楽的探求がいわゆる音符の領域に留まらなかったことはご存じの方も多いでしょう。こと楽器にしても伝統的なアコースティック楽器にこだわらず空間的音楽を電子的手法も用いて探求したことは、1995年のブーレーズ・フェスティヴァルやその後の来日公演で経験された方も多いでしょう。「二重の影の対話」はもはや定番的作品ですからお聴きになった方も多いのでは。


そんな彼は、演奏会場についても可能性の探求を旨としていました。”作品に適した会場がない”という言い方は普通に考えればなにか顛倒したものであるように思えますけれど、探求こそが彼の求めたものである以上、その対象から会場を外すことこそ不徹底なのです。私のドリルは(自重)、とは彼は言いませんでしたけどね。
彼の探求のホームと言えばパリのIRCAM、そしてアンサンブル・アンテルコンタンポランがでしたけれど、その没後に彼の遺志を継ごうかと名乗りを上げるかのように、独創的なデザインのコンサートホールがドイツ、ベルリンに生まれた、というわけです。そのホールの誕生に大きく関わったのがダニエル・バレンボイム、と聞けば生前のブーレーズとの交友に加えて、彼のコンセプトに基づいて作られたピアノのことも思い出されますね。以前からそういった、新しいものを怖れない心性をお持ちである、ということなのでしょう。
(でもこれは書いておかないと。ダニエル・バレンボイムはその著作などでいわゆる古楽奏法に対して非常に攻撃的で、そこがちょっと理解できないところが私にはありました。ですが、古楽的アプローチが「Authentic」であるとアピールをしすぎたばかりに、いわゆるモダン楽器演奏が紛い物であるかのように言いすぎてしまったことが、彼の古楽への忌避感を作ってしまった面があっただろうか、と今は考えています。どなたかインタヴューされる方、ぜひ聞いてみてください←怒られるかもしれませんけど←無責任)



バレンボイムが主導して作り出したベルリンの新しい室内楽用ホールのインテリアは、これまた一風変わったものです。

楕円形を基調にしたこのホールをデザインしたのはフランク・ゲーリー。コンサートホールでは、ロサンゼルス・フィルハーモニックの本拠地ウォルト・ディズニー・コンサートホールのデザインでも知られていますね。ちなみにこんな感じのホールです。



曲線の使い方が代表作であるビルバオのグッゲンハイム美術館にも通じるところがある、と言えましょうか。

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しかしながら、私は建築の人ではないのでこの二つのホールに共通する別の要素を指摘すべきなのです。そう、音の面から見てみましょう。
ピエール・ブーレーズ・ザールとウォルト・ディズニー・コンサートホール、そして先日紹介したエルプフィルハーモニー(エルフィって呼ばれてるそうです)や日本各地の、名ホールとして日々愛されている会場の音響設計が毎度おなじみ永田音響設計の豊田泰久さんなんですね。その仕事ぶりは先日放送されたエルフィ(さっそく使ってみた)のドキュメンタリーでも垣間見られましたが、壁面パネルの隙間やシートのクッションにまで言及する徹底が、ミューザ川崎シンフォニーホールやサントリーホールなどの音響を生むものなのだなあ、と大いに感心したものであります。
パリのフィルハーモニーも含め、それら新ホールの実力の程は、それこそ当地にしばし滞在して複数の公演を聴いてみないとわからないとは思うのですが、そんな機会はないでしょうなあ(火星の運河が見えるほどに望遠)。せめて、放送や録音でそのサウンドに触れられる機会が訪れますように…

最後はちょっと切ない感じのオチを付けてしまいましたが、紹介はとりあえずここまでです。ではまた、ごきげんよう。

2017年6月1日木曜日

イルジー・ビエロフラーヴェク(指揮者)死去

こんにちは。千葉です。
またしても訃報が届いてしまいました。

●Zemřel šéfdirigent České filharmonie Jiří Bělohlávek, bylo mu 71 let

敬意を表してチェコの通信社へのリンクをまずは用意しました。1946年生まれのチェコのマエストロ、イルジー・ビエロフラーヴェクが亡くなられた、とのことです。彼が音楽監督を務めていたチェコ・フィルハーモニー管弦楽団も、このように伝えております。


最近続いた訃報の多くは、WWII前の生まれの方々の、大往生と感じられるものが多かった分だけ、この訃報は衝撃的なものに思われます。合掌。


近影はこのような感じだったのですね。この秋にも来日の予定でしたのに。

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私が彼を知った頃は、まだ若手扱いだったような気がします。チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演ではヴァーツラフ・ノイマンのアシストのような感じで帯同してくる二番手というか、後継者候補なのかな?という感じでした。それは80年代の終わりのことで、いま年齢を考えれば当時の彼は40代、対してノイマンは60代だったのだから、この受け取りは自然なことではありましょう。ブルノ、プラハ(交響楽団)で活躍していた、というのも二番手っぽい印象を与えたところがあったかも、しれません。たぶん初めて聴いた彼の演奏は、その頃のレコーディングでマルティヌーのバレエ「この世で一番強い者」だったのではないかな、と思います。

その後冷戦が終わって彼はチェコ・フィルのポストに就くのだけれど、オーケストラはそれまでの自国出身者を首席指揮者に据える体制を変えた時期があって(読響のポストも務めたゲルト・アルブレヒトが就任していた時期をご記憶の方も多いでしょう)、彼のキャリアは私以外の多くのクラシック音楽ファンも予想したような”チェコを代表する音楽家として、チェコ・フィルとともに成熟していく”道のりではなくなりました。
とはいえ、その頃には彼も50代に差し掛かろうという時期ですから、チェコ・フィルからの退任は同時に彼の国際的キャリアの本格的な始まりでもあった、とも言えましょう。BBC交響楽団との仕事は、2007年のプロムスで”英国人以外で最初のラスト・ナイト指揮者”となったことで歴史に残りますし、METやグラインドボーンでの仕事も記憶に残り続けることでしょう。
日本でも、1974年の初来日以来共演を重ねて首席客演指揮者をも務めた日本フィルハーモニー交響楽団での活躍などもありました。


2013年3月の、ドバイへのツアーの際に収録されたゲネプロでしょうか、スメタナの「わが祖国」より「ヴルタヴァ(モルダウ)」です。これを見る限りでは、引き締まったテンポでよく歌わせる彼らしい演奏をされていますから、この訃報にはやはり早すぎる、との思いを抱かざるを得ません。あらためて、合掌。



ではご案内は以上といたします。ではまた、ごきげんよう。

※追記。文中でも触れました、この秋に予定されているチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演は、ペトル・アルトリフテル(アルトリヒテル)が指揮をする、と招聘元ジャパンアーツより発表されました。

2017年5月31日水曜日

パーヴォ・ヤルヴィ、2019/20シーズンからチューリヒ・トーンハレ管弦楽団のシェフに

こんにちは。千葉です。ニュースです。

●Neue Künstlerische Leitung an der Tonhalle Zürich
Paavo Järvi wird Chefdirigent der Tonhalle

現在リオネル・ブランギエが務めるポストに、パーヴォ・ヤルヴィが就任する、というニュースです。スイスを代表する常設オーケストラ、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団の首席指揮者、芸術監督に2019/2020シーズンから着任します。まずは5年契約とのこと。

>オーケストラからのリリースはこちらで:PDFファイルが開きます(ドイツ語)

近年デイヴィッド・ジンマンが数多くのレコーディングでその名を高めたスイス東部のオーケストラは、山田和樹が首席客演指揮者を務めていることでご存じの方も多いでしょう。ドイツ語圏を代表するオーケストラは、若手のブランギエからパーヴォさんへのスイッチを、以前から検討/期待されていたフシがあります>こんな記事を見つけました(最初の記事と同じ、チューリヒ新報昨年12月の記事)。
1986年生まれの俊英からパーヴォさんへのシフトとなると、お若いマエストロには厳しい判定があったのかな…などと余計な心配もしてしまいますが、世界各地のオーケストラと共演している彼なのでこれは杞憂のたぐいでありましょう(N響に客演したときの反応はどうだったっけ、などと思いつつ)。

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パーヴォさんならいろいろな団体から声かかっちゃうよね当然かもね、と思いつつ。私がこのニュースで一番面白く感じたのは「またノット監督とかぶるのかよ!」ということでした。
我らがジョナサン・ノット東京交響楽団音楽監督は、2016年からスイス・ロマンド管弦楽団の首席指揮者も務めています。チューリヒがスイスの東側、ドイツ語圏の代表ならスイス・ロマンド管は西側、フランス語圏の代表と言えましょう(本拠地ジュネーヴは、チューリヒやベルンよりむしろリヨンのほうが近いです←いまグーグルマップで確認した)。
なお肝心の演奏ですが、配信で聴く感じでは力強さと明るさでは向こうが勝るかな、とも思うけれど、東京交響楽団だって監督とのコミュニケーションの密度、サウンドの柔らかさでは勝ってる、気がします。配信と実演とで比べても仕方ないんですけど、いちおうね(笑)。そんな「東京とスイスで活躍するマエストロ」ポジションをパーヴォさんも得る、という風にこのニュースを見てしまったんですよね、私。

イギリスに生まれてフランクフルトからアンサンブル・アンテルコンタンポラン、バンベルクときて現在のポジションにあるノット監督と、エストニアに生まれてアメリカで成長しシンシナティからフランクフルト、パリを経由して現在に至るパーヴォさん。かたやオペラハウスから現在に至り、かたや先日初めてオペラ上演を体験したばかりの生粋のシンフォニー指揮者と、違う経路で指揮者として活躍する二人が、微妙に交錯しながら近いポジションを得るこの感じ、いったいお二人にはどんな縁がございますやら。

なお、このお二人は今年「ドン・ジョヴァンニ」で演目かぶりします、というのは既報のとおりです。いやはや、縁があるんですよやっぱり(笑)。

ということで後半ただのエッセイみたいになりましたがご案内はこのへんで。ではまた、ごきげんよう。

※余談。
最近、サイトウ・キネン・オーケストラやN響、そして今年は読響にも登場するファビオ・ルイージですが、彼もそのキャリアにおいてスイス・ロマンド管弦楽団、チューリヒ歌劇場とスイスのオーケストラ、劇場で活躍しています。そして近年の日本との縁、これは何かのフラグでしょうか?(笑)

2017年5月29日月曜日

佐藤琢磨、インディ500で優勝!!!

こんにちは。千葉です。

…まさかまたモータスポーツの記事を書く日が来ようとは。F1が有料放送/配信だけになってしまってテンションも下がった私としては「もう何かの機会がないとモティヴェーション湧かないよな」と感じていました。ですがこれは書かなくちゃいけない、これこそがその「何かの機会」です。

●Sato Wins 101st Running of the Indianapolis 500 presented by PennGrade Motor Oil

日本語だと専門雑誌などのチャンネルがいいんでしょうけど、まあ公式サイトをご覧くださいませ。佐藤琢磨、101回目のインディ500で勝ちました!!おめでとう!!!



レースデイのハイライトが公式から出ました。ぜひ。

もういっちょ公式情報で。


おめでとうおめでとう、もう言葉がないっす。



この会見の日本語記事は、オートスポーツWebでお読みいただけます。

※追記。インディ500のウィナーが特別な存在になることは知っていたつもりですが、ここまでか…と感じられるこの数日です。その模様は、彼が今年から所属しているアンドレッティ・オートスポーツのTwitterアカウントをフォローしておけばよーくわかりますので、ぜひ

さすがに鈴鹿のスクールから、とは言わないけど英国F3時代から情報ベースで追って、F1時代には鈴鹿でスパで応援してきたドライヴァが、インディカー・シリーズに参戦して一度は掴みかけた栄冠を、こうして現実につかむ瞬間が訪れるのは嬉しいものです。

今回のレースについては、ペンスキーのエリオ・カストロネベスとのタイトなバトルに勝利したことも大きいポイントです。最強チームに速さで勝利する、これを実現するためには今シーズンのアンドレッティ・オートスポーツへの移籍が絶対に必要だった。彼の胆力を見込んでくれたA.J.フォイトのもとでの経験ももちろん大きかったでしょう、でもBARホンダ以来の強いチームで走れる機会を、最初に訪れた最高の舞台で活かした佐藤琢磨に私から贈れるのは拍手と賞賛だけです。本当におめでとう。


嗚呼AJさん本当に有難うありがとう。

なお、細かいこともいろいろ書けるんですけど(最初のスティントから赤旗中断まではストリーミングで見てましたし、オーヴァルレースの楽しみ方はそれなりに知っているつもり)、長々と書いても興ざめにございましょう、説明もすごく大量にしなくちゃいけませんし。
いつかまたオーヴァルレースを日本で見られますように。

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そして佐藤琢磨以外の話もひとつ。
私がライヴ配信を見続けることをあきらめるきっかけとなった(眠るための言い訳、ともいいます)、ジェイ・ハワードとスコット・ディクソンのクラッシュですが。あれは、現在のシャシーでなければスコット・ディクソンの命を奪っていたクラッシュだと思います。
かつて大活躍したダン・ウェルドンのレース中の死を受けて「それまで以上により安全なシャシーを」と作り出されたDW12は、デビュー以来ドライヴァたちの命を守ってくれています。今回のクラッシュでまた、その思いを強くした私は、自分の自転車をDWと命名しました(ちっちゃい話ですみません)。

いやあ、こういうことも起きるものなのだ、という喜びを噛み締めつつこのあたりで。
ではまた、ごきげんよう。

※追記。インディカー・シリーズは、そのレースをフルサイズで公式配信してくれます。4時間以上の長丁場ではございますが、これで皆さんもその過酷さを体験できますよ!(笑)
冗談はさておいて、オーヴァルレースの楽しみ方を一つお教えしましょう。まず「追い抜きの仕掛けはワンアクションでは終わらない」ということを注意してみること、です。
超高速で巡行しているマシン同士で追い抜きを仕掛けるためのやり方はいろいろありますが、ロードコースでのそれのようにブレーキング勝負で前に出る、ようなものにはなりません。先行車両の動きを伺い、少しでも”理想的でない動き”をした後に訪れるだろうチャンスを見逃さず、可能な限りスリップストリームを利用してはじめて仕掛けることができるんです、このレースでは。だから佐藤琢磨の前の車の動きをちゃんと見ておくと”なぜ今のオーヴァテイクは成功したか”がわかるかな、と。
御託はこのへんで、皆さんも楽しんで!スタートユアエンジンズ!ですよ!




2017年度武満徹作曲賞決定

こんにちは。千葉です。
審査員にハインツ・ホリガーを迎えて開催された恒例の作曲コンクールのリザルトについてご案内します。

●2017年度 武満徹作曲賞 決定!

以下公式サイトより、書式のみ少々整えて引用します。

●本選演奏会 2017年5月28日(日) 会場:東京オペラシティ コンサートホール
指揮:カチュン・ウォン
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

受賞者
第1位 坂田直樹(日本)「組み合わされた風景」
第2位 ジフア・タン(マレーシア)「at the still point」/アンナキアーラ・ゲッダ(イタリア)「NOWHERE」/シュテファン・バイヤー(ドイツ)「私はかつて人肉を口にしたことはない」

講評によれば「この2位のなかには順位はございません、全員同等の2位」とのことでしたので、その旨明示するよう整えました(なおリンク先にはホリガーによる長い講評が載っていますので興味のある方はそちらをご覧ください)。

なお、本選演奏会はNHK-FMの「現代の音楽」で放送される予定、とのことです。

以上ご案内でした。ではまた、ごきげんよう。

2017年5月27日土曜日

タオルミーナG7でチョン・ミョンフン指揮スカラ・フィル演奏

こんにちは。千葉です。
ニュースでチラチラと見せられてちょっと欲求不満が昂じてしまったので(笑)ここにまとめておきます。
タオルミーナでのG7首脳会合での、チョン・ミョンフン指揮スカラ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏についてです。演奏の模様は公式に配信されていますが、文字情報がなかったので以下にまとめました。

●#G7Taormina I Leader al Teatro Greco per il concerto dell’Orchestra Filarmonica della Scala(Palazzo ChigiのYouTubeチャンネルより)


プログラムは以下のとおり。

プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」より 第二幕第二部冒頭
ヴェルディ:
  歌劇「椿姫」第一幕への前奏曲
  歌劇「運命の力」序曲
ロッシーニ:
  歌劇「アルジェのイタリア女」序曲
  歌劇「ウィリアム・テル」序曲
(マエストロからの挨拶/イタリア語)
アンコール
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲

どれもこれも、本当に続きが聴きたくなる演奏ばかりで、昨年の「蝶々夫人」の感動を思い出したりした次第です。今度は「椿姫」やってくれませんかマエストロ。ここではできなかっただろう「シチリアの晩鐘」でもいいです(作品の内容的に、政治がらみの場所ではちょっと無理)。
カメラワークはプレイヤーに寄った感じでの収録が多いので、私としては”「奏者はいい、指揮者を映せ!」と思った”こと、”ときどき回線の関係が音が歪む、マイクに何かがぶつかるノイズがある”ということを報告させていただきます。

首脳の中では、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会中継でときどきそのお姿を見かけるアンゲラ・メルケルの笑顔が印象的ですね、さすがにわかっていらっしゃる感がありました。

では簡単なまとめは以上です。ではまた、ごきげんよう。

2017年5月19日金曜日

ラ・プティット・バンド 10月来日

こんにちは。千葉です。
来日公演の情報です。

●La Petite Bande Concerts

ラ・プティット・バンドの公式サイトで情報を確認すると、10月9日の大阪公演から21日の福岡まで、日本各地での公演が予定されていることがわかります。大阪(シンフォニーホール)、東京(浜離宮朝日ホール 10/11 10/12)、福島(福島市音楽堂)岐阜(サラマンカホール)福岡(アクロス福岡)の各地をめぐるツアーですが、基本はバッハの管弦楽曲(いわゆる管組と協奏曲)とカンタータを組合せたプログラムです。
※一部リンクを更新しました。チケットの発売情報など、各所で発表され始めています

昨年はOVPP(One Voice Per Part)というアプローチによる「マタイ受難曲」を披露しているから、今度は小規模に思えるかもしれません。けれど、あの時代の「オーケストラ」はなかなか幅広い概念を含有するもの、大編成はまたの機会に、と考えましょうそうしましょう(もしくは、日本で活躍するBCJのようなアンサンブルで楽しみましょう)。

…実際のところ、現在非常に厳しい状況にあるラ・プティット・バンドが来日してくれることはそれだけでも奇跡的なことです。古楽と言われるアプローチを、説得的に示してくれた最初の世代の音楽家たちが次々と鬼籍に入られる中、シギスヴァルトに率いられたアンサンブルがこうして継続的に来日公演を行ってくれる、それだけで応援したくなるのは私だけでしょうか(いやそんなはずはない)。
彼らの状況は、リンク先のファンによる日本語Facebookアカウントが詳しく伝えてくれておりますので、興味のある方は、と言わずぜひご覧くださいませ。



一連の公演の中でも充実しているのが新・福岡古楽音楽祭2017の一連の公演であることはリンク先を開ければ嫌でもわかります。ツアーのメインプログラムはないけれど、独自プログラムを含めてヴァイオリン独奏、弦楽四重奏、そしてハイドンのオペラと三公演もあるだなんて羨ましい、羨ましすぎます。
(東京でも弦楽四重奏はあるのですが、なによりハイドンの「ラ・カンテリーナ」が!!)



私にいわゆる古楽、「作曲された時代のアプローチによる演奏」を教えてくれて、今もなお新鮮な刺激を与えてくれる彼らに、少しでも恩返しがしたく、確定情報が少ない中で記事化させていただきました。
各地の公演が成功しますよう、何かお手伝いできることがあればお声掛けください…

ではまた、ごきげんよう。


2017年5月17日水曜日

「四月は君の嘘」舞台化

こんにちは。千葉です。
地上波民放のCMで知った情報なので相当に旧聞ですが。

●舞台「四月は君の嘘」

すでに漫画、それを原作としてアニメ実写映画でも愛されている作品が今度は舞台化です。8~9月とのことです。



訳あって演奏から遠ざかっていたかつてのピアノの神童が、一人の同世代の少女との出会いで変わっていく。そんなボーイ・ミーツ・ガールものですが、個性的なヴァイオリニストには…という展開で世の人々の紅涙を絞った(古めかしい言い回し)本作が、また違う形で多くの人たちに触れられる、いわば”再演”の機会を得たわけですね。

ちなみに実写映画の予告編はこちら。アニメのは、まあたくさんありましたので(いろいろと濁さざるをえない)。

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…もしかして漫画やアニメ、ゲームを舞台化するための技術、ノウハウは宝塚と同様に相当の独自進化を遂げているのでは?と世間の評判などから日頃感じているのですが、クラシックのライヴ演奏と芝居をあわせるくらいは余裕なのでしょうか、それともやっぱりかなりのチャレンジなのでしょうか?残念ながら見たことはないのですけれど。興味はあるんですけど、先立つものも時間もね…
残念ながら実際の舞台を拝見したことはないのですけれど、そういう表現の発展には大いに興味があります。ま、先立つものも時間もないんですけどね…

哀しい愚痴にたどり着いてしまったのでご紹介はここまで。
ではまた、ごきげんよう。