いささか旧聞ですが、ドイツの新ホールのご紹介を。その名も…
●Pierre Boulez Saal
ピエール・ブーレーズの音楽的探求がいわゆる音符の領域に留まらなかったことはご存じの方も多いでしょう。こと楽器にしても伝統的なアコースティック楽器にこだわらず空間的音楽を電子的手法も用いて探求したことは、1995年のブーレーズ・フェスティヴァルやその後の来日公演で経験された方も多いでしょう。「二重の影の対話」はもはや定番的作品ですからお聴きになった方も多いのでは。
そんな彼は、演奏会場についても可能性の探求を旨としていました。”作品に適した会場がない”という言い方は普通に考えればなにか顛倒したものであるように思えますけれど、探求こそが彼の求めたものである以上、その対象から会場を外すことこそ不徹底なのです。私のドリルは(自重)、とは彼は言いませんでしたけどね。
彼の探求のホームと言えばパリのIRCAM、そしてアンサンブル・アンテルコンタンポランがでしたけれど、その没後に彼の遺志を継ごうかと名乗りを上げるかのように、独創的なデザインのコンサートホールがドイツ、ベルリンに生まれた、というわけです。そのホールの誕生に大きく関わったのがダニエル・バレンボイム、と聞けば生前のブーレーズとの交友に加えて、彼のコンセプトに基づいて作られたピアノのことも思い出されますね。以前からそういった、新しいものを怖れない心性をお持ちである、ということなのでしょう。
(でもこれは書いておかないと。ダニエル・バレンボイムはその著作などでいわゆる古楽奏法に対して非常に攻撃的で、そこがちょっと理解できないところが私にはありました。ですが、古楽的アプローチが「Authentic」であるとアピールをしすぎたばかりに、いわゆるモダン楽器演奏が紛い物であるかのように言いすぎてしまったことが、彼の古楽への忌避感を作ってしまった面があっただろうか、と今は考えています。どなたかインタヴューされる方、ぜひ聞いてみてください←怒られるかもしれませんけど←無責任)
バレンボイムが主導して作り出したベルリンの新しい室内楽用ホールのインテリアは、これまた一風変わったものです。
— Pierre Boulez Saal (@boulezsaal) 2017年3月19日
楕円形を基調にしたこのホールをデザインしたのはフランク・ゲーリー。コンサートホールでは、ロサンゼルス・フィルハーモニックの本拠地ウォルト・ディズニー・コンサートホールのデザインでも知られていますね。ちなみにこんな感じのホールです。
曲線の使い方が代表作であるビルバオのグッゲンハイム美術館にも通じるところがある、と言えましょうか。
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しかしながら、私は建築の人ではないのでこの二つのホールに共通する別の要素を指摘すべきなのです。そう、音の面から見てみましょう。
ピエール・ブーレーズ・ザールとウォルト・ディズニー・コンサートホール、そして先日紹介したエルプフィルハーモニー(エルフィって呼ばれてるそうです)や日本各地の、名ホールとして日々愛されている会場の音響設計が毎度おなじみ永田音響設計の豊田泰久さんなんですね。その仕事ぶりは先日放送されたエルフィ(さっそく使ってみた)のドキュメンタリーでも垣間見られましたが、壁面パネルの隙間やシートのクッションにまで言及する徹底が、ミューザ川崎シンフォニーホールやサントリーホールなどの音響を生むものなのだなあ、と大いに感心したものであります。
パリのフィルハーモニーも含め、それら新ホールの実力の程は、それこそ当地にしばし滞在して複数の公演を聴いてみないとわからないとは思うのですが、そんな機会はないでしょうなあ(火星の運河が見えるほどに望遠)。せめて、放送や録音でそのサウンドに触れられる機会が訪れますように…
最後はちょっと切ない感じのオチを付けてしまいましたが、紹介はとりあえずここまでです。ではまた、ごきげんよう。
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