2019年10月5日土曜日

かってに予告編 ノット&東響 シェーンベルク:「グレの歌」

●ミューザ川崎シンフォニーホール開館15周年記念公演 シェーンベルク:グレの歌

2019年10月5日(土)、6日(日) 15:00開演 会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ジョナサン・ノット

ヴァルデマール:トルステン・ケール
トーヴェ:ドロテア・レシュマン
山鳩:オッカ・フォン・デア・ダムラウ
農夫:アルベルト・ドーメン
道化師クラウス:ノルベルト・エルンスト
語り:サー・トーマス・アレン

合唱:東響コーラス(合唱指揮 冨平恭平)
管弦楽:東京交響楽団

ジョナサン・ノットと東京交響楽団がこれまで演奏してきた作品の一つの集大成であり、また未来へもつながる選曲となる作品が、彼らが本拠地として日々音楽を作り、披露しているミューザ川崎シンフォニーホールの開館15周年記念として演奏される、特別な機会である。そんな側面から少し書いてみよう。

まずはノット&東響が初期の共演から演奏してきているマーラー作品、シュトラウス作品との関係を一つの視点として示そう。オーケストラの可能性は時代を追ってどんどんと拡張されて、第一次世界大戦前にいくつかの頂点となる作品を生み出している。「グレの歌」の成立時期を見れば、否応なくマーラーの第二番、第八番と同時期の作品として見ることになるだろう。※

※初演は1913年だからマーラーなら第八番以降の作品となるが、着手事態は世紀の転換期なので先行する「声楽入り管弦楽大作」となると第二番を参照しないわけにはいかない。「グレの歌」はその成立からして扱いが難しい曲なのである。

今回の公演はミューザ川崎シンフォニーホールの15周年を祝うものではあるのだが、これまでの記念公演ではマーラー作品を取り上げてきた流れから、離れることになったわけだ。だがこれは来シーズン以降に向けて大きな可能性を開き、未来へと続いていくものになっていると私見している。

マーラー、シュトラウスなどの後期ロマン派作品と同様にノット&東響が注力してきたのは、新ウィーン楽派の作品群だ。ノット監督が得意とする現代の作品まで届く視野を、東響は以前から持っていたけれど、そのスタンスは彼の就任、そして積極的な演奏活動によってより鮮明になった。これまでの「ワルシャワの生き残り」「ルル」組曲、そして今年演奏予定の「三つの管弦楽曲」と、時代的にも音響的にも響き合う「グレの歌」は、現在のノット&東響の最良の美点を示してくれるものになるだろう。(もちろん、東響コーラスの充実も見逃せないところだ)

そして題材的にも、結果として未来への可能性を示している。来年演奏される”「トリスタンとイゾルデ」+「ペレアスとメリザンド」”は「グレの歌」とも共通する、伝説的物語を題材にした不幸な愛、そして救済の物語だ。ノット監督がこれを意識していないわけもなく、彼による謎掛けが、数年がかりで披露されるのだと言えなくもない(個人的には、夜の歌(セレナーデ)故に誤った愛称で呼ばれる第七番をこれから、「愛の妙薬」的に展開する「トリスタン」的なプロットを感じる第五番を来年演奏することも併せて考えたい)。

太陽讃歌で圧倒的に終わる作品が呼び込んでしまっただろうか、今年最後の暑さの中で開幕する「グレの歌」、様々な観点から注目なのである。

*************

そしてこれは個人的な意見。ここで挙げてきた作品群の源流には、間違いなくベルリオーズの大作群があるだろう。オペラならありえる大編成に大仕掛け、また「レクイエム」のような機会音楽ならば(また革命の時代だからこそ)許された巨大な編成、それらを交響作品に持ち込んでしまった彼の存在がなければ、「グレの歌」もない。
…来シーズンの予定にはないけれど、その先にはもしかしてノット&東響のベルリオーズも展開されるのだろうか。っていうか聴きたいなあ。きっと、この二年がかりの大企画の先に、劇的交響曲「ロメオとジュリエット」がありうると思うのですけれど。古典派とロマン派をつなぐリンクとして。個人的リクエストで本稿はおしまい。

※追記。
10/5の初日公演を聴いてまいりました。この文章で挙げた作品群との関係が強く感じられましたが、実演で聴いたらいくつか書き足しておきたくなりました。
シェーンベルクの自作では「五つの管弦楽曲」を聴いておくと、この作品の繊細なのに過剰すぎる音色の追求も理解しやすく思えます。また、第一部の輝かしさからは、ノット&東響の出会いの作品、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」が聴こえたように思います。二人の作曲家の個性の違いも含めて。画家シェーンベルクと、デザイナーのラヴェル、とでも言いますか。もし二度目三度目を聴けるならば、さらに理解が深まりましょうに、どうにも惜しいことです。

こんな後悔をしないためにぜひ、明日時間を作れる皆様はミューザ川崎シンフォニーホールに行くべきです。迷う時間なんてもうありませんよ。

0 件のコメント:

コメントを投稿