2019年3月10日日曜日

三者三様 ~ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第145回

●ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第145回

指揮:秋山和慶
ピアノ:福原彰美、ミロスラフ・クルティシェフ、奥井紫麻
管弦楽:東京交響楽団

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲
  第三番 変ホ長調
  第二番 ト長調 Op.44
  第一番 変ロ短調 Op.23

今年度の名曲全集は今回で最終回。その最終回から、ミューザ川崎シンフォニーホールの休館に伴いカルッツかわさきでの公演となる(新年度のはじめ二回もここで、また東響の川崎定期3月公演もここ)。

ギリで着いても駅から半泣きで走れば割となんとかなるミューザと違って(おい)、徒歩では相当の時間がかかると見られるカルッツかわさきまでの道については、実は前回の名曲全集のあとにチェックしていた。…もっとも、そのときは教育文化会館の新しい名前だとはじめ思い込んでいて、たどり着いてみて(え?新しく作ったと聞いていたけど…日比谷公会堂かな?)なんて思っていたのだけれど。

この日は早めに着くために川崎駅には余裕を持って到着、寄り道もしつつ徒歩で20分見れば成人男性の歩調なら余裕だと思います。二階から入場ということで、道を挟んで向かい側を眺めればそこは川崎競輪、「ああこれが以前の川崎のイメージだよなあ」なんて思いながら信号の地名を見れば。なんてことだ、ここは川崎球場だったのか!


そういう話はここまで。
この日の演奏会は、チャイコフスキーが残した三つのピアノ協奏曲を、曲ごとに異なるソリストを迎えて演奏するという豪華企画。…とは言っても、チャイコフスキーの第二、第三を実演で聴くのは私は初めてだし、ソリストは若い世代の面々。第一番を弾く奥井紫麻に至ってはまだ中学生の年頃である。そんな若者たちを迎えて、東京交響楽団と秋山和慶はどんな音楽を聴かせてくれるのか。クラシックファンには来慣れない会場のサウンドともども、そのあたりが注目だな、と予想して、ちょっと暑くすら感じる春の日に、えっちらおっちら行ったのさ。では演奏の話に。この日は一階で聴いています、というのはもしかするとポイントかもしれません。

最初に演奏された第三番は、作曲者最晩年の作。協奏曲だけれど単一楽章で構成されているのは、破棄された交響曲からの転用だから、なのだそうで。なるほど、冒頭の中低音楽器によるアンサンブルは協奏曲にしては癖がありすぎるし、音楽の展開も少々トリッキィである。
そんな曲にも、会場のサウンドにもみんなが慣れていない中での演奏は、管とティンパニが強く抜けてくる会場では厳しかったように思う。ピアニストの力演も、オーケストラに完全にマスクされてしまう瞬間が多くあったのは惜しい。この作品の知られざる魅力を発見した、と書けたらいいのだけれど、個人の感想としては(演奏されないのは理由あるんだね)と思わなくもない。
ミューザ川崎シンフォニーホールと比べても仕方がないのだが、ミューザのほとんどの客席がステージより上方にあることの意味を今さら理解させられた気がする。直接音が客席に届くのは、ジャンルによってはいい効果もありそうに思うけれどオーケストラではどうなのか、と感じたところもあった。


続いて演奏された第二番、これは完全にピアニストが積極的に音楽を導いた結果の好演となった。残響が多くない会場で(クロークも大荷物用に制限されていたので、客席には防寒具が聴衆の数だけ入ったことになる)、それでも力のある音楽を聴かせようとよく鳴らしてアンサンブルをリードするクルティシェフ、それにきっちりつける指揮者、特に室内楽的な場面も美しく決めるオーケストラ。場内の熱狂は理解もできる見事な出来だったが、あるお一人の方にはペットボトルを渡しながら「まずは君が落ち着け」と言ってあげたい。この日演奏されたのは原典版ということなのだが、こういう演奏を聴かされると改稿版も聴きたくなる。また機会があればこの曲にもう少し近づいてみたいものだ。

最後に第一番、これはもう誰もがよく知るあの曲、である。そして秋山和慶とこの作品といえば、長く続けられた中村紘子とのニューイヤーコンサートでも何度となく取り上げた曲であるし、そこで共演し続けた東響はそれ以外のコンサートでも数多く演奏してきただろう作品だ(各地でのフレッシュ名曲コンサートの資料とか、怖いから探したくない)。では、そこに登場した14歳は熟達のオーケストラにどんな音楽で応えたか。指揮者とオーケストラが作り上げた蓄積にただ乗るのではなく、オーケストラとの対話を重視するスタイルで、派手なコンサートピースとしてではない、親密なアンサンブルとしてこの曲を示した。
私はおじさんなので(若いんだからもっと暴れてもいいんだよ)と思わなくもないけれど(おい)、これが今の彼女の個性なのだろう。室内楽のように互いに聴きあうソリストとオーケストラが紡ぐ音楽は、よく知る作品を柔らかい響きで、新鮮に聴かせてくれた。奥井紫麻さんの前途に幸あれ。

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さて、ミューザ川崎シンフォニーホールの休館中に、カルッツかわさきで行われる公演としては以下のものが予定されている。

・東京交響楽団 川崎定期演奏会 第69回
・第8回 音楽大学フェスティバル・オーケストラ
・ホールアドバイザー秋山和慶&佐山雅弘企画 オーケストラで楽しむ映画音楽Ⅹ
・ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第146回
・ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第147回


短期間ではあるけれど、このホールでも存分に演奏会を楽しめるように一回ごとに学びたいと考える次第である。皆さまもまずは、この会場をお試しあれ。ではまた。

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