少々手遅れなのだけれど、あまりにタイムリィだったこの流れを残しておこうと思います。まだ明日の公演、ありますしね!まったく狙っていなかったんですよ、こんな流れは。この数週間、あの常軌を逸した作品の話をしてきた流れが、まさかこうもシームレスにつながっちゃうだなんて。
詳しくは(承前)ということになりますが、ハチャトゥリアンの交響曲第三番周辺を整理してきた中で、浮かび上がってきた1960年代のショスタコーヴィチの動き、そしてそこで「交響詩曲」同様に”復活”した交響曲第四番。繰り返しますが詳しくは前回の記事をご覧くださいな。もしかしてショスタコーヴィチはスターリン時代に損なわれた尊厳を回復させるために党員になったんじゃあないか?なんて妄想したくなっちゃいますが、ここでは自重。では以下が、少々簡易版ではありますが「頼まれていたらこう紹介していたな」という文です。
●東京交響楽団 川崎定期演奏会第69回/第668回定期演奏会
2019年3月
23日(土) 14:00開演 会場:カルッツかわさき ホール
25日(月) 19:00開演 会場:サントリーホール 大ホール
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
ヴァイオリン:ヴェロニカ・エーベルレ
管弦楽:東京交響楽団
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第五番 イ長調 K.219
ショスタコーヴィチ:交響曲第四番 ハ短調 Op.43
モーツァルトとショスタコーヴィチ。この二人を”音”だけで知っていたならこの並びは珍奇な、ある種のミスマッチにも見えるだろう。だがショスタコーヴィチは大成功した交響曲第一番の成功を受けて「現代のモーツァルト」と称賛された、20世紀のソヴィエトから来た天才としてモーツァルトになぞらえられる存在だった。そしてこの二曲は、この二人の時代を隔てた才能が、無邪気なまでに”天才”でいられた、最後かもしれない作品という点でもつながるのだ。
モーツァルトはその生涯に渡って作曲を続けたジャンルと、ある時期にだけ特定の演奏家のために作曲したジャンルがある。自分でも演奏するための鍵盤楽器のための作品やオペラ、交響曲は前者だが、たとえばホルンやクラリネットが活躍する作品は後者にあたり、いまも作品とともに名を残す名手たちのために特定の時期に書かれた。ヴァイオリン協奏曲も同様で、ザルツブルク時代の終わりにまとめて五作が残されて、その後は書かれていないのだ。親から独立した一人の音楽家として成熟していくウィーン時代の充実を考えれば「ウィーンでのヴァイオリン協奏曲」を夢想したくもなるけれど、ザルツブルク時代の作品群には独自の魅力があることもまた事実だ。1月に「モーツァルトマチネ」で演奏されたピアノ協奏曲「リュッツォウ」が軽やかで魅力的だったことをご記憶の方も多いだろう。
今回取り上げられるのは、「トルコ風」の愛称で知られる第五番だ。定評ある東響のモーツァルトを今回ともに作り上げるのは、若くして世界で活躍するヴェロニカ・エーベルレだ。若き才能の実力の程、聴かせていただこう。
ここまで指揮者について触れるのを忘れていた。トロンハイム交響楽団の首席指揮者、インディアナポリス交響楽団の音楽監督を務め、ベルリン・フィルとも共演を果たした……というよりこう言うべきだろう、かつて東京交響楽団の若き首席客演指揮者として活躍してくれた、クシシュトフ・ウルバンスキだ。彼もまだ30代、若手同士のケミストリーにも期待したい。
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後半の作品も「天才が無邪気でいられた、最後の作品」と見てもいいだろう。その成立には諸説あるけれど、ショスタコーヴィチの交響曲第四番は当局との軋轢の中で二重言語を駆使して作曲する前の、最後の作品のひとつだからだ。アイロニカルではあってもダブルスピークではない、このあたりの多義性が大編成の管弦楽によって炸裂するこの作品については、先日書いたので割愛します(この辺が簡易版)。また、東京交響楽団のパンフに掲載された中田朱美さんの解説も参照してください。あと工藤庸介さんのホームページを。
ウルバンスキは、NDRエルプフィルハーモニーと交響曲第五番をすでに録音している。当時は第四番は撤回されて初演に至らず、そしてプラウダ批判からの回復を第五番で果たしたわけだが、若いウルバンスキはこのあたりの事情をどう見るのだろうか、そんなこともつい考えてしまう。数々の日本初演を行った上田仁以来の伝統を誇り、新国立劇場での「ムツェンスク郡のマクベス夫人」や、ノット監督、キタエンコらとの名演も忘れがたい「東響のショスタコーヴィチ」に新たな一ページが刻まれるのは確実、今年度最後の大注目のコンサートと言えるだろう。
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以上簡易版ですみません。実は昨日カルッツかわさきで聴いてきました(白状)。詳しくは後日書きますが、私からはサントリーホールが満員札止めになりますように、とお祈りのみ。では。
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