こんにちは。千葉です。
さてもう明日には開幕する新国立劇場の「イェヌーファ」。「どのように良い上演が期待できるか」という話は、記事でもブログでももう書きましたし、ここ数日はTwitterあたりでもちゃんとした書き手の皆さんの文章が多く見かけられますので(ダメ人間宣言してどうするか)、後は一人でも多くの方がヤナーチェクの音に触れて、できたら実演で体験してほしいな、という気持ちでおります。
録音ではわからないからね、とまでは言いませんけれど(SACDの音を最初に聴いた時とか、世界が変わるなって思ったものです。でもその後千葉はオーディオ方面から完全に撤退しちゃったし。そして今では消えちゃいそうですし、SACD…)、実演でこちらも集中して作品に向き合っているときに受け取る情報量は相当のものですから、録音と実演を単純に比べることにあまり意味はないと思っています。
音楽的には千葉が太鼓判を押します、今回の「イェヌーファ」。騙されないのでぜひ。千葉の耳を信じろ、とは言いませんが、出演者各位を信じていただいていいと思います。
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さてそんなわけで、直前に千葉ができることはもうしてしまったので、あとは「ヤナーチェクとか聴いたことないし~」という方に、YouTubeで聴くことができる、権利的に問題のない(笑)動画を紹介しておきましょう。
ではまずはじめに、採用されなかった「彼女の養女」の序曲、「Jealousy」を。
…動画を埋め込もうと思ったら、設定上できない模様なのでリンク先でご覧ください。「the Hradec Králové Philharmonic and conductor Paul Mauffray. Nov. 26, 2014」とのことです。
え~、今回の舞台は、冒頭シロホンが刻み始めるまでの、音が出ていない時点ですでに高いテンションのドラマが始まっていますので、皆さまご来場される際には余裕を持ってお運びくださいませ。使われなかった序曲も別に悪い曲ではないですが、この序曲があってからおもむろにイェヌーファのモノローグが始まるかたちだったら、あの緊張感はないだろうなあ…
なお、「イェヌーファ」はプラハ初演でもプライソヴァーの原作戯曲どおりの名前で上演されているので(チェコ語圏では現在も「彼女の養女」が作品タイトル)、ドイツ語に訳されてウィーンで上演されて、はじめてこの作品は「イェヌーファ」になるわけです(1918年)。だからこの作品について”「イェヌーファ」の採用されなかった序曲”という言い方はちょっとルーズだね。豆知識だYO!(偉そう)
さて続いては千葉がその昔吹奏楽で三楽章を演奏したこともある、狂詩曲「タラス・ブーリバ」です。
指揮はジャン・レイサム・ケーニック、演奏はベルギーのフランデレン交響楽団(でいいのかな)です。2013年12月のライヴ、全曲です。
作曲時期が1915-1918年と、いうことはこれ、実はWWIを背景にした作品だったんですね。確認すれば献呈先はなんと「国民を防衛するわれらが軍に」だという。いやあ、演奏した当時はそんなこと考えもしなかったぜ!(笑)そしてこの時期はちょうど、「彼女の養女」がプラハへ、そしてウィーンへと進出する時期に当たります。
「イェヌーファ」についてそれなりの見当がついてきた今になればわかることなのですが、語り口が非常に近いんですね、「タラス・ブーリバ」と「イェヌーファ」。たとえば二楽章でドラマが一段落したところでヴァイオリンソロが雄弁に語る感じとか瓜二つといってもいいかと。
「タラス・ブーリバ」にあって「イェヌーファ」にないものは、ヤナーチェク自身の楽器であるオルガンです。ここから、この親しい二作の性格の違いを考えることもできそうに思いますが如何かしらん。今なら、あえてそのキャラクターに丸乗っかりで暑苦しい演奏を心がけたことでしょう、できるかどうかはさておいて(笑)。
続いては、ヤナーチェクが民謡収集した成果の集大成のような作品、ラシュスコ舞曲(1924)を。アレクサンダル・マルコヴィッチの指揮、チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。2013年7月の演奏。
ひとかどの世界的作曲家になった後だからこれだけ素直な音楽になったのでしょうか、この曲の存在を知らない人ならドヴォルザークの曲だと言って騙せそうです(騙してもいいことは何もありませんが)。
今回の上演では、特に演出においてあまり民族色は薄められているのだけれど、作中の音楽が民族的になる場面は第一幕、第三幕の二箇所にありますので、これを聴いておけば「その源流がこれか」と思っていただけるかと思われます。
ただ、ヤナーチェクの民謡に対するアプローチは「採集したものをそのまま使う」ではなく、後年のバルトークと同じく「採集した民謡から抽出した要素を使用して、自分の音楽を作る」なのでこの音楽ののどかさと「イェヌーファ」での民族的なサウンドとは比べようもなかったりするわけですが。加えて、たとえば第一幕で徴兵を回避できたシュテヴァご機嫌の場面は劇中では不安を抱える二人のヒロインにとっては耳障りなものにならなければいけないので、この穏やかで美しい音楽とは違う、狂騒的な攻撃性がありますよね。「ドラマの中で何を表現するか」がある音楽と独立した音楽のそれ、とでも言いましょうか、ここには明確な違いがあります。三幕の婚礼を祝う女声合唱も、ちょっとストラヴィンスキーの「結婚」を思わせる、なんとも言えないよそよそしさがたまりませんし(好きなんです、どっちも)。
続いては室内楽から、ヴァイオリン・ソナタを。これも作曲年代的には「彼女の養女」が「イェヌーファ」になっていく時期のもの、そしてオーケストラ曲中で印象的な役割をはたすことが多いヴァイオリンの音をどうぞ。演奏はヴァレチコヴァさんでいいのかな、チェコのピシェクにある教会でのライヴだそうです。ヤナーチェクと言ったら教会育ちでもあるので、音像のイメージはこんなだった、かもですし。
「タラス・ブーリバ」同様、「イェヌーファ」と同時期の作品ということでぜひ。冒頭がちょっと切れているのが惜しいですね。
ここまでちゃんと聴いてくるとすでに一時間以上が経過しているはず、千葉程度がグダグダとご紹介するのもおこがましいというかなんというか、ちょっと申し訳ないです(笑)。最後にあと一曲だけこちらをどうぞ。最晩年の大作、グラゴル・ミサを、ニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督に就任するヤープ・ヴァン・ズヴェーデンの指揮で。イントラーダで始まってイントラーダで終わる、いわゆる原典版ですね。オランダNPO Radio4様には頭が上がりません。いやほんとに。
この作品のワイルドな神秘主義、その昔はじめて聴いた時から理解できないままに大好きです。好きな曲についてどうのこうのと、あまり説明はしたくないので(わがまま)、できたら他の曲は飛ばしてもいいから、これだけ全部聴いてくださいお願いします(笑)。
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最後にアンコールを一曲、弦楽四重奏曲第二番の終楽章を。アタッカ・クァルテットが2010年2月にニューヨークのトリニティ教会で演奏したもの。
「イェヌーファ」では、小さくないオーケストラを最小編成の室内楽に編み直して使う場面が何度となくあります。そしてそのたび、聴く方はよりドラマの進展を意識させられるわけです。劇の進行を促す大編成オケ、そして登場人物の心理を描写する小編成室内楽、それらの往還であのドラマはできているのだなあ、というのが「イェヌーファ」ほかを聴きこんだ今月の結論です。
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あ、でも初日の幕が開いたらまた感想変わるかもしれません、それは保留しておきますね(笑)。では今日はこんなところで。明日からの「イェヌーファ」、良い子のみんなは新国立劇場で僕と握手!(すっごく久しぶりのネタ)
もちろんこれも見ておいてね!(初日を前にちょっとテンション高いです)
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