2020年10月12日月曜日

NHK「ベートーベン250」プロジェクト 放送予定(2020年10月・作業中)

こんにちは。千葉です。

10月も数々の番組でベートーヴェンな公共放送、以下にリスト(と気が向いたらコメント)を。進行形で追加していきますので、出遅れた点はご容赦を…

●クラシックカフェ ベートーベン特集(9) 10/1 NHK FM


●第89回日本音楽コンクール 最終予選 10/12~16 NHK FM(うち、ベートーヴェン演奏は10/12、15のみ)

●クラシックカフェ 「ブルックナーの交響曲第9番他」 10/14 NHK FM

●クラシック倶楽部 デニス・マツーエフ ピアノ・リサイタル(10/14)、福間洸太朗 ベートーベンを弾く(10/15)

●ららら♪クラシック 「Road to ベートーベン4 オペラ 不変のメッセージ」 10/16 Eテレ

ここまでの三回は再放送でお送りしてきた「Road to ベートーベン」、新作にして稲垣吾郎さん出演回なのでどうぞご覧ください。…例によって配信ないかもなので、念のため録画など各位ご準備くださいませ。

●クラシックの迷宮 「歌えば、天国!」 10/17 NHK FM

●クラシック音楽館 「ベートーベン特集(2) 革命の作曲家 ベートーベン」 10/18 Eテレ

●プレミアムシアター 「ルツェルン音楽祭2020 ほか」 BSプレミアム 10/18


2020年9月19日土曜日

NHK「ベートーベン250」プロジェクト 放送予定(2020年9月)

 こんにちは。千葉です。

昨日の開幕特番の放送を見て、かなりの番組を使った一大企画だと理解できたNHKの「ベートーベン250」プロジェクト。そういえば昨日の昼にこんなのも放送してましたよ、ええ(残念ながらNHKプラスでの配信はなかった)。
なのですが、今のところその情報をまとめたものがこの「アンバサダーに稲垣吾郎さん!」の記事しかない。今放送している「土曜スタジオパーク」でも番組を紹介しているけれど、私がほしいのは端的に番組情報なんだよ!

と、ないものをただねだっても不毛なので、サクッとまとめてみることにしました。
なお、番組名は放送局表記に従って「ベートーベン」、自分の言葉で書いている部分は「ベートーヴェン」と表記が混在しますがそこはご容赦ください。
さらに、「名曲アルバム」「名曲アルバムプラス」「名曲スケッチ」については割愛します。放送予定はリンク先をご覧ください。
イヴェントなどの告知もここに入れておきます。

●「オーケストラでつなぐ 希望のシンフォニー」
すでに最初の演奏会は終わってしまっていますけれど、国内各地のアンサンブルがベートーヴェンの交響曲+αの演奏を披露する機会を公開収録、後日放送する一連のプロジェクトです。

●「あなたが選ぶベートーベン・ベスト10」
(もしかするとここが本体サイトなのか?)とも思いますが、体裁としては「ベートーベン250」プロジェクトのいち企画であるベスト10の投票ページ、です。11/16までの期間内に、3曲までを選んで投票してください(と公共放送様が申しております)。

なお。お前の更新なんて待っていられるか!俺は自分の部屋に戻る!(それ違う)という方はNHKオンラインの検索窓に「ベートーベン」と入れて、放送予定を確認していただくほうが早いでしょう、当然のことですが。4K8Kは別途確認が必要ですので注意してくださいね(豆知識)。
ではおことわりはここまで。

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●ベートーベン250開幕特番「今こそベートーベン!」 9/18(金) 21:30~/9/19(土) 15:35~ どちらもEテレ

視聴済みなのでかんたんにコメントを。ベートーヴェン役を演じたことでも知られる稲垣吾郎さんが、作曲家として尊敬しかつ指揮者としてフューチャー・オーケストラ・クラシックスと交響曲全集を録音した久石譲さんとそれぞれの視点から語るベートーヴェン像は、学究的ではないけれど広く伝わるものだったのかな、と。NHKプラスでの配信がないのは残念でしたが、舞台映像を豊富に使った結果なのかなあ…とかこの辺はちょっと歯がゆいです。

●名演奏ライブラリー ▽ウィーンの名ピアニスト パウル・バドゥラ・スコダ 9/20(日) 9:00~ NHK FM

番組ではスコダがフォルテピアノで演奏したベートーヴェンのピアノ・ソナタ第九番 Op.14-1が放送されます。

●×(かける)クラシック ▽第19駅 グルメ×クラシック(3) 9/20(日) 14:00~/9/21(月) 7:25~ NHK FM

放送予定曲にはベートーヴェンはなく、平野レミさんのお話でベートーヴェンの話題が出る模様。そうそう、最近聴くようになった「ディスカバー・ビートルズ」、月末担当はレミさんのお子さんだし(←言い方!トライセラトップスのヴォーカル、和田昌と紹介しましょう)、その奥方は最近再放送されているらしい某ドラマの野田恵さんですよね。うん、ご縁ありそう。

●クラシック音楽館 ベートーベン特集(1) 人間・ベートーベン 9/20(日) 21:00~ Eテレ

稲垣吾郎さん出演の「クラシック音楽館」。ちょっと自分で書いてみて不思議な違和感がありますね(笑)。
「交響曲第3番を題材に」というその内容を番組表からチェックすると、マリス・ヤンソンスが東京で披露したバイエルン放送交響楽団とのチクルスからの映像を軸にピアノ曲もはさみつつ「人間・ベートーベン」を紐解く内容になる模様です。
なお、稲垣吾郎さん出演の「クラシック音楽館」は三回の予定です。


●クラシック倶楽部 西村尚也&アンドレア・バッケッティ デュオリサイタル 9/22(火・祝) 5:00~ BSP

東海中学校・高等学校講堂で収録」とあったので一瞬(学校コンサートかな)なんて思ったのですがさにあらず。登録文化財の昭和初期建築なのだとか。勉強になりました。
番組ではヴァイオリン・ソナタ第五番、いわゆる「春」が放送されます。


●まろのSP日記 第23集 ベートーベン特集 9/22(火・祝) 9:05~ NHK ラジオ第一

気象情報、ニュースをはさみながら午前中をまるまる使って放送されるあたりに、我らが放送交響楽団の偉容を見ました(嘘です)。実はこの日、昼からは「今日は一日ショパン三昧」で、その後にはいつものように「ベストオブクラシック」(選でタリス・スコラーズの演奏会)と、クラシック三昧のNHK FMなのでした。
ちなみに「三昧」、司会に林田理沙アナウンサーのお名前がありますね…テレビのクラシック音楽番組への登板が待たれる彼女の大仕事、お時間ある方はぜひ。

「三昧」には川口成彦さん、反田恭平さんも出演されます(そっちを告知しようよ私…ってか本筋…まろさんごめんなさい)。

●クラシックカフェ  ▽ベートーベンのピアノ・ソナタ「月光」他 9/23(水) 14:00~ /10/1(木) 7:25~ NHK FM
おなじみの二時間番組、前半がハイドンからベートーヴェンへ、そして後半がドビュッシーとブリテンという二部的な構成のようです。ベートーヴェン作品はコヴァセヴィチによるソナタ Op.27-2です。


BS8Kなんてどこで見られるんだ!というお気持ちの方もいらっしゃるかとは思いますが、NHKの施設などで受信公開をしていますので、お近くなら、時間の都合がつくなら、どうでしょうか(強くは押せない)。
この演奏は全集収録の時期のもの、BS8K放送開始以来のおなじみコンテンツですね。

ベストセレクションじゃないんですベトセレクションなんです。ベトさんメイン回を以下三回のセレクションとして放送、なのです。わかる方にだけ伝わってください(笑)。

9月9日(水)「闇、その向こう」/9月16日(水)「ちがいのわかるおとこ」/9月23日(水) 「宇宙からのアンコール」


三か月かけてワンテーマを掘り下げる「カルチャーラジオ」、このテーマでは平野昭先生が出演されています。納得。
…ただし、7月からシリーズが始まっていますのでこの番組はもうゴールが近いのです。一週間のみではありますが聴き逃し配信も利用できますので、よろしければぜひ。


数少ない今年の収録映像、英国ロイヤル・オペラの「フィデリオ」もBS8Kで放送されます。
なお、このオペラハウスのことなので、上演作についてはYouTubeでもたくさん発信してくれていますよ、例によって。


●ららら♪クラシック 「Road to ベートーベン(1) 楽聖を育てた街 ウィーン」 9/25(金) 21:00~ /(木) 10:25~ Eテレ(再放送情報は未確認)

こちらの番組では四回シリーズでRoad to ベートーヴェン再放送。ここでも平野先生、また納得。です。


再放送ではありますが、シカゴ交響楽団からベルリン・フィルへと華麗すぎる飛躍を決めたフルーティストのリサイタル。ベートーヴェンの作品はアンコールで一曲だけ、ですけど(笑)。


先日「クラシック音楽館」でも一部放送されたこの「第九」も放送開始以来の推しコンテンツ、に感じますね。ユニテルがヴィデオではなくフィルム収録してくれたおかげで、その映像が本来の持つポテンシャルを知る機会が今訪れている、わけですね。そう考える私はこの高精細化には賛成しています。でも、当たり外れはあるかな…(カラヤン美学は恩恵が少なかった、と感じました)

一気に9月分を拾ってみましたが、これを通しでやったら駄目ですね、記事長すぎ。まずは9月分としてこれを公開しておきます。ではまた。

2020年7月15日水曜日

かってに予告編 ~東京フィルハーモニー交響楽団 7月定期演奏会

●東京フィルハーモニー交響楽団 7月定期演奏会

2020年7月
  15日(水) 19:00開演 会場:サントリーホール 大ホール
  17日(金) 19:00開演 会場:東京オペラシティ コンサートホール
  19日(日) 15:00開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール

指揮:佐渡裕
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ベートーヴェン:
  「コリオラン」序曲
  交響曲第七番 イ長調 Op.92

6月になって、東京フィルハーモニー交響楽団はようやく演奏会を開催できた。都のガイドラインによる制約から来場者を減らし、また来日不可能のため指揮者を変更し、それらに伴ってプログラムを変更し、という困難を乗り越えての演奏会の模様は、MBS系列で放送された「情熱大陸」でご覧になった方も多かったことと思う。
…使われなかったようなのでここで書いておくけれど、オペラシティでの公演の後来場者としてコメントを求められた私は「このような素晴らしいことができる楽団に舞台がないのは不幸なことだし、それを私たちが楽しめないのも本当に不幸なことだ」「以前とは違う状況だけれど、なんとかやっていけるようにできることをして共に音楽を続けたい」といった話を求められるままにしました。(ニュースのヒマネタなら数秒しか使えないだろうに、ずいぶんと聞き出すなあ)と思いながら答えた映像が世界に流れなくてよかった(いや大事なのはそこじゃない)。

さて。昨今は「禍福はあざなえる縄の如し」と思わされることばかりで、いいニュースには必ずと言っていいほどに残念なお知らせもついてくる。6月の定期に来場した方はもれなく見ただろう東京フィルの今後の定期演奏会の内容変更は、演奏会の再開を手放しで喜んでばかりもいられない、そんな気持ちも同時に喚起した。これを書いている今日、さらに残念なことに8月定期として開催予定だった定期演奏会(本来は今年3月予定)の中止も発表されている。つまり、プレトニョフと東京フィルによる演奏会は2020年には行われない。「わが祖国」全曲演奏会自体は2021年3月に再延期されるわけだが、これでまた一つの舞台が失われたことが惜しまれる。
(ここの部分、本当にわかりにくい書き方で申し訳ないのだけれど、このわかりにくさが今の状況なのだと思ってもらいたくてつい)

定期演奏会の改組は残念なお知らせだけれど、それを経なければ前に進めない、そんな困難な前提と向き合うのが2020年の現実なのだ、とうそぶいて深呼吸して、あらためて明るいニュースである開催される7月定期に目を向けよう。

本来なら4月に意欲的なバーンスタイン・プログラムで登場するはずだった佐渡裕が、この困難の中で東京フィルの指揮台に帰ってくることになった。演奏時間こそ長くはなかったけれど、さすがに舞台転換に声楽に、と今はまだクリアできない条件を伴ったそのプログラムは披露されない(いつの日か実現されますように)。その代わりに、生誕250年を迎えたベートーヴェンの二曲による約一時間のプログラムで定期演奏会は開催される。悲劇的な序曲、そして舞踏の高揚を窮め尽くす交響曲、佐渡裕と東京フィルはどう聴かせてくれるだろうか。今や希少な機会となった演奏会、好演を期待したい。

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今回も都のガイドラインに従っているため、短めの演奏時間に加え来場者を絞っての開催となるため、聴きたくても聴きに行けない、という方が多いだろうことは本当に残念なことだし、また、最近になっての感染拡大に見える状況も心配だ(心配と自衛くらいしか、一個人にはできないのが歯がゆい)。
そんなご時世なのだから、行き帰りも含めて十分な配慮をして、事後にもトラブルなく演奏会が成功裏に終わるよう努める。皆様御存知の通り、”新しい時代”の演奏会の聴衆にはこの配慮が求められています。状況は厳しいですけれどやれることをしましょう、そして音楽がライヴで聴ける可能性をつなぎましょう。以上、最後の段はただの聴き手の私からのお願いでした。

2020年6月23日火曜日

公演再開のためのキープディスタンス・エクスペリエンス 資料編

こんにちは。千葉です。

先般ミューザ川崎シンフォニーホールで開催された「公演再開のための キープディスタンスコンサート」について、オペラ・エクスプレス様に寄稿しています。よろしければご覧ください、あわせてミューザ川崎シンフォニーホールのサイトもご覧になるのがよりよい見方ではないかな、と思います。
中川英二郎氏は、本来なら今月はこのランチタイムコンサートに加えて「スライド・モンスターズ」のツアーでもミューザ川崎シンフォニーホールに登場する予定でした。来年に延期となってしまいましたけれど、様々なアンサンブルでそれぞれに個性的なサウンドを聴かせる中川英二郎氏の帰還を、楽しみに待ちたいと思います。



さてこの日の試演会、ミューザ川崎シンフォニーホールはどのような準備をして臨んだのかと気になる方も少なくないのでは、と想像します。そこで、私が会場で思いつくままに撮った写真を以下に貼ります。ご参考になりましたら幸いです。
(今後、テキストは更新予定です)

まずは入場前。

奴らは相変わらずチャラい。それがむしろ安心感を誘うのはなんでしょうね(笑)。ちなみにヴィジュアル下部のMASK、これは「Music Aventure Summer Kawasaki」です。ぜひお見知りおきを。

そしてホワイエ。

ベンチも間を空けて使うよう案内があります。
客席に入るとこんな感じです。

一席空けて座るよう案内してあり、この紙は下の写真のように貼られていました。この日は2ブロックしか使っていませんが、全体ともなるとけっこうな作業です。

さらに場内を巡回している案内の方は、これを示して歩いていました。

いろいろ変わってはいるけれど、ステージはいつものミューザ川崎シンフォニーホール。帰ってきました。

この写真でもピアニストとバンジョーの席が離れているのがわかりますし、トロンボーンのスタンド近くには水抜き用の受け皿(状のもの)が見て取れます。
なおここで一応書いておきますが、一般に「つば抜き」と言われがちな管楽器の水抜きですが、あれはほとんどは結露による水滴ですね。この日も中川氏は演奏開始前、つまり音を出していない時間帯に結露した水分を排出していることがよくわかりました。

さて終演後の意見交換会の模様から。一枚目に指写っててごめんなさい(笑)。


終演後のトリオからもコメント。聴衆の前で演奏できてうれしい、とのお言葉がありましたがこちらこそ「目の前で演奏してもらえて、それに拍手が贈れて本当にうれしい」と強く感じましたよ。

ロビーにはこんな掲示が。ミューザ川崎シンフォニーホールのホームページにあるもの同様とは思いますがご参考まで。

チラシ掲示のところでは、公演の度重なる変更にこのような形で対応していました。

以上がこの日私が気づいた諸々のこと、でした。ヤツも皆さんの来場を待っていると思います。状況が整った方から、十分な準備をした上で会いに行ってやってくださいませ。
最後に。
ビルも少々さま変わり。スポーツ用品店が撤退したスペースは、今こうなってます。

でかいコンビニです。次回来場の際にご活用ください。

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では失礼して、ミューザ川崎シンフォニーホールの新たな船出に乾杯(お酒飲みたいだけ)。また会場でお会いしましょう。

2020年6月21日日曜日

かってに予告編 ~東京フィルハーモニー交響楽団 6月定期演奏会

●東京フィルハーモニー交響楽団 6月定期演奏会

2020年6月
  21日(日)15:00開演 会場:Bunkamura オーチャードホール
  22日(月)19:00開演 会場:東京オペラシティコンサートホール
  24日(水)19:00開演 会場:サントリーホール 大ホール

指揮:渡邊一正(東京フィル・レジデントコンダクター)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ロッシーニ:歌劇「セビリアの理髪師」序曲
ドヴォルザーク:交響曲第九番 ホ短調 Op.95 『新世界より』

※当初予定のミハイル・プレトニョフ指揮による公演から内容が変更されました

私が東京フィルの公演について、恒例の「かってに予告編」を書くのもほぼ四ヶ月ぶりだ。基本的に聴きに行く予定のコンサートについて、自主的に(きれいな言い方)ご紹介させていただくものだから、要はあのチョン・ミョンフンとの「カルメン」から東京フィルの公演に行けていない、というわけだ。
そのコンサートからの遠ざかりが自分由来であれば仕方のないことだ、実際に地方に住んでいた時期にはコンサートなんてまったく行けなかった。それでも、数多くの演奏会が開かれているのであればいつか放送なり録音なりで触れる機会も出てくるだろう、そう思って耐えることもできた。しかし2020年前半のこの空白はそうではない。日本一多忙な、とも言われる東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会が、まったくなかったのだ。3月に予定されていたプレトニョフとの「わが祖国」は8月に延期開催される予定だが、4月に予定されていた佐渡裕によるバーンスタイン・プログラムは公演中止となった。演奏機会が本当に希少な作品を取り上げるはずだったのに。

そしてこの6月定期も、プレトニョフとの演奏会のはずのところ、マエストロ来日不可能のため、またCovid-19対応のガイドラインに沿った形への変更を行った上でなんとか開催される運びとなったわけである。その経緯や対応については、オーケストラからのお知らせを見てほしい。

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ここで私は「自分が伺う予定の定期演奏会」の話しかしていないから、「公演の空白と言っても3月と4月の二つだけ」のように見えてしまったなら、それは大変に申し訳ないが誤解だ。「日本一多忙な」と言われる東京フィルは伊達にそう呼ばれているわけではなく、自身の主催公演に加えてバレエやオペラでの演奏、そして数多くの委託公演に参加しているのだから。皆様も最近よく目にする、アーティストやコンテンツの名を冠した「オーケストラ・コンサート」「シネマコンサート」の存在はご存知だろう、それらの数多くに登場する東京フィルハーモニー交響楽団がこの4ヶ月の間に失った公演の数は相当のものだろうと、聞くまでもなく容易に想像がつく。その影響を直視するのが憚られて、調べることさえも気後れする。
その間に私にできたのはせいぜいが首席指揮者アンドレア・バッティストーニとの新譜「幻想交響曲/舞楽」をダウンロードすることくらいだったので、その無力感たるや。いやそんなことより、音楽の可能性を開花させる機会を奪われた音楽家の皆様の胸中如何ばかりか、そして演奏団体の存続は大丈夫なのか。心配しかできないのがもう、なんとも…


新譜レヴュー、近日お出しします。筆が遅くて申し訳ない。
現時点では「良い録音でこれらの作品が聴けることは幸いである、そしてこれが日本のオーケストラによるものなのだからますます喜ばしい」とのみ。

湿っぽい話が長くて申し訳ありません。この機会を逃すとこの話をしておくタイミングがないのです。演奏活動が部分的にではあっても再開されるから、やっとこの話ができる。私はそう考えています。
幸いなことに、これまでに世界各地の演奏団体の試みが報告されており、合奏については比較的安全に実施できそうな見通しがあるように私見している※。国からの緊急事態宣言が解除された今、演奏会を開くのは自然なことだ。なにせ音楽家には演奏したい思いがありそのための高度に専門的な能力がある。そして私たち聴き手もいつまでも再生環境に左右される配信で満足してはいられない。目の前で生まれる音に出会うために演奏会に足を運ぶことの楽しさを知ってしまえば、演奏会が開かれていない日々がこれ以上続くことを受け入れられましょうか。

※声楽、とくに合唱については東京二期会が7月に演奏会を行うという朗報もあったけれど、ポジティヴな見通しを否定する情報もあり、私については判断を留保させていただきたい。

上述のとおり、演奏会は予定を変更して開催される。プレトニョフが来られない以上、シチェドリンによる「カルメン」とチャイコフスキーの組曲という、彼独自のプログラムは変えるしかないことを残念に思う気持ちがないわけではないけれど、活動再開にあたってこの変更はありなのではないか、とも感じる。かつてないほどの空白を埋めるのに、気心の知れたマエストロを招くのは自然なことだ。そして曲目を見れば、冒頭はオペラを得意とする東京フィルからの久しぶりのご挨拶であり、劇場への愛を示す「セビリアの理髪師」序曲。そして変わってしまった新しい世界への第一歩としてのドヴォルザークの交響曲。うん、いいと思います。

それは私だって「新世界」がアメリカ合衆国を指すことやら民謡や音階を部分的に採用していること等など、もちろん存じておりますが(あやしい)、創作を終えて作者からも時代からも独立した作品にはこういうめぐり合わせの妙、よくあるものです。今このときに体験することでこういう感じ方をする(してしまう)のが受容する側に与えられた自由のひとつなのだから、そこは積極的に楽しめる方を選ぼう、私のスタンスはそういう傾向がありますね…(今気づいたのか)。私のことはさておいて。
いよいよ、6/21から東京フィルハーモニー交響楽団は演奏会を再開します。この日付を埋められる日が来たことを喜び、今度は再びの空白とならぬことをお祈りして本稿を終えましょう。

そうそう、Covid-19の流行のあと、演奏会は音楽家と主催者と、そして聴衆が協力しないと実施すら難しい時代になりました。来場予定の皆様は、必ず団からの対策案内を熟読して、体調に気をつけて会場に向かいましょうね。私からもお願いします。


こうした活動もぜひご覧ください。

2020年3月25日水曜日

夏の主役は君だ! ~フェスタサマーミューザKAWASAKI 2020 ラインナップ発表

※変更後のプログラム発表を受けて、この記事の改稿ではなく追加で文章を書くことにします。しばらくは古い情報をそのまま載せていることになりますので、チケット入手のための情報などはミューザ川崎シンフォニーホールのホームページをご覧ください。

2020年3月25日(水)、ついに「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2020」(以下サマーミューザ)のラインナップが発表された。今年は現今の状況に鑑み恒例の記者発表は行われなかったけれど、そのラインナップはこれから夏まで音楽ファンの注目を集め続けていくことだろう。サマーミューザがあるから、失われた”2020”にはならない、ラインナップを読み込んで私はそう確信した。

>フェスタサマーミューザKAWASAKI2020 公式サイト

今年は7月23日(木・祝)に開幕し、8月10日(月・祝)まで19日間にわたって数多くのコンサートが連日開催される(7/27、8/3は演奏会なし)。例年通り、首都圏のオーケストラによる特色を活かした公演の数々の饗宴、ホールアドバイザーによる趣向を凝らした企画、そしてゲストの登場と、サマーミューザは今年も”毎日でも通いたい”魅力的なプログラムを用意してきた。昨年初の首都圏外から参加した仙台フィルハーモニー管弦楽団に続いて、今年は群馬交響楽団がサマーミューザに登場する(8/4)ことも注目を集めるだろう。

ではそのプログラムの魅力を読み解こう。
今年のサマーミューザは、一つの軸として生誕250年を迎えたベートーヴェンを据えた。N響、群響、東京フィル、新日本フィルがミューザでの公演で取り上げるのに加え、「出張サマーミューザ@しんゆり」は両日ともが「オール・ベートーヴェン・プログラム」だ。オーケストラ公演に通いつめれば交響曲第五番から第九番、ヴァイオリン協奏曲にピアノ協奏曲(一、四、五の三曲を一公演で!)、そしてめったに演奏されない三重協奏曲までが披露される。さらに小川典子が「ピアノフェスタ」で取り上げる「悲愴」ソナタもあるのだから、存分にベートーヴェンの音楽を楽しめようというものだ。

多彩な独奏者が登場するのも今年のサマーミューザの魅力の一つだ。定番のヴァイオリン、ピアノも名手たちが揃うのだが、ギターにサクソフォン、ハープに「第九」の独唱陣と、公演に彩りを添えるだけには収まらない音楽家たちが連日のように登場してくれる。

個別に気になる公演をあげるなら、”夏祭りだから”とばかりに凝りまくった企画を披露してくれる下野竜也と読響+反田・務川(7/29)、ミューザ初登場となるアンドレア・バッティストーニと東京フィル(8/2)、近年クラシックへの本格的なアプローチが際立つ久石譲と新日本フィル(8/4)、飯守泰次郎と本格的なプログラムを披露する東京シティ・フィル(8/7)、あたりは聴き逃がせないと感じる。

仙台フィルハーモニー管弦楽団に続いて招かれた群馬交響楽団は、映画「ここに泉あり」でも印象的に用いられた「第九」でミューザデビューを飾ってくれることとなった。新本拠地・高崎芸術劇場がお披露目されたばかりの群響が、群馬交響楽団合唱団、独唱陣とともに聴かせてくれる”真夏の第九”、酷暑に負けぬ熱演に期待したいところだ。

また、今年のサマーミューザでも、ジャズ企画は継続される。国府弘子が小川典子とのコラボ(7/24)、ベースの井上陽介らとのコラボ(7/26)で活躍してくれるのは心強い。

アウトリーチ公演は今年も充実しており、「こどもフェスタ」として開催されるホールアドバイザーの小川典子による「イッツ・ア・ピアノワールド」(7/24)、かわさきジュニアオーケストラ発表会(8/6)の二公演、そして市内の音楽大学による演奏会(洗足学園の恒例”バレエとのコラボ”公演は7/31、女性が輝く昭和音大のコンサートは8/5)は廉価で楽しめるコンサートとして今年も好評で迎えられるだろう。無料企画の「音と科学の実験室 夏ラボ!」や、「若手演奏家支援事業2020 ミニコンサート」も開催されるので、夏休みの親子には気軽にミューザに足を運んでみてほしい。

そうそう、今年のサマーミューザのタイトルは「みんな大好き夏音(サマーミューザ)」である。少しゆるいこのテーマに、新ヴィジュアルのヌケ感はもしかすると(川の向こうで世界的イヴェント開催中だし)なんて衒いがあったのかな、とも思える。だがプログラムを、出演者を見れば堂々たる本格的音楽祭として、この夏の主役になってしまうのは確実である(市民の贔屓目はあるにしても)。チャラくてもいい、ガチでもいい、存分に音楽を楽しむ夏の到来を待とうではないか。

(バッハさん以外は半笑い…性格悪そう、なんて言いませんよ、ええ)

最後に残しておいたこれも決して忘れてはならない、夏祭りの焦点のひとつである。ご存知ミューザ川崎シンフォニーホールを本拠地に活躍する我らが東京交響楽団だ。東響は今年も開幕公演、出張サマーミューザ、そしてフィナーレと活躍してくれる。
開幕公演は定期公演の同プログラムがすでにチケットが入手困難となっていたノット&東響によるマーラーの第五番(!!!!)である。各位、ご用意はよろしいか。
そしてフィナーレでは、先日の配信でも東響と見事にスウィングしてみせた原田慶太楼が登場する。東響が誇る名手景山梨乃によるグリエールの協奏曲、長身を活かしてダイナミックな指揮姿が魅力の原田による「シェエラザード」ももちろん注目なのだが、今回はその間に置かれるかわさき=ドレイク・ミュージックによる”新作”も見逃してはならない。メインの「シェエラザード」をモティーフとして披露される即興は、その創造のプロセスから興味深いものとなるだろう。※
前述したとおり@しんゆりは秋山指揮、オール・ベートーヴェンによる堂々たるプログラムと、どのコンサートも今の東響の充実を存分に示してくれることだろう。

※残念なことだが、昨今の状況によってフィナーレコンサートにイギリスの「ドレイク・ミュージック」の参加はなくなった。きっと次の機会がある、と思いたいが…

そうそう、これはミューザと東響の仕込んだ小ネタだと思うのだが、パンフレットをくまなく見てほしい。下段のアイコン説明に「祝!ベートーヴェン生誕250年」に並んで「祝!マーラー生誕160年」が用意されているのだが、実は今回のサマーミューザでマーラーを披露するのはノット&東響だけ、なのである(笑)。ラッヘンマンとマーラー、ノット&東響のケミストリーへの期待を込めた、ミューザからのちょっとした遊びを私はとてもうれしく拝見した次第である。

そしてこれはサマーミューザの直後となるのだが、3/28に予定されていた定期演奏会は8/13にミューザ川崎シンフォニーホールで開催される、と昨日発表された。今まさに心待ちにされている”復活”の時として、フェスタサマーミューザが無事開催されることを、私は心から祈っている。

2020年3月20日金曜日

かってに予告編 ~東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第113回

他団体に先駆けて行われた東響の、そしてびわ湖ホール「リング」の配信は、人々の音楽を求める声の大きさを、我々聴き手も音楽家の皆さんも強く認識する機会になったと感じる。新型コロナウイルスが世界的パンデミックとみなされるようになった今、世界でも各地で配信を積極的に行うようになったを踏まえれば、今回の危機的状況に対して東京交響楽団(とその本拠地であるミューザ川崎シンフォニーホール)が選択した”音楽によってコミュニケーションを取り続けよう”という姿勢の妥当さが示されたと言えるのではないか。初回に10万、二回目に7万という大勢がミューザでの東響のサウンドに触れてくれたことは、その素晴らしさを降りに触れて表明してきた私にとってもこの厳しい状況下で喜ばしいニュースとなった、と感じる。

その無観客演奏会の配信の大成功によって、日本のクラシック音楽界の注目を一身に集めた東京交響楽団がついに主催演奏会の再開を決めた。このことは賛否があるのだろうが、私は支持する。
生物としての存在を脅かされるCOVID-19も危険なことは疑いようのないことだが、それに由来してなんの補償もない”自粛”を続けることで経済的・社会的生物としての私たちも殺されてしまいかねない。そのバランスを取りながらできることをし、してはいけないことを避ける、今はそれくらいしかできることはない。私はそのように考える次第だ。

こんな当たり前のことを真剣に言揚げする必要がなくなる日が早く来てくれることを心より願っていることも付言しておく。さて、その演奏会開催のための詳しい注意事項もオーケストラからは発信されているので、来場されるすべての方がご一読されることを私からもお願いしたい。と、演奏会を問題なく開催するためのご案内はここまで。

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●東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第113回

2020年03月21日(土) 14:00 開演 会場:東京オペラシティコンサートホール

指揮:飯森範親
チェロ:新倉瞳
管弦楽:東京交響楽団

ラヴェル:ラ・ヴァルス
ファジル・サイ:「11月の夜想曲」チェロと管弦楽のために(新倉瞳による委嘱作品)
ラヴェル:
  道化師の朝の歌
  スペイン狂詩曲
  ボレロ

東京交響楽団の正指揮者として、数多くの演奏会に登場してきた飯森範親は、本年度を持ってそのポストを降りる。…だが4月からは特別客演指揮者として今後も共演を続けていくので飯森と東響の関係が大きく変わるわけでもないように思うが、今度の演奏会が一つの区切りとなることは疑いようもないことだ。その演奏会で飯森は、ラヴェルの作品を集めたプログラムを披露する。数々の新作や知られざる傑作の初演(日本初演含む)を手がけてきた飯森と東響のひとつの区切りがこのような選曲になるというのはちょっと不思議な気もするのだが、東響の精緻なアンサンブルはラヴェルにはよく似合うし、飯森の高い読譜力はラヴェルのスコアを最適な響きに編み上げてくれることだろう。

こんな感傷的な気分も高雅に受け流し(おい)さて何を書こうかと考えつつプログラムを見ていて、ラヴェルとサイの組合せによって昼と夜の、明と暗のコントラストが繰り返し示されることに気がついた。綺羅びやかな舞踏会の幻想(ラ・ヴァルス)から「11月の夜(想曲)」(これはやはり”11月の階段”を踏まえた題なのだろうか)へ、そしてまた(道化師の)朝、から夜への前奏曲から舞曲を経て祭りの狂騒へ(スペイン狂詩曲)。こう並べられるとこの文脈で「ボレロ」をどう捉えたものか、そんなことを考え始めてしまうのが私の癖なのだ。
しかしここで結論を引き伸ばすこともないだろう。会場の静寂に刻まれ始めるリズム、そして次第に高揚しその頂点で終わるこの音楽を、この文脈では「真昼」に至る作品と受け取りたい。


 …こう書いてきて、この読みを導いたのはこのバレエの記憶のせい、と思えてきてしまった。飯森と東響の”ラストダンス”、完全燃焼を期待しよう。

いちおう、穏当な話も。ラヴェル作品はすべて舞踏を想定した作品である。もちろん、千鳥足の酔漢の足取りを舞踏と言ってしまうことには異論もあろうと思うけれど、ラヴェルが描き出すこの道化師の足取りから耳目を離せないのも皆様ご存知のことと思う。この観点からは、”ラストダンス”説がより強められるわけだが、より広く東響のプログラミングを見てくれば「2月川崎定期のスペイン・プログラムへのレスポンス」(ヴァラエティに富んだスペインもの!…はっ!「スペインの時」につながるか←それは無理筋)など読みももちろん可能だ。久しぶりのコンサートで私自身が何を受け取れるものか、大いに楽しみにしている。

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さてテレビのCMに出ていたり、ドレスのプロデュースをしてはいても、新倉瞳はガチの音楽家である。今回初演される※ファジル・サイの作品も彼女による委嘱である。眉目秀麗な異性だからと音楽的評価をしにくくなる、というのは悪しきルッキズムなので克服しましょう(←私への注意喚起)。

この新作については、現時点ではSNSにアップされたリハーサル映像でほんの一部が聴けるだけなのだが、サイの作品を知る人ならおなじみの”空気”を感じさせる作品であるように思える。



初演であれば予習のしようもないところなので、ここはひとつ私が大好きなパトリツィア・コパチンスカヤによるヴァイオリン・ソナタでも聴いてその”空気”を感じておいてください(ただのゴリ押し)。



さあ久しぶりの生音、存分に楽しませていただきましょう。ご来場の皆様、くれぐれも万全の準備をされますよう。もちろん私も万全の体制で臨む所存であります。

2020年3月12日木曜日

かってに予告編 ~モーツァルト・マチネ 第40回/無観客ライブ無料配信「東京交響楽団 Live from Muza!」

初回のニコニコ生放送における「無観客演奏会」の試みが大好評裏に終了し、東響&ミューザのファンとして安堵している。…いや、本当に多くの人たちがミューザでの東響のサウンドに触れてくれたのは喜ばしいことなのだが、自分個人としては配信前より一層”あの場で音楽を聴きたい”という思いが強まっている。欲張りなものである。
さて配信を聴かれた皆様、今度は近代の作品で揃えた名曲全集とはまた違う”ミューザの東響”の本領ともいえる演奏会をぜひご覧あれ。ということで例の予告編行ってみよう。

●モーツァルト・マチネ 第40回

2020年3月14日 (土) 11:00開演 会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:原田慶太楼
ピアノ:金子三勇士
管弦楽:東京交響楽団

※フルート四重奏:八木瑛子(首席フルート奏者) 水谷晃(ヴァイオリン/コンサートマスター) 武生直子(首席ヴィオラ奏者) 伊藤文嗣(首席チェロ奏者)

モーツァルト:
  フルート四重奏曲第三番 ハ長調 K. 285b
  交響曲第三五番 ニ長調 K.385 「ハフナー」
  ピアノ協奏曲第一三番 ハ長調 K. 415 (387b)

モーツァルトの時代、演奏会はまだジャンルで分かれきっていなかった。オーケストラの演奏会に歌手によるアリアや器楽の独奏が挟まれることも数多あって、その演奏時間の長さたるや貴族ならざる我々にはあまり考えたくないほどのものだ。もちろん、全部付き合っていたわけではないだろう、とも思うけれど。
そのような演奏会の伝統はベートーヴェンの頃にも続いていて、よく知られた「田園」「運命」(←あえて、ね)が初演された演奏会はその二曲でも十分に長いのに、ピアノ協奏曲第四番(!!)など他の作品が演奏される、半日がかりの長大な演奏会であったことは比較的知られている。今回のモーツァルト・マチネはそんな歴史を想い出させる、創意あるプログラミングだ。
だがいくら川崎市がザルツブルクと姉妹都市で、ミューザの開演を告げる音がかの地の鐘の音で、モーツァルトを得意とする東響がミューザで展開してきたシリーズであっても、朝からそんな重たいプログラムを取り上げるわけではさすがにない。だが今回の演奏会は短くはあるけれど、そんな往時の音楽のあり方を思わせてくれるものとなるだろう。なにせ、まずは室内楽で始まって交響曲を演奏し、最後にピアノの協奏曲で締める、というのだから。

マンハイム滞在期の作品ともされるフルート四重奏曲第三番では、先日の演奏会で「牧神の午後への前奏曲」で活躍しフルートの八木、そして首席奏者たちによる親密なコミュニケーションが楽しめるだろう。
続く交響曲第三五番は、ハフナーさん(当時の貴族)のためのセレナードを改作した作品で、その祝祭的な雰囲気はモーツァルトの交響曲の中でも独特なものだ。私としてはこの作品のフィナーレについてなら「疾走する」モーツァルト像を認めてもいいと思う。偉そうですみません。
そして最後はウィーンで、フリーランスの音楽家として活路を求めていた時期のピアノ協奏曲だ。モーツァルトの名を冠したシリーズの、今季の演奏会最後を飾るのにモーツァルト自身の楽器だったピアノが活躍する作品を選ぶのは実に妥当と言えるだろう。

そんなプログラムを、オーケストラをドライヴすることについては既に定評を得つつある原田の指揮で、内外で活躍する金子のピアノで楽しめるのは幸いなことである。スダーンの時代から数々の名演を聴かせてきた”東響のモーツァルト”に、新たな名演が加わることを期待して、土曜の朝を迎えようではないか。

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と、通常のスタイルで書いてきましたが、先日の配信で初めて聴いた皆さんは、構えず楽しみにニコニコ生放送のページにアクセスしてください、ぜひ。ミューザの音響の素晴らしさは室内楽でも発揮されることは経験上良く知っていますので、一曲目からモーツァルトの魅力をお楽しみいただけることは私が保証…するまでもないですね、先日の配信で八木さんのファンになった皆様には。
もし曲がわからないのがちょっと、と思われるようなら曲目のところの「K.(数字)」の部分で配信サイトあたりを検索すればまあ、何かしらありますので。

この無観客演奏会・無料配信は窮余の一策ではあるけれど、これでより多くの人が東響の、ミューザの魅力を知ってくれるなら一ファン、一市民としても嬉しく思います。
次回は午前中の公演ですので、皆様お寝坊などされませぬよう(笑)。

追記。
前回のコメントなどでの意見を踏まえ、二回目の配信となる今回はニコニコ生放送の機能の一つ「ギフト」を導入した、とのことです。さてどうなりますか、まずはリアルタイム視聴、ですよ!

2020年3月8日日曜日

かってに予告編 ~ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第155回 Live from Muza!

3月に入り、政府からの「要請」を受けてクラシック音楽の公演は激減している。そんな中で、東京交響楽団と本拠地のミューザ川崎シンフォニーホールが興味深い試みを発表した。コンサートとしては開催を中止した、ミューザ川崎シンフォニーホール主催の「名曲全集(3/8)」「モーツァルトマチネ(3/14)」の二公演を、ニコニコ生放送で無観客演奏ライヴ配信&レコーディング・CD発売する、というのである。
以前から東響は自主公演の配信「TSO Music & Video Subscription」を実施していること、ノット監督との録音の縁でオクタヴィアレコードとの連携がスムースなことなど、いろいろの要素があるとは思うのだが、今回のような危急の時にニコニコ生放送での無観客演奏配信に踏み切るとは。この苦難を来場を予定していた従来のファン以外の層にも東響の、ミューザの音が届く機会に転じてみせたことに、拍手を送るしかないのである。

そしてこれは私事ですが、おかげさまで事前から少しずつ書き溜めておいたメモをまとめてお出しできる機会を得たわけで、例によって「かってに予告編」をお送りしたい。ささやかながら予習のお供に、復習のよすがにご利用いただけましたら幸いこの上なく。
なお、公式の「予告」は曲目解説を含めてミューザ川崎シンフォニーホールのブログに掲載されています。野良の予告(笑)が信用ならないとお考えの向きにはリンク先をご覧いただけましたら。


●無観客ライブ無料配信 「東京交響楽団 Live from Muza!」 ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団「名曲全集第155回」

2020年3月8日(日) 14:00開演 会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:大友直人
ピアノ:黒沼香恋(ミューザ・ソリスト・オーディション2017 合格者)
オルガン:大木麻理(ミューザ川崎シンフォニーホール オルガニスト)
管弦楽:東京交響楽団

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲(1894)
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調(1931)
サン=サーンス:交響曲第三番 ハ短調 Op.78 「オルガン付き」(1886)

ご覧のとおりのフランス近代音楽によるプログラムである。いわゆる印象派の元祖ともいわれる小品、そしてWWIを生きのびた作曲家による美しい協奏曲、ホール自慢のオルガンが効果的に活躍する”印象派以前”の堂々たる交響曲と、”フランス音楽”とくくられる作品群の幅広さを端的に示す好選曲だ。

冒頭で演奏されるドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」は、少しでも近現代のクラシック音楽に興味を持って書物に当たるなら、必ず大文字で記されている作品だ。しかしこの曲は演奏時間わずか十数分のもの、なにゆえそこまで特別扱いされるのか…といえば、それこそ本一冊と言わずなにかの書物の一章を読んでいただくのがいいのだけれど、それより何よりまず音を聴いてみるのがよろしかろう、と思う次第。



続いて演奏されるのは、ラヴェルが晩年に取り組んだピアノ協奏曲のうち、いわゆる”両手”、ト長調の協奏曲だ。ジャズ風の曲調、美しい旋律が印象的な第二楽章など魅力に溢れた作品だが、映像で見てみるとそのにぎやかさに対してあまりに小さい編成に驚かされる。なるほど、これは第一次世界大戦あとの、厳しい時代に生まれた美しい音楽だったのである。
(この曲は割と動画があったけれど、ちょっと貼りにくいこれをあえて用意しておきたい。トリッキィで仕掛けが多すぎるこの曲で、こんなことができるなんて。いつ視聴しても感嘆してしまう演奏です)

最後に演奏される交響曲を聴くことで、もしかするとドビュッシーがもたらした変革がより理解できるかもしれない。サン=サーンスという多彩な才能が全盛期に残したこの作品は「19世紀には革新的、20世紀には保守的」とみなされてきた、なかなか複雑な歴史を持っている。それでも20世紀には主にオーディオ方面での人気が高く、長きに渡って人気作として愛されているサン=サーンスの代表作の一つだ。管弦楽にオルガンが加わったときの表現力は、体験してみないとわからないところがあり、体験してしまえばこれは間違いなく「名曲」だと言うしかないのである。
オーディオ側からのアプローチが多かったこの曲は名録音で楽しむのもいいのだが、ミューザ川崎シンフォニーホールのように素晴らしいオルガンを持つ音響の良いホールで演奏されるなら最高の経験になる。実演では会場の空間を圧倒する大音響のみならず、背景として場面を支え存在感を示したり、とオルガンをよく理解した作曲家が凝らした技の数々がどこまでも感じ取ることができるけれど、さて今回の配信ではどこまで聴き取れるだろうか?



せっかくの配信イヴェントなので、動画増量でお送りしています(笑)。冗談はさておき、クラシック音楽はいま「聴こうと思うなら割と聴くことができる」状態にあるのです、とお伝えしたい気持ちもありました。

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2011年の大震災の際に、ミューザ川崎シンフォニーホールは大きな被害を受けてしばしの休館を余儀なくされ、ホールはほとんどのイヴェントが開催できず、東京交響楽団は本拠地での演奏ができない事態に追い込まれた。しかしそのとき「音楽のまち かわさき」を体現する存在として市内各地での演奏を充実させることで、災いを好機に変えるよう全力を尽くしてくれた。今回の”災害”はまた違った性格の、なんとも厄介なものではあるのだが、それをも音楽で乗り越えようとしてくれることには、一音楽ファンとしてお礼申し上げたい。そしてこのホールに足繁く通う川崎市民として、全世界の皆様に「どーですかミューザ川崎シンフォニーホール!どーですか東京交響楽団!」と、この機会にアピールしてあげたい。
なお、今回の危機を受けて東京交響楽団は素早くもこの発表の前にYouTubeで「第675回定期演奏会」を配信をしていた。バークリーの有名なテーゼを引くのも野暮というものだけれど、オーケストラは存在するだけで意味があるのではない、その音を誰かに届ける存在なのである。今回の発表を受けて、そう感じたことを思い出した。私はその音を聴き届けたい、そう願う者である。


なお、この定期の予告はこちら。ご参考まで。

最後にひとつ。残念なことだが、当初発表のプログラムで予定されていたリリ・ブーランジェ作曲「春の朝」は著作権の都合により演奏されない。この名曲で編まれたフランス音楽プログラムに、知られざる早逝の女性作曲家の最後の作品を入れるあたりが「実に大友直人らしい選曲」と感じていたものだから、このカットは惜しい。このプログラムではドビュッシーのあとの、ラヴェルの前の時代の作品として再発見される機会となったことだろうに、と。



だがしかし、それも今回の”コンサート”開催の中では瑕瑾にすぎない。この知られざる作品が再度取り上げられる機会を信じて待つとしよう。

(追記)
終演後の東京交響楽団からのリリースによれば視聴者数は約10万人に及んだとのこと。私も視聴していたが、「無料じゃ申し訳ないから課金させてくれ」といったコメントが多かったことには、なにかのヒントがあったように感じた。詳しくは後日、次回の予告でまた言及します。

2020年2月18日火曜日

かってに予告編 ~東京フィルハーモニー交響楽団 2020年2月定期演奏会「カルメン」

●東京フィルハーモニー交響楽団 2020年2月定期演奏会

2020年2月
  19日(水) 19:00開演 会場:東京オペラシティコンサートホール
  21日(金) 19:00開演 会場:サントリーホール 大ホール
  23日(日・祝) 15:00開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮・冨平恭平) 杉並児童合唱団(児童合唱指揮・津嶋麻子)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト 役名(声域):歌手名の順

カルメン(メゾ・ソプラノ):マリーナ・コンパラート
ドン・ホセ(テノール):キム・アルフレード
エスカミーリョ(バリトン):チェ・ビョンヒョク
ミカエラ(ソプラノ):アンドレア・キャロル
スニガ(バス):伊藤貴之
モラレス(バリトン):青山貴
ダンカイロ(バリトン):上江隼人
レメンダード(テノール):清水徹太郎
フラスキータ(ソプラノ):伊藤晴
メルセデス(メゾ・ソプラノ):山下牧子

かつてチョン・ミョンフンがバスティーユ・オペラ、パリ・オペラ座の監督として活躍していたことは21世紀も20年経ってしまえばもう昔話だろうか。残念ながら私は当時彼のオペラ上演には触れられなかったけれど、その活躍は当時残されたいくつかの録音からも察せられるわけで、羨まし口惜しい限りである。そして現在の彼は、ご存知のとおりフィレンツェやミラノでヴェルディ作品を任されるほどの世界最高のオペラ指揮者の一人であり、東京フィルハーモニー交響楽団の名誉音楽監督として多くの公演に登場してくれている。
彼が東京フィルの舞台に定期的に登場してくれることのありがたみというものを、どう言い表したらいいのか私はいつも言葉に迷ってしまう。その音楽の作られ方は、様式的にまとめてしまえるようなものではなく、また聴くたびに新たな発見をもたらしてくれるものだから。少ない身振りからも濃密な音楽を導き出し、時に身体を左右に大きく揺さぶりながら音楽をどこまでも力強く展開していくマエストロの、長年の経験・知見のこめられた音楽を通り一遍のフレーズに落とし込むのは失礼に思えて、ひとりその感動を噛み締めてスコアを眺め直したりしてしまうのである。
さてこの2月定期でそんなマエストロが取り上げるのは誰もが知っている、と迷いなく言い切っていいだろうジョルジュ・ビゼーの「カルメン」だ。



プロスペル・メリメの原作によるこのスペインを舞台としたオペラはあまりにも広く知られていて、もはや先入観なしに受け取ることこそ難しい。いわくスペイン、いわくジプシー女(ロマ)とバスク男の、ファム・ファタール、転落していく朴訥な男…演出によっては、さらにそれらのイメージが強化されまたは異化されて、「カルメン」というオペラはもはやある種の人間による”神話”のようにすらなっている。
だがしかし、である。たとえばこの作品を称揚したニーチェはワーグナーの対極にある、あまりに人間的なドラマとして高く評価したはずだ(ワーグナーへのあてつけもこめて)。またこの作品の内容、主題、表現が後のヴェリズモ・オペラに与えた影響も忘れてはいけない、過度のロマン性や観念化からは遠いところにこそこの作品の本質はあるはずなのだ。
「カルメン」という作品について原作も参照しつつ突き詰めて考えるなら、「ある男と女の物語」まで還元されうるだろう。朴訥だが決して弱くない男と、嘘つきで欠点の多い、しかしそれでこそむしろ輝く一人の女の物語。そう、きっとこのオペラの本質は、登場人物たちの強いキャラクターやスペインという魅力的な土地を抜きにしても成り立つ、人間の物語だ。そしてそれを彩るのはビゼーの簡潔ながらよく響くオーケストラによるスペイン風の名旋律の数々だ。

オペラとして上演されるときは演出家の視点が入ってくるから、作曲家が示そうとしたものに少なからぬ要素が付加されてくる。そう、例えばこんなふうに…



だが演奏会形式は違う、そこで示されるのは音楽で示されるドラマ、そのものだけだ。
もちろん、歌手たちは無表情で歌うわけではないし、東京フィルのコンチェルタンテ形式上演はオペラをきちんとドラマとして示してくれる。それでも、焦点が普通の上演より音楽そのものに当てられることは確実である。そして東京フィルの2月定期では、その舞台を完全に取り仕切るのが、もはや並ぶものとてそうはいないチョン・ミョンフンの指揮なのだ。彼が選んだキャストたちによって、何よりドラマに強い東京フィルによって「カルメン」の本質が示されることは疑いようもない。幸いにも三日間の公演が予定されているので、ぜひどこかの公演で”チョン・ミョンフンと東京フィルの「カルメン」”を体験してほしいと切に願う。

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さてこれは先ほど紹介した動画の後半である。カリクスト・ビエイト演出によるこの舞台とは全く違う印象になることは、かってにお約束させていただこうと思う。

今回の公演を前に、東京フィルハーモニー交響楽団はSNSを駆使してかなりの情報を発信してくれているので、会場に向かう道すがらにでもぜひご覧あれ。
・東京フィルハーモニー交響楽団 >Facebook >Twitter

あと私からは、メリメによる原作小説を一読されてみることをオススメしたい。私は読後に映画「羅生門」的なオペラ「カルメン」の舞台を想像するほどに、作品の見方が大きく変わった、と思う。

2020年2月9日日曜日

「サエグサシゲアキ1980s」を前に来し方を思った

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」は自動遊球機になったおかげなのか、最近また多く話題に登るようになっている。そんな流れに乗った面もあるのだろうか、間もなく東京交響楽団が演奏会でそのスコアを演奏する。であればガンダム直撃世代のひとりとして何か書いておかねばなるまい。

●東京交響楽団 特別演奏会 「サエグサシゲアキ1980s」

2020年2月12日(水)19:00開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール

指揮:梅田俊明
管弦楽:東京交響楽団

三枝成彰:
  「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988)
  交響曲「動乱」(1980)

1980年代に幼少期を過ごしたものは幸いである、知らぬ間に当時の名音楽家たちの創り出した音に触れていただろうから。今なおご健勝でいらっしゃる、主に特撮で活躍されていた渡辺宙明、すぎやまこういち(「伝説巨神イデオン」、というより今では「ドラゴンクエスト」シリーズか)のような大御所、そして「聖戦士ダンバイン」の坪能克裕(寡聞にして他の仕事を存じ上げなくて申し訳ない)、「重戦機エルガイム」の若草恵のような、また惜しくも亡くなられた羽田健太郎(「超時空要塞マクロス」の仕事の鮮やかさ!なお「イデオン」ではサントラに参加してスリリングなピアノを聴かせてくれている)、…などなどの先達に伍する形で、当時の青少年たちに強い印象を残した作曲家、それが三枝成彰だ※。

※「逆襲のシャア」の頃までの彼は、本名の三枝成章名義で活動しており、おそらくはそこを意識して演奏会タイトルもひと捻りしたものと思われるのだけれど、本文中ではこれ以降もオーケストラに倣って「三枝成彰」と表記させていただく。

本放送こそ低視聴率に苦しみ打ち切られて終わった「機動戦士ガンダム」(以下「ガンダム」)だが、放送開始翌年からリリースされた300円からラインナップされたガンプラが飛ぶように売れ、ガンプラブームから始まったガンダム人気は放送当時のファン層のみならずより若年層までを鷲掴みにした。本編こそ終わっていても再放送は繰り返されたし劇場版も公開、そしてガンプラでもMSVなど新要素の供給もあって「ガンダム」人気は長く続き、それを受けて1985年にはついに「ガンダム」の正当なる続編「機動戦士Ζガンダム」(以下「Ζガンダム」)が放送されるに至るのだ。
「Ζガンダム」のサウンドトラックで一年に渡って三枝のサウンドに触れる、それは80年代にガンプラを作っていた青少年の音楽的義務教育だった、と言ってもただの戯言にはならないだろう。主人公たち青少年の交流を描くシティポップス的軽やかさから恋人たちの想いを描くメロウな旋律、そしてマーラーやショスタコーヴィチにも通じる重厚なサウンドまで駆使して一年の長丁場を楽しませてくれた三枝成彰に、当時の青少年の一人として恩義を感じないわけがないのである。ちなみに当時の彼は40代、その働き盛りにおいて、前作を彩った渡辺岳夫・松山祐士の後を引き継いだのだった。



「Zガンダム」は、「ガンダム」の物語で描かれた地球連邦とスペースノイド(作中では宇宙移民が実現されており、その住まいとして作られたスペースコロニー生活者を指す)の対立として行われた一年戦争が終わった後、地球連邦内の方針違いによる分裂(それも思惑ベースで見ればいくつもの勢力がある)が起こり、またジオン残党の脈動など多数の勢力が覇を競う展開を描く、相当に複雑な話となっていた。主人公目線で見れば”宇宙で始まり地上に降下、そして転戦からの再び宇宙での戦いへ…”という、最近の「機動戦士ガンダムUC」にまで踏襲される定番の展開だったから当時の青少年たちもついていけたけれど、とても複雑な作品なのだ。その複雑さ、スケール感故に「Zガンダム」は多くの青少年を振り落としてしまい「ガンダム」ほどの広い人気を得たとは言えず、それに続いた「ZZガンダム」は複雑に過ぎた前作の印象を払拭するために迷走し…と、人気作を続けるのは難しく、完結させるのもまた難しいのである。それはついに完結した「スター・ウォーズ」を見てもわかることだ。ファンの期待に応えるべきか、それともまた別の道を示すのか。
…と、延々と「Zガンダム」の話ばかりしているといつコンサートの話につながるのかと疑問を感じられてしまいかねないので、そろそろ「逆襲のシャア」の話に移ろう。

「Ζガンダム」が「ガンダム」の正当な続編であったように、「逆襲のシャア」(1988)は”アムロとシャアの物語”として「Ζガンダム」の正当な続編であり、そのサウンドトラックはどちらも三枝成彰が手がけている。ここで一度、アムロとシャアの物語は一つの終りを迎えるのだが、異様なまでに圧縮された物語づくりを得意とする富野由悠季の手腕が本作で頂点を極めた感もあって傑作として長年愛されている。作中数多くのセリフがネットジャーゴンとして流布し、後続の作品が大小数限りなくオマージュを捧げていることはご存知のとおりだ。かく言う私は、無理めなミッションを前にすると本心はさておき一度は「やってみる価値ありますぜ!」と言ってしまいます。心がモブですみません。

さて物語は前作までの展開を受けているから、焦点は「地球連邦は一つの勢力に戻った、あとは宇宙に住むスペースノイドたちをどうするか」となる。そんな状況の中で、なんと「Ζガンダム」でエゥーゴのメンバーとして活躍したクワトロ・バジーナことシャア・アズナブルは、ネオ・ジオン勢力に身を寄せて自らの本来の出自であるキャスバル・レム・ダイクンの名をもちらつかせながらネオ・ジオンのリーダーになっている。つまるところ、アムロのいる地球連邦軍の敵、その親玉になっているのだ。かくして再びアムロとシャアの物語は最初の「ガンダム」と同じ、二人の対立の物語として描かれることになる。
アムロやシャアに加え、サイド6の能吏となっているカムラン・ブルームやブライト・ノアら旧ホワイトベースの面々が時を経て違うポジションで登場する他、ニュータイプ適性のある少女クェス・パラヤ(偽名エア)やブライト艦長の息子ハサウェイ、アムロのメカニックとして活躍するチェーン・アギら新キャラクターも重要な役割で多く登場して地球連邦とネオ・ジオンの最後の戦いが行われる、それが「逆襲のシャア」の物語の大枠だ。
ここまで前提が多く、作中で語られるべき内容も多い、しかし映画はいかんせん尺、使える時間に限界がある。だが前述の通り、その制約の中で富野由悠季はちょっと考えられない密度で物語を描いた。「本来なら半年くらいかけてテレビシリーズで放送すべき内容だったのではないか?」、再見するたび、初見でそう感じたことを思い出す。タイトルが示すとおりシャアがネオ・ジオンでしようとしていること、シャアが本当に求めていたことを軸にして、”アムロとシャアの物語”はここで終局を迎える。


さて本作は「Ζガンダム」の正当な続編なので、音楽も三枝成彰が続投している(実は先ほど少し触れた「ZZガンダム」も彼の作なのだが、なかなか再放送されないせいもあるのかどうにも印象が薄い。ここからは本当に「ZZガンダム」の話はしない)。「Ζガンダム」で聴かせてくれた多彩なサウンドは更に洗練され、また劇場版ということもあってより重厚なものとなっている。その充実ぶりは映画として観てもも十分に伝わるほどだが、単独に音楽としてCDや配信で聴けばさらにその見事さが伝わるものだ。では、それをライヴで聴けばどうなるのか?もしかすると刻が見えたりしてしまうかもしれないけれど、こればかりは会場で体験していただくしかない。
ただ、ひとつ予言しておこうと思う。コンサートの前半のあと、すべての聴衆の脳内では小室哲哉のシンセが、木根尚登のギターが、そして宇都宮隆のヴォーカルが脳内で流れるだろう…(ただし会場ロビーでの歌唱は推奨しません)


エンディングで流れるTMネットワークの「BEYOND THE TIME 〜メビウスの宇宙を越えて」は、先般放送された「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の放送版でもLUNA SEAによるカヴァーで使われた。TMとLUNA SEAの時を超えたコラボは、さしてポピュラー音楽を聴かない私でもちょっと感じ入るものがあった。そうそう、「THE ORIGIN」の再放送もぜひ。

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後半で演奏されるのは、映画「動乱」の音楽から、三楽章の交響曲として編み直された作品だ。最近では吉永小百合と高倉健の初共演として、先日「プロフェッショナル」でも紹介されていたから、興味を抱かれた方も少なくないところだったろう、この選曲はタイムリィだといえる。
この交響曲は過去に井上道義の指揮、藤原真理のチェロ、神谷郁代のピアノ、東京フィルハーモニー交響楽団による録音もあるのだが、今では希少盤ゆえ入手するのもなかなか難しい。だが映画の方ならレンタルなどで比較的視聴しやすいので、気になる方はそちらを見てほしい。この予告も参考になるだろう。


二・二六事件をベースに、架空の登場人物たちのドラマ※を描いた「動乱」(1980)は、「Zガンダム」より古い作品だからそれだけ作曲者も若い。二大スター初共演、そして時代は激動の昭和とこれほどの大作に三枝が抜擢されたあたりにもなにかドラマがありそうに思うけれど、さてそのあたりはどうなのか。
よほどの才気を放っていたのではないか、当時の若き三枝は。そう考えて振り返れば「11PM」の司会をしていたことも相当の抜擢だったのだな、と考えてしまうがこれは余談なのでこの辺で。

※この映画は、どう観ても日露戦争からの日本の歴史をなぞっているのだが、作品の最後に”これは架空の話”と強調しているのである、驚くべし。予定していた原作が使えなかったなどの理由もあるという話ではあるのだが、ここまで旧軍(のように見えるもの)を描いてその姿勢がアリなのか、そこだけは大いに気になる。

作曲された時代がまだ冷戦の真っ最中であること(映画の公開はあのモスクワ・オリンピックの年である1980年だ)を考えれば驚かされるほどに調性的で耳に優しい音楽には、今も変わらぬ三枝の信念が見え隠れするように思う。プッチーニやラフマニノフをさらに濃厚にしたようなメロウな旋律を迷いなく使う手法はオペラを主戦場にした彼の現在の作風にも通じるものだし、内面の機微を室内楽的編成で描き出す親密な音楽から”時代そのものの激動”を描くが如き大編成オーケストラによるスケールの大きい音楽まで駆使することまで、「Ζガンダム」「逆襲のシャア」を経験している私たちはよく知っている。時代的な近さももちろんだが、手法的にも近いこの二作を並べて演奏することの必然性はありすぎるほど、なのだ。

そして、である。先ほど延々と語った「Ζガンダム」のサウンドトラックには、映画「動乱」からの転用がある。音楽を意識しながら映画を観ていると、確かに映像は二・二六事件と思える映像なのだが、音だけを聴いているとティターンズがどこまでも横暴だったり戦闘がモビルスーツで行われていそうな気持ちになる。最終盤の演説だってそうだ、高倉健さんがダカールで正体を明かして支持を求めるのではないかと心配になる。吉永小百合さんが強化されてトラウマから東京の街を拡散ビームで…なんて展開さえ見えてしまいそうだ(やりすぎましたすみません)。
もちろん、作品の成立順では逆なことはわかった上での戯言である。「逆襲のシャア」の音楽をコンサートで聴く機会がある、その気配に反応するたぐいの皆様は、きっとまだ見ぬ映画をもとに書かれた交響曲「動乱」も楽しめます、と申し上げたかった。回りくどくて申し訳ない。ここぞという場面でピアノとストリングスを活かす書法は、「Ζガンダム」「逆襲のシャア」とも共通するものだから、ガンダムファンの各位もきっとこの交響曲からも多くを受け取れることだろう。「動乱」について、個人的にはチェロとピアノの独奏の使い方に注目したい。

腹巻猫(劇伴倶楽部)様の「サントラ千夜一夜」にも転用について言及があります。興味ある方はぜひリンク先でご覧くださいませ、幅広い時代の、あまりにも多くの作品のサントラについて論及されておりますので「Ζガンダム」のみならず気になる作品のものを、ぜひ。
…ちなみに、「動乱」ではこれが楽器編成を変えてそのまま使われています。さあどこでしょうか(知っている人には説明無用のこれ、です)。

いい加減長くなったのでこのあたりでまとめよう。
私たちより少し上の世代なら、佐藤勝や早坂文雄(黒澤映画などでおなじみ)、伊福部昭(「ゴジラ」ほか)、冬木透(「ウルトラセブン」)らの音楽によって問答無用に「日本人によるクラシック音楽」に出会ったのだろうと思う。その出会いが私たちの世代になると三枝成彰や本文中にその名(と作品)を挙げた方々によるものとなるのだろう。2019年にガンダム40周年としてさまざまな企画が登場し、おそらくは私たちと近い世代の福井晴敏が「機動戦士ガンダムUC」やそれ以降の作品で、「Zガンダム」以降の作品からの影響を濃厚に感じさせながら、宇宙世紀の物語の続きを描いてみせた。言ってみれば福井はファンの期待に応える道を選んだわけだ。これは「The Origin」で宇宙世紀の「それ以前」を描いた安彦良和に近い発想と言えるかもしれない、安彦の作品ではシャアが中心的な存在として描かれていることも含めて。しかし一方で、富野由悠季は「Gのレコンギスタ」で新たな世代に向けて、また別の人間たちのドラマを志向した。この両方の道で、「ガンダム」は今なお新しい世界を示しうる、潜在力のある作品でありうることを示してくれた、と言えるだろう。

このように作品としての「ガンダム」は区切りを超えて新たな道を進んでいる、そして今年2020年にはガンプラも40周年、ついに宇宙にまで届こうとしている。「逆襲のシャア」の正統な続編※、「閃光のハサウェイ」の劇場公開も発表された今こそ、「逆襲のシャア」を、その作品を彩った三枝成彰の80年代を振り返るのにふさわしい。それをすべき時があるならば、それはまさしく今なのだ。



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最後に本当に余談。

「Ζガンダム」の頃の三枝は、嘉納治五郎…じゃなくて役所広司が宮本武蔵を演じたNHK 新大型時代劇「宮本武蔵」のサウンドトラックも手がけている。そのテーマ曲は吹奏楽に編曲されてコンクール課題曲として広く演奏されたのでご記憶の方も多いだろう。…だが。テューバにはまっっっっっったく面白くない楽譜に、今に至る「エレキベースやシンセサイザーにやらせたいことはその楽器でやるべき、お願いだから」という信念を形作られてしまったことにだけは、もうテューバを吹いていない今でもお礼は言えない。冗談です。


今ちゃんと聴いてみると、吹奏楽のあれとは相当に違うのだった、テーマ曲。それにしても若いなあ、嘉納治五郎(違)。