2020年2月18日火曜日

かってに予告編 ~東京フィルハーモニー交響楽団 2020年2月定期演奏会「カルメン」

●東京フィルハーモニー交響楽団 2020年2月定期演奏会

2020年2月
  19日(水) 19:00開演 会場:東京オペラシティコンサートホール
  21日(金) 19:00開演 会場:サントリーホール 大ホール
  23日(日・祝) 15:00開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮・冨平恭平) 杉並児童合唱団(児童合唱指揮・津嶋麻子)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト 役名(声域):歌手名の順

カルメン(メゾ・ソプラノ):マリーナ・コンパラート
ドン・ホセ(テノール):キム・アルフレード
エスカミーリョ(バリトン):チェ・ビョンヒョク
ミカエラ(ソプラノ):アンドレア・キャロル
スニガ(バス):伊藤貴之
モラレス(バリトン):青山貴
ダンカイロ(バリトン):上江隼人
レメンダード(テノール):清水徹太郎
フラスキータ(ソプラノ):伊藤晴
メルセデス(メゾ・ソプラノ):山下牧子

かつてチョン・ミョンフンがバスティーユ・オペラ、パリ・オペラ座の監督として活躍していたことは21世紀も20年経ってしまえばもう昔話だろうか。残念ながら私は当時彼のオペラ上演には触れられなかったけれど、その活躍は当時残されたいくつかの録音からも察せられるわけで、羨まし口惜しい限りである。そして現在の彼は、ご存知のとおりフィレンツェやミラノでヴェルディ作品を任されるほどの世界最高のオペラ指揮者の一人であり、東京フィルハーモニー交響楽団の名誉音楽監督として多くの公演に登場してくれている。
彼が東京フィルの舞台に定期的に登場してくれることのありがたみというものを、どう言い表したらいいのか私はいつも言葉に迷ってしまう。その音楽の作られ方は、様式的にまとめてしまえるようなものではなく、また聴くたびに新たな発見をもたらしてくれるものだから。少ない身振りからも濃密な音楽を導き出し、時に身体を左右に大きく揺さぶりながら音楽をどこまでも力強く展開していくマエストロの、長年の経験・知見のこめられた音楽を通り一遍のフレーズに落とし込むのは失礼に思えて、ひとりその感動を噛み締めてスコアを眺め直したりしてしまうのである。
さてこの2月定期でそんなマエストロが取り上げるのは誰もが知っている、と迷いなく言い切っていいだろうジョルジュ・ビゼーの「カルメン」だ。



プロスペル・メリメの原作によるこのスペインを舞台としたオペラはあまりにも広く知られていて、もはや先入観なしに受け取ることこそ難しい。いわくスペイン、いわくジプシー女(ロマ)とバスク男の、ファム・ファタール、転落していく朴訥な男…演出によっては、さらにそれらのイメージが強化されまたは異化されて、「カルメン」というオペラはもはやある種の人間による”神話”のようにすらなっている。
だがしかし、である。たとえばこの作品を称揚したニーチェはワーグナーの対極にある、あまりに人間的なドラマとして高く評価したはずだ(ワーグナーへのあてつけもこめて)。またこの作品の内容、主題、表現が後のヴェリズモ・オペラに与えた影響も忘れてはいけない、過度のロマン性や観念化からは遠いところにこそこの作品の本質はあるはずなのだ。
「カルメン」という作品について原作も参照しつつ突き詰めて考えるなら、「ある男と女の物語」まで還元されうるだろう。朴訥だが決して弱くない男と、嘘つきで欠点の多い、しかしそれでこそむしろ輝く一人の女の物語。そう、きっとこのオペラの本質は、登場人物たちの強いキャラクターやスペインという魅力的な土地を抜きにしても成り立つ、人間の物語だ。そしてそれを彩るのはビゼーの簡潔ながらよく響くオーケストラによるスペイン風の名旋律の数々だ。

オペラとして上演されるときは演出家の視点が入ってくるから、作曲家が示そうとしたものに少なからぬ要素が付加されてくる。そう、例えばこんなふうに…



だが演奏会形式は違う、そこで示されるのは音楽で示されるドラマ、そのものだけだ。
もちろん、歌手たちは無表情で歌うわけではないし、東京フィルのコンチェルタンテ形式上演はオペラをきちんとドラマとして示してくれる。それでも、焦点が普通の上演より音楽そのものに当てられることは確実である。そして東京フィルの2月定期では、その舞台を完全に取り仕切るのが、もはや並ぶものとてそうはいないチョン・ミョンフンの指揮なのだ。彼が選んだキャストたちによって、何よりドラマに強い東京フィルによって「カルメン」の本質が示されることは疑いようもない。幸いにも三日間の公演が予定されているので、ぜひどこかの公演で”チョン・ミョンフンと東京フィルの「カルメン」”を体験してほしいと切に願う。

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さてこれは先ほど紹介した動画の後半である。カリクスト・ビエイト演出によるこの舞台とは全く違う印象になることは、かってにお約束させていただこうと思う。

今回の公演を前に、東京フィルハーモニー交響楽団はSNSを駆使してかなりの情報を発信してくれているので、会場に向かう道すがらにでもぜひご覧あれ。
・東京フィルハーモニー交響楽団 >Facebook >Twitter

あと私からは、メリメによる原作小説を一読されてみることをオススメしたい。私は読後に映画「羅生門」的なオペラ「カルメン」の舞台を想像するほどに、作品の見方が大きく変わった、と思う。

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