2020年3月20日金曜日

かってに予告編 ~東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第113回

他団体に先駆けて行われた東響の、そしてびわ湖ホール「リング」の配信は、人々の音楽を求める声の大きさを、我々聴き手も音楽家の皆さんも強く認識する機会になったと感じる。新型コロナウイルスが世界的パンデミックとみなされるようになった今、世界でも各地で配信を積極的に行うようになったを踏まえれば、今回の危機的状況に対して東京交響楽団(とその本拠地であるミューザ川崎シンフォニーホール)が選択した”音楽によってコミュニケーションを取り続けよう”という姿勢の妥当さが示されたと言えるのではないか。初回に10万、二回目に7万という大勢がミューザでの東響のサウンドに触れてくれたことは、その素晴らしさを降りに触れて表明してきた私にとってもこの厳しい状況下で喜ばしいニュースとなった、と感じる。

その無観客演奏会の配信の大成功によって、日本のクラシック音楽界の注目を一身に集めた東京交響楽団がついに主催演奏会の再開を決めた。このことは賛否があるのだろうが、私は支持する。
生物としての存在を脅かされるCOVID-19も危険なことは疑いようのないことだが、それに由来してなんの補償もない”自粛”を続けることで経済的・社会的生物としての私たちも殺されてしまいかねない。そのバランスを取りながらできることをし、してはいけないことを避ける、今はそれくらいしかできることはない。私はそのように考える次第だ。

こんな当たり前のことを真剣に言揚げする必要がなくなる日が早く来てくれることを心より願っていることも付言しておく。さて、その演奏会開催のための詳しい注意事項もオーケストラからは発信されているので、来場されるすべての方がご一読されることを私からもお願いしたい。と、演奏会を問題なく開催するためのご案内はここまで。

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●東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第113回

2020年03月21日(土) 14:00 開演 会場:東京オペラシティコンサートホール

指揮:飯森範親
チェロ:新倉瞳
管弦楽:東京交響楽団

ラヴェル:ラ・ヴァルス
ファジル・サイ:「11月の夜想曲」チェロと管弦楽のために(新倉瞳による委嘱作品)
ラヴェル:
  道化師の朝の歌
  スペイン狂詩曲
  ボレロ

東京交響楽団の正指揮者として、数多くの演奏会に登場してきた飯森範親は、本年度を持ってそのポストを降りる。…だが4月からは特別客演指揮者として今後も共演を続けていくので飯森と東響の関係が大きく変わるわけでもないように思うが、今度の演奏会が一つの区切りとなることは疑いようもないことだ。その演奏会で飯森は、ラヴェルの作品を集めたプログラムを披露する。数々の新作や知られざる傑作の初演(日本初演含む)を手がけてきた飯森と東響のひとつの区切りがこのような選曲になるというのはちょっと不思議な気もするのだが、東響の精緻なアンサンブルはラヴェルにはよく似合うし、飯森の高い読譜力はラヴェルのスコアを最適な響きに編み上げてくれることだろう。

こんな感傷的な気分も高雅に受け流し(おい)さて何を書こうかと考えつつプログラムを見ていて、ラヴェルとサイの組合せによって昼と夜の、明と暗のコントラストが繰り返し示されることに気がついた。綺羅びやかな舞踏会の幻想(ラ・ヴァルス)から「11月の夜(想曲)」(これはやはり”11月の階段”を踏まえた題なのだろうか)へ、そしてまた(道化師の)朝、から夜への前奏曲から舞曲を経て祭りの狂騒へ(スペイン狂詩曲)。こう並べられるとこの文脈で「ボレロ」をどう捉えたものか、そんなことを考え始めてしまうのが私の癖なのだ。
しかしここで結論を引き伸ばすこともないだろう。会場の静寂に刻まれ始めるリズム、そして次第に高揚しその頂点で終わるこの音楽を、この文脈では「真昼」に至る作品と受け取りたい。


 …こう書いてきて、この読みを導いたのはこのバレエの記憶のせい、と思えてきてしまった。飯森と東響の”ラストダンス”、完全燃焼を期待しよう。

いちおう、穏当な話も。ラヴェル作品はすべて舞踏を想定した作品である。もちろん、千鳥足の酔漢の足取りを舞踏と言ってしまうことには異論もあろうと思うけれど、ラヴェルが描き出すこの道化師の足取りから耳目を離せないのも皆様ご存知のことと思う。この観点からは、”ラストダンス”説がより強められるわけだが、より広く東響のプログラミングを見てくれば「2月川崎定期のスペイン・プログラムへのレスポンス」(ヴァラエティに富んだスペインもの!…はっ!「スペインの時」につながるか←それは無理筋)など読みももちろん可能だ。久しぶりのコンサートで私自身が何を受け取れるものか、大いに楽しみにしている。

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さてテレビのCMに出ていたり、ドレスのプロデュースをしてはいても、新倉瞳はガチの音楽家である。今回初演される※ファジル・サイの作品も彼女による委嘱である。眉目秀麗な異性だからと音楽的評価をしにくくなる、というのは悪しきルッキズムなので克服しましょう(←私への注意喚起)。

この新作については、現時点ではSNSにアップされたリハーサル映像でほんの一部が聴けるだけなのだが、サイの作品を知る人ならおなじみの”空気”を感じさせる作品であるように思える。



初演であれば予習のしようもないところなので、ここはひとつ私が大好きなパトリツィア・コパチンスカヤによるヴァイオリン・ソナタでも聴いてその”空気”を感じておいてください(ただのゴリ押し)。



さあ久しぶりの生音、存分に楽しませていただきましょう。ご来場の皆様、くれぐれも万全の準備をされますよう。もちろん私も万全の体制で臨む所存であります。

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