2012年6月4日月曜日

マリア・フォシュストローム アルト・リサイタル(5/25)の感想


こんにちは。千葉です。

先日伺ったコンサート、いろいろと触発されることも多くあるのですが、まずはそのレビューのみ先にアップします。速報の部とその影響の部、切り分けないといつまでもアップできないことに気がついた、のであります…無念。

◆マリア・フォシュストローム アルト・リサイタル

2012年5月25日(金)19:00開演

会場:洗足学園音楽大学 講堂

アルト:マリア・フォシュストローム
ピアノ:マッティ・ヒルボネン

曲目:

シューベルト:
  春の想いD.686
  鱒D.550
  糸を紡ぐグレートヒェンD.118
  君こそわが憩いD.776
  魔王D.328
  即興曲変ト長調Op.90-3D.899-3
ペッテション=ベリエル:
  待ち時間は特別なもの
  憧れは私が受け継いだもの
  君ゆえの悲しみ
グリーグ:
  六つのドイツ語の歌Op.48より
世の常、青春の日々、夢
  山の娘Op.67より
逢引き、小山羊のダンス、イェットレの小川で
マーラー:告別(「大地の歌」より、作曲者によるピアノ伴奏版)


え~、コンサートのレヴューをここから始めるのは無粋かとは存じますが。
こんなけっこうなものを、さらに歌詞付きマリア・フォシュストロームさんのエッセイ付きのプログラムまでいただいたのに、無料で聴かせていただけましたことについて、アーティスト側各位に加えて洗足学園大学さま、そして伊藤康英様に多いに感謝している旨、御礼申し上げます。昨今の貧窮生活ではこのようなことがなければ聴くこと能いませんでしたことは確実ですから、望外の機会をいただきましたことには本当に感謝しております。今日のレビューの範疇を超えてしまうので多くは書きませんけれど、ようやく歌曲の公演の楽しみ方がわかったようにも思えた昨晩の公演にはいくら御礼申し上げても言い尽くせません。

さてそれでは本編へ。
会場の洗足学園大学講堂は500名弱収容の小ホール、ですがおそらくは大編成を乗せられるようにと横幅がかなり大きく作られた独特の形状、音響はかなりドライ。そうですね、同じ大学のホールでもすこし前に伺った慶應義塾大学三田キャンパスの協生館藤原洋記念ホールなんかに比べたらだいぶ優しくない(笑)そう、音大の設備ですものね、細部までの聴取を容易にするためかも。なるほどぉ、と独り合点していますが真偽のほどはどうなんでしょうね(笑)。
あ、洗足学園大学の名誉のために申し添えますが、普通の公演用には近年作られた前田ホールという立派な設備がございますので、そちらはもっともっと優しい音響条件なんではないかと。まだ伺えてないので想像ですけど(笑)。

その音響、率直に言って声楽公演にはかなり優しくない、と思うのです。指向性の強い声という楽器を美しく響かせるのに、会場はあまり助けてくれない。実際、冒頭のシューベルト、二曲めの途中くらいまでは若干、演奏者にも客入れした会場でのベストの響かせ方が見つかっていないように感じられました(こちらが慣れていなかった可能性は否定しませんが、座席的にはかなりいい位置をとっていましたのでおそらくはそう見当違いではないかと)。ですが三曲目「糸を紡ぐグレートヒェン」からは歌については文句なし、よく鳴っていらっしゃいました。コントラルトの声域からイメージされる重さ、深さよりもむしろ輝かしいフォルテの美しさが印象的でした。ピアノについては蓋をフルオープンにして独奏した即興曲以降は音響的には問題なし、だったかと。

先ほどは文句ばかり言いましたが、講堂だからこそのメリットもあったんです。座席が机状になっているので、詩を読みながら聴くことに全く無理がないのはまさに僥倖、でした。実は有名なシューベルト作品にしてもそんなに馴染みがないんですよ、千葉は。「魔王」なんて通しで聴いたの、小学生の音楽の授業以来じゃないかなぁ…
で、ですね。マリアさんの歌を聴きながら詩を目で追いながら、しみじみと「これもまた語りものなんだな」、などと思っていたのです。演奏者の側で会場の感覚がつかめたように思えた「糸を紡ぐグレートヒェン」もそうですが、それこそ何役かを兼ね役でこなす一人芝居の如き「魔王」はもちろん、その他の一人称的なものもそうでないものも、ドラマの一場面のように受け取ることができて、ようやく自分に拭い難くある歌曲のコンサートに対する苦手意識が薄れた、かもしれませぬ。ピアノ独奏なのにシューベルトの即興曲はもう歌詞のない歌を聴いているような感じになってましたからね、少し自分、開発できたかもしれません。

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で、ですね。一番の目的はメインの、「大地の歌」の終楽章「告別」の、マーラー自身によるピアノ伴奏版です。そのために久しぶりに管弦楽版のスコアとか取り出して来ちゃいましたからね、けっこう準備しましたよ!(まさかそのタイミングであんな訃報が届くとは思っていなかったけど…それはまた別途)

今回のツアーパンフレットに掲載されている、ご存知前島良雄さまの解説より部分的に引用しますと「ピアノ伴奏による6曲の歌曲からなる壮大な連作歌曲として書き始められたが、途中からオーケストラ伴奏が並行して書き進められ、歌詞も一部書き換えられた」という過程を経て成立した「大地の歌」は、言うならばふたつの「正典」がある、特異な作品なんですね。その割にピアノ伴奏版があまり演奏・録音されていないのは、その「発見」が1987年だったからで、その後…という話はまた別途。

昨日演奏された「告別」は、普通の歌曲と言うにはあまりにも規模の大きい30分弱の大曲。オーケストラ伴奏でも演奏は容易ではないのに、ピアノ伴奏って大変じゃないの?っていうかこの曲の空気を長丁場を、二人で示すのは大変では?と思っていましたが、演奏を聴いての感想はひとこと、感心いたしました、です。オーケストラ版とは違う、しかし"本物"の「大地の歌」が確かに聴こえた、そう感じています。

オーケストラ版は、その小さからぬ規模の管弦楽との演奏ということからも、より大きな世界との対峙とでも言えそうな構図が前提的にあります。世界内存在の卑小さを知り、それを受け入れて生きていく個々人のドラマを一幅の山水図の中に見る、とでも言いましょうか。この「告別」も登場する個々人にとっての大事なれど、より大きな時の流れの中で何度も出来し、また巡りくるのだろう事柄に直面しているような不思議な距離感がある、と千葉は耳にするたび感じます。
それに対して先日聴くことができたピアノ版は、より生々しい、親密な対話を感じました。「世界」とでも言い換えられそうなオーケストラの超越的な伴奏とは違う、より個人的で赤裸々な。歌はほとんど変わらないのに、ここまで感触が変わるものかと、大いに感じ入り考えさせられるものでした。ことマリアさんの歌う「告別」であれば、オルガンによる伴奏で収録された素晴らしいマーラー・アルバムがあるわけですが、そこで聴くことができる歌唱ともまた違う、いい意味でより「感情的」な歌を聴かせていただいたように思います。


Maria Forsstrom/Mahler Songs [MRSACD018]

その歌に対峙するマッティ・ヒルボネンの雄弁さ、実に見事なものでした。率直に言ってしまいますが、独奏の即興曲でピアノの蓋を全開にするまでは音色にも表現にもどうも物足りなさを感じていましたが、それ以降はむしろ自由で踏み込んだ表現に感心させられることが多く、「伴奏」と書くのは申し訳ないように思える共演ぶりでした。特にもいわゆるお国もの、ペッテション=ベリエルの自由さは、初めて聴く作品を十分に楽しませてくれました。

ことマーラーについてはこれまたオーケストラ版との対比になりますが、オーケストラが醸し出すある種の客観性※とは明らかに異なる、より直截的に感情に訴えるピアノにより紡がれる音楽として、耳慣れたこの曲が慣れ親しんだのとは別の形で聴こえてきました。なるほど、もうひとつの「オリジナル版」は違う顔をしているのであります。

※この「客観性」は多人数で構成されるオーケストラという編成が持つ制約故にそのような表現にならざるを得ない、というところもありましょう。どちらが上だとかそういう良し悪しで書いているつもりはございませぬ。

ということで歌手とピアニスト二人によるマーラーは、まさに二人の「対話」として現れた「告別」はまさに音楽による対話、ひとつの別れのドラマとして受け取る事ができたように思います。であれば、その終わりのあと、拍手により区切られたあとにはアンコールがあってもよかろうというもの(笑)。
まずはプログラムでも演奏されたグリーグの「山の娘」より小山羊のダンス。歌もピアノも自由自在、でした。
そして何度かのカーテンコールのあと、楽譜を手にして登場したマリアさんいわく「9時までにこの会場を出ないといけないそうなのだけれど」と内輪のご挨拶の後、この公演に尽力された伊藤康英先生の「貝殻のうた」を歌ってお開きに。時間はたぶん、20時65分くらいだったんじゃないかな(笑)。千葉はささっと帰宅いたしました故、その後のことは存じませぬ、ご容赦のほど。

ということでコンサートの感想は終了。自分で見なおしてみてそうね、うん、「これならもう少し早くアップしろよ!」という内容でお送りいたしました。反省します…ではまた。




コンサート前後に触発されて、上掲の盤に加えてこれらの録音を繰り返し聴いております。オーケストラ版、ピアノ伴奏版、そしてシェーンベルク&リーンによる室内楽版。なんというか、「大地の歌」像が変わってきている、と思います。

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