こんにちは。千葉です。
予定より遅くなりましたが、前回の続きをこちらに。ではどうぞ。
(承前)
ジョナサン・ノットからのプログラム解題に続いて、ノット監督とともに東響の刺激的で魅力的なプログラムを作り上げている辻敏・事務室長からノットの言葉を裏打ちするような示唆が多く与えられたことも興味深い。一例をあげれば、昨年11月に披露された「リゲティのメトロノームのための作品に始まりショスタコーヴィチに終わるプログラム」は彼独自の興味深い演奏会となったが、このプログラムについて興味深い裏話が披露された。あのコンサートで演奏された交響曲第一五番か、もしくは第一〇番とどちらかを今回の欧州ツアーで演奏する候補と考えていたのだ、という。けっきょくは第一〇番がツアー曲目となったのはご存知のとおりだが、その前にまずはコンサートでショスタコーヴィチを演奏しておこう、そんなつもりもあって昨年のプログラミングはなされていたのだという。これはあくまでも一例で、彼らのプログラミングは一つの演奏会で完結するものではなく、ときには数年のスパンで組合せを考えているのだという。
そういった趣向と配慮あるプログラミングは、ノット監督がその着想を熱心に説いてくれた新シーズンの「変奏曲」プログラムについても同様だが、「私たちはいろいろと考えてプログラムを編むけれど、演奏を聴いて何を感じるのも皆さんの自由です、それぞれに楽しんでほしい」とも辻氏は語る。即興性を語るマエストロ、そして聴衆の自由を語る辻氏のコンビは、これからもよく考え抜かれた興味深いプログラムで私たちを楽しませてくれることだろう。
また、シーズンのノット監督以外のプログラムについては豊山覚・企画制作本部長から紹介された。まず、来シーズンは数々の公演で印象的な合唱を聴かせてきた東響コーラスが創設30年を迎えることに言及し、9公演に登場することを紹介し、また来シーズンも数々の日本初演を行うことを紹介した。桂冠指揮者の二人を除くとノット監督と同世代のマエストロが揃った定期演奏会について、また名曲全集や新潟定期演奏会など、各地でそれぞれのプログラミングで興味深い演奏会が行われることにも触れた。
川崎、東京、そして新潟各地で2017/2018シーズンも興味深い演奏会が行われることだろう、とこの日出席した誰もが思ったことだろうけれど、シーズン全体の公演についてここで全てを書ききることは難しい。幸い、現在は東京交響楽団の公式サイトでコンサート情報が掲載されているので、詳しくはリンク先でご確認いただければと思う。
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この日、最後に行われた質疑応答で”東京交響楽団という”日本のオーケストラの特色”を問われてジョナサン・ノットはこう語った。
「メンバーのスキルは非常に高いし、どんな演奏をしようと試みてもついてきてくれます。リハーサルで私が奏者の誰かに作品の構造を示せば、他のメンバーもそれを理解して自発的に演奏が変わっていくようになり、アンサンブル意識も高まっています。
課題をあげるなら、すでに一番目の声部はもう十分に大きい声で主張していますから、これからは第二、第三の声部がもっと主張してくれれば、と思います。具体的には中低音域がより充実したサウンドになるように求めていますし、その方向に向かっていると感じています。今すでに発揮されているリズムへの鋭敏なセンス、そして何よりメンバー全員が準備して演奏会に臨んでくれる現在に、さらに”自由”を持ち込めればよりいい音楽が作れるだろう、そう確信しています。」
この日のジョナサン・ノットの言葉からは、ツアーを前にしていたからだろうか、端々に”旅”が意識されていたように感じられた。これから行う欧州ツアー、プログラミングから見える旅、そして一つの作品の中にある旅。それらをひとつずつ、毎回を大切に重ねてきたノット&東響の旅は最初の共演からもう5年となる。この日登壇した諸氏から語られた数々の言葉は、その旅の最初の頂点のひとつとなるだろう欧州ツアーの成功と、来るべきシーズン4の充実を確信させるものだった。あとは”旅”の無事を祈るのみ、である。
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この日、会見冒頭に大野順二・楽団長はノット監督への愛を存分に語り、その上で団としてもっとノット監督の要求に応えられるようになりたい、と現在の好調(に感じられる)数々の演奏会から考えると意外にも思える、向上心の塊と評したくなるような言葉が連続していたことを思い出す。あらかじめ打合せたわけでもないだろうに、マエストロともども東京交響楽団の現在と未来について存分に語ってくれたわけで、図らずも現在のマエストロと楽団の相思相愛ぶりが示された会見となった。シーズン3もいよいよ佳境を迎えるノット&東響の旅は、来シーズンから契約更新の新年度を迎えてこの先10年続く、長い道のりだ。今からでも遅いということはない、ぜひ一人でも多くの音楽ファンに、この旅路を共にしてほしいと思いを強くした会見だった。
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以上で会見のレポートは終わりです。その後のツアーについては、どこかで何か書けるといいのですが。各地でほぼ満員の聴衆に迎えられ(ロッテルダムだけ会場が大きかったせいもあって埋まらなかった、とか)、好表裏にツアーは終了しています。そして先日書きました、名曲全集→定期演奏会→新潟定期演奏会と、帰国後早々に演奏会をこなした東京交響楽団の皆さまは、その中から40名弱が次なる舞台、東京二期会の「ナクソス島のアリアドネ」に出演されるわけです(人数が少ないのは作品そのものが小編成だから、ですよ。詳しくは会見とコンサートのレポートの記事をご覧あれ)。
記事本文に当たる文中でも書きましたが、ノット監督のプログラミングはひとつのコンサートで閉じてしまわない、開かれたものになっているのが一つの特色です。この11月にシモーネ・ヤングを招いた演奏会とオペラを聴く人は、ジョナサン・ノットが12月におなじく演奏会とオペラで登場したとき多くのことを感じ取ることでしょう。なにせチェロ協奏曲を演奏すること、ロマン派の交響曲で終わることまで、鏡合わせのようなプログラムを東京交響楽団はこの二ヶ月の間演奏するのですから!それにシモーネ・ヤングの主な活躍の舞台はオペラですし、ノット監督のキャリアはオペラハウスで始まっているのだから、二人のオペラが面白いものにならないわけがない。ツアーを経た東響を確かめるもよし、一つ一つのコンサートやオペラを存分に楽しむもよし、10年先までを見据えていろいろと思いを巡らすもよし、それこそ自由にお楽しみくださいませ。かく言う千葉が、この二ヶ月の東響に期待し、楽しみにしているのです、きっと誰よりも!(笑)
ということで会見の記事はおしまいです。ではまたごきげんよう。
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