2017年5月16日火曜日

読みました:フランツ・バルトロメイ「この一瞬に価値がある ~バルトロメイ家とウィーン・フィルの120年」

こんにちは。千葉です。
読み終わった本のご紹介です。

●この一瞬に価値がある ~バルトロメイ家とウィーン・フィルの120年


三代にわたってウィーン国立歌劇場、そしてウィーン・フィルで活躍する音楽家一家の三代目バルトロメイ(その書き方いけない)による一族の歴史を語る本です。それはそのまま、当事者による120年以上にわたるウィーンの音楽史の一コマでもあるわけです。これは本当に興味深いものでした。

初代はクラリネット奏者として、ボヘミアのチェコ語地域からウィーンに転じてマーラーの時代に(!!)国立歌劇場、そしてフィルハーモニーで活躍することになります。ちなみにマーラーはドイツ語地域の出身なので、同胞意識ではなく演奏の技量において選ばれたと考えていいでしょうね。彼の系譜がオッテンザマー父子にまで続く、ウィーンのクラリネット演奏の伝統を作っているというのですから、生ける歴史なのです、バルトロメイ家は。

二代目はヴァイオリニストとしてフィルハーモニーの副団長をも務め、後ウィーン交響楽団の監督としても活躍されたという異色のキャリアの持ち主です。その演奏活動、キャリアも興味深いのですが、彼の場合はその生きた時代が二つの大戦に、そして冷戦期に重なるものだから否応なく歴史をめぐる物語としても読めてしまうのが、彼個人には本当に大変だったろうと思いつつも興味深く勉強になります。たとえば、彼が敗戦直前にウィーンを離れていたことをもってナチ党員排斥の対象として選ばれてしまうあたり、トーマス・マンやエーリヒ・コルンゴルトに対する戦後の反応を思い出させられるものです。もっと大物のナチ党員も所属しているのに(戦後も!!)、入団のため一時的に入党した彼が団を追われる羽目になるのだから、戦後処理とは悩ましいものです。そのあたり興味のある方はぜひ本書をご覧ください。

そして著者である三代目、チェリストのフランツ・バルトロメイは1970年代から2012年までウィーン国立歌劇場、そしてフィルハーモニーで活躍されたわけですから、彼の活動時期は日本のクラシック音楽ファンが「ウィーン・フィルハーモニーの演奏」として聴いてきたもののほとんどの時代をカヴァーすることでしょう。カラヤンが来たり来なかったり(笑)した結果ベームが復帰して、またバーンスタインがよく来るようになって、たまーにカルロス・クライバーが登場して…といった時代から、サー・サイモン・ラトル、ニコラウス・アーノンクールらとの仕事までを当事者として振り返ってくれています。本書のタイトルもまたアーノンクールの言葉で、バルトロメイ氏がもっとも感銘を受けたものだと言うのですから本当に最近までご活躍された方なのだと思わざるを得ません。
そんな彼が語るマエストロたちの話は実に興味深く(以下繰り返し)。

さらに繰り返しになりますが、私ごときがどうこう書くより、興味のある方には本書を読んでいただくのが一番いいと思いますので、紹介はこれでおしまいです。最後にフランツ・バルトロメイの演奏をお楽しみくださいませ。



ではまた、ごきげんよう。

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