2017年1月12日木曜日

書きました:第18回 都響マエストロビジット

こんにちは。千葉です。

また寄稿させていただいています。ちょっといつもとは毛色の違う、アウトリーチ活動のレポートです。


クラシック音楽に限らず文化的行為は、現代においては演奏など本筋の活動をしていればいいというものではない、なんて言い方をよくされます。オーケストラはその最たるもののひとつでしょう。社会的な存在であることからも演奏以外のなにかを多く要求される、なかなか難しい立ち位置になっています。自治体が有する財産として長年活躍してきた団体を切り捨てることがコストの面だけから判断して優秀な自治体運営とみなされる時代ですから、「何々をしていれば安泰」なんてことはもうない。演奏の質も、アウトリーチの内容も、その時点の”成果”でのみ期待され測られ、場合によっては捨てられる。

ここをお読みいただいている方でもそうした判断を肯定される人もいらっしゃるのだろうと予想します。しかしながら、物事にはそれぞれに”射程”というものがある。トレーディングのように瞬間の判断で利益損益が明確になるものもあれば、世代を超える長い時間をかけてようやく成果が示されるものもある。
たとえば、教育はどうですか。「その場で子どもたちが教わった内容を理解した」イコール成果ではありませんよね?(この論理で考えるなら「教育において予備校こそが正しいあり方である」という結論になる。いや、学校運営において教師と事務職を分離しているのは正しいと思いますけど)教育を受ける期間を終わって何年も経って、社会に彼ら彼女らの影響が出始めてからようやく当時子どもたちだった人々の教育について、事実に基づいた評価ができるようになる。
例がひとつだと足りませんかそうですか。ではインフラの評価はどうですか、数万年単位の後始末が必要となる発電方法とかいりませんかそうですか。

冗談はさておいて、物事にはそれぞれに射程があるのです、という話。音楽において演奏はその場で生まれでて消えていくものだけれど、そのための”時間”は演奏時間どころではない。作曲家がその音楽を作り出す時間、演奏家がその力量を身につけるまでの時間などがあって成し遂げられた事々があって、はじめて演奏会が開かれるための準備ができる。出演者が決まってプログラムが編まれで、リハーサルをしてコンサートを開くことができる。時間だけではなく、多くの投資がすでに行われて文化的活動は行われているわけで。いまはまず前提としての職能や資産の話をしましたが、根本のところには価値判断が含まれているのだから、話を簡単にしては議論そのものが成り立たないのです。シンプル・イズ・ベスト、ではない物事はあるのです。あたりまえですけど。

こういう「前提について問う」内容のことを申し上げれば、記事やこの文を公開する前から「そもそも論かよ」「考えがまとまってから書け」というご意見反論が私ごときでも想像できます。そりゃあ当然です、答えがあるなら知りたいです。ですが、こうして問うことそのものに意味があると思うから千葉は書くのです、それが無意味だとは思いません。試行錯誤の前段で施行/思考を止めてしまったらそれこそ無意味ではありませんか?問いからしか始まらないもの、あるんですよ。

話がそれました。記事の中でも書きましたが、都響は演奏と教育を共に重視することで、過去からの蓄積に向き合いつつ現在の聴衆に応え、そしてさらに存在してくれるかもしれない未来の聴衆、音楽家の育成に取り組んでいます。その働きは多面的な評価ができるものと考えますので、願わくはお読みいただいた皆さまがそれぞれに考えていただければと思います。千葉個人としては、クラシック音楽を無用物扱いするたぐいの価値観に同意することはありません、とのみ。あとは自分が書く文章から、あり得べき姿や希望を読み取っていただければ幸いです。

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話が長くなりすぎた気がしてきましたのでひとまずこの文章はおしまい。最後に、こういうことを考える時私の脳内を駆け巡る曲をご紹介して〆ましょう。
長く一線で活躍するミュージシャンで、自作をかなり大事にして代表盤は何度となくリイシューし、ベストアルバムに収録しているピーター・ガブリエルですが(バラカンさん風にゲイブリエルとは呼んでなかった世代)、いくつかのサウンドトラックでの仕事はバラけたままになっている印象があります。「Wall-E」のエンディング曲とか、どこかのベスト盤に入れてくれないかなって。そんな曲の中に、新世紀を迎えるにあたってロンドンで上演された「OVO: The Millenium Show」の最後の曲、「Make Tomorrow」があります。シングルカットもされていないし、英国外では知られていないパフォーマンスなんだとは思うんですけど、すっごく好きな曲なんですよねこれ。そんなに英語に堪能でもないし、ポップスはほとんど歌詞を聞いていない私でも、この曲は耳に残ったし、今も繰返し聴く曲のひとつなんですよね。「Making Tomorrow,Today」と繰り返すフレーズが耳に残る、いい曲なのでひとつ動画でも…と探したけどYouTubeには公式のもない。前述のとおりシングルカットされていないからミュージックヴィデオもない(昔はプロモーションヴィデオ、ヴィデオクリップとか言ったもんじゃよ)。惜しいなー口惜しいなー…ということでリンク先で聴いてみてね。自己責任で。

ということでこの記事はここまで。ではまた、ごきげんよう。


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