2017年1月28日土曜日

アンリ=ルイ・ド・ラ・グランジュ(音楽学)死去

こんにちは。千葉です。

訃報です。

●Henry-Louis de La Grange est mort, disparition du plus grand spécialiste de Gustav Mahler

アンリ=ルイ・ド・ラ・グランジュが亡くなったとのことです。
グスタフ・マーラーという指揮者にして作曲家に強く興味を惹かれた方ならばこの名をご存知でしょう。…と説明を省こうかと思ったら、wikipedia日本語版にはページすらなかった。なんという…(英語版はこちら



この著作ですら普通には買えないのか、と余計に悲しくなってきました。本については出版社のサイトをご参照ください、「日本でのみ出版された貴重なマーラー論集」とのことですが、膨大な彼の仕事からピックアップして再編集したものですので入門書と考えていただいてもいいのではないかと。未だに修正されない感が強いグスタフ・マーラーのイメージ、”病弱で自らの死に怯えて生きた”とか”予言的自伝的作曲が”どうとか、そういう言説に研究と論証で戦われた方です。そのお仕事の一端が、エリアフ・インバルとフランクフルト放送響(現hr交響楽団)の全集との関わりの中で紹介されているこちらの文章をぜひご参照くださいませ>[この一枚 No.43] ~インバル/マーラー交響曲全集とアンリ=ルイ・ド・ラ・グランジュ~(日本コロムビア)

あまりに大部にすぎるゆえか、未だ日本語版が現れないマーラーの評伝(フランス語版で全三冊)など彼の仕事の評価は高く、正しく第一人者でいらっしゃいました。合掌。

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ドナルド・ミッチェルによるマーラーの交響曲を読み解く著作も三冊目がいつまでも出版されず(20年くらい待っているような気がする)、マーラー研究は日本では人気がないのかね、いつまでもアルマさんの自分語りを信じてマーラーを受容するのかね…なんて失望してしまいそうになりますが、幸いにして日本にはマーラー理解に大きく寄与してくださる前島良雄さんがいらっしゃいます。



以前お会いできた際に「”君に捧げるアダージョ”よりケン・ラッセルの方がマーラー本人の姿に近いのでは」「マーラーが交響曲で描く”ドラマ”は自伝ではなく”虚構”では」などなど、いろいろな疑問をぶつけさせていただいたことは楽しい思い出であります。

…こんな話をすると、もしかすると私が話をそらして、ことさら明るい面を見ようとしたがっていると感じられるかもしれません。ですが学問や研究のたぐいは先達の積み上げたものを知り、その先へとさらに進んでいくものです。先達が次々と亡くなられていく感覚は心細くはありますけれど、生きているうちはその心細い歩みを続けるしかないのでしょう。

わかったようなことを偉そうに口走ったところでひとまずはおしまい。ではまた、ごきげんよう。

1 件のコメント:

  1. 英語版の第1巻は1973年に出版されていて、その後仏語版の3冊が出され、それから英語版の2~4巻が出されました。私が英語版の第1巻を手にしたのは1976年でした。まだ半分ほどしか読めません。

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